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アンパンマンは世界の入り口
「かせきのまおう、ちょっとこわい」
2歳半になる息子、今朝の第一声である。
彼は2歳前からアンパンマンにどハマりし、キャラクターが網羅された「アンパンマン大図鑑」をバイブルのように毎日見ている。特に好きなのは、バイキンマンが作った踏み潰しロボットの「だだんだん」。アンパンマンやしょくぱんまん、カレーパンマンといった正義のヒーローキャラよりも、バイキンメカなどいわゆる悪役キャラが「気になる」らしい。
かせきのまおうも、アンパンマンに出てくるキャラクターの一人。
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こんなの↑
ちょっとどころか普通に怖くない?
口から吐く息でみんな化石になっちゃうんだよ。
太陽の光を浴びると消えちゃうのTHE悪役って感じじゃないですか?
でも息子はそんなのにはお構いなし。「ちょっと怖い」のも好きらしく、これをはじめ、「ブラックノーズ」「氷の女王」「黒バラの女王」などもよく口にする。別にアニメや映画を見ているわけではなく、絵本もお話を聞かないので、単純にビジュアルが好きということらしい。でも、アンパンマン大図鑑のおかげでかなりのキャラクターを知っている。
私はそれを見るのに付き合っていて、アンパンマンのキャラクターってなんて安直なネーミングなのだろうと思っていた。「名犬チーズ」とかはまだいい。「かつぶしマン」とか「しらたまさん」とかさ。もうちょっと捻った名前をつけてあげればいいのにな、と。
でも、ある日。スーパーに買い物に行くと、カートから野菜売り場を指差し、息子が言った。
「ナガネギマンの長ネギ!」
…合っている。束になった長ネギが売られている。
ちなみにナガネギマンは、ネギを作っている方言混じりのおじさん、ネギーおじさんが変身した正義の味方。ナガネギマンは仮面を取られると、本性がバレてカッコ悪いから力が出なくなってしまうらしい。なかなか親しみの持てるキャラである。ちなみに語尾はネギ。「正義は必ず勝つネギ」!
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また別の日。豆腐を食べ渋る息子に、「鰹節かけてあげようか?」というと目を輝かせた。
「かつぶしまんの鰹節?」
「そうそう、かつぶしまんの鰹節!」
たっぷりかけてあげると、息子は喜んで鰹節を食べる。
「かつぶし、おいし!」
違う、豆腐豆腐!悪戦苦闘の末、一応豆腐も食べてくれた。
ちなみに(しつこい)かつぶしまんとは、剣の修行をしている武士のキャラ。猫が苦手なの面白い。鰹節で出汁をとった蕎麦を振る舞うお蕎麦屋さんをすることもある。アンパンマンショーでは「かっかっかっかっ鰹節!」と笑っていた。独特。
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かつぶしまんは右下の剣士。ちなみに後ろの方にいるのが息子最推しのだだんだん2号。
フラワー姫のフラワーランドに住んでいるユリさん、アネモネさん、チューリップさん、スイセンさんを覚えたから、息子はユリやアネモネやチューリップやスイセンという花があることを知っている。
エクレアさんをみて「エクレアは、食べれる?」と聞いてきたから、エクレアはどうやら美味しいものらしいと知っている(君が食べるにはまだ早いと伝えている、チョコだからね…)。
息子は知らないものが苦手だ。これは2歳の特性なのかもしれないが、一度やったことのあるもの以外にはなかなか手を出さないし、初めてのものを前にするとじっと固まっていたりする。
たくさんたくさんいるアンパンマンのキャラクターたちは、食べ物や動植物や、自然や日常の中のさまざまなものを、その名前に持っている。だから、キャラクターを覚えることで、息子の日常の中に「知っているもの」が増えていく。その「知っているもの」をきっかけに、新しいことやもの、場所が楽しめるようになることもあるのだ。
アンパンマンのキャラクターが安直な名前なのは、たぶん他の候補を考えていないわけじゃない。子どもがなるべく色々なものの名前を覚えやすくなるように、あえてそのままの名前をつけてくれているのだろう。長ネギと言ったらナガネギマン、鰹節と言ったらかつぶしまんというように、自分が知っているアンパンマンの世界とつながることで、現実の世界が怖いものではなくなっていく。…ありがとうアンパンマン………!!!安直とか思ってごめんなさい…!!!
アンパンマンとそのキャラクターたちで構成される息子の世界は、どんなふうに見えているのだろう。カラフルで、賑やかで、なんだか楽しそうである。現実の私は、毎日アンパンマンのキャラクターの話をされるのにたまに辟易しつつ、相槌を打ちつつ、息子の世界を見てみたいなあと、ちょっとだけ思う。