Periphery 『PeripheryIII:Select Difficulty』(2016)
アメリカ合衆国出身のプログレッシブ・メタル・バンド。
言わずと知れた「Djent」という言葉を一般的に広めたMisha Mansoorが中心となって結成されたバンドである。
2005年、当初Misha MansoorはMeshuggahのフォーラムや様々なポータルで音源をアップし、ネット上で知名度を得ていたいわゆる「インターネットミュージシャン」だった。
当時からBulbというハンドルネームを使用し、それが現在のアーティストネームにもなっている。
2008年よりバンド活動を開始。
Meshuggah崇拝が絶対条件で、さまざまなミュージシャンとワンタイムプロジェクト的に音源をリリースし、最終的にギタリスト3人体制でメジャーデビューすることに。
2010年、Sumerian Records(アメリカ)、Distort Entertainment(カナダ)、Roadrunner Records(オーストラリア)、Century Media Records(ドイツ)など各国のレーベルよりデビュー・アルバム『Periphery』を発売すると同時にボーカリストはSpencer へ変更。
アルバムはビルボードチャートで200位以内に入る高評価を得た。
2011年、『Icarus EP』をリリースするも、ギタリストとベーシストが脱退。
新たにギタリストにMark Holcomb、ベースにAdam "Nolly" Getgoodを迎え、新体制で2012年、『Periphery II』を発表。
このアルバムはMishaがデビュー前から書き溜めていたマテリアルを集大成したような内容。
2014年、EP『Clear』をリリース。
単独公演も行い初来日を果たすと、翌年、初のコンセプトアルバムである『Juggernaut alpha』『Juggernaut Omega』を2作同時リリース。これまでとは異なり、メンバー共作というスタイルで製作されている。
Mishaのソロプロジェクトからバンドとしての体をイメージした作品。
本作は、2016年に発表された『PeripheryIII:Select Difficulty』で、前作より、よりテクニカルに、より複雑に、そしてスポンティニアスに進化を遂げた一枚。
アルバムタイトル通り、理解するための難易度はかなり高いが、バンドの真髄に触れるためには避けては通れない名盤となっている。
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* Spencer Sotelo – lead vocals
* Misha "Bulb" Mansoor – guitar, synths
* Jake Bowen – guitar, synths
* Mark Holcomb– guitar
* Adam "Nolly" Getgood – bass, guitar
* Matt Halpern – drums, percussion
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■The Price Is Wrong
過剰すぎる音数と急激なストッピングを散りばめ、大地を揺るがすグルーヴに満ちた重低音を容赦なくぶつけてくるテクデス。
■Motormouth
アンサンブルが乱雑寸前の如く飛び回る複雑怪奇な前半と、クリーンボイスを軸に突如整然とアレンジがまとめ上がる後半をカオティックに繋ぎ合わせた聞く方にも理解能力が求められる難易度の高い曲。
マスコアやプログレという言葉だけでは片付けられないコンプレキシティが厳然と存在する。
■Marigold
緊張感のあるストリングスと情報過多な細切れリフが渾然一体となって襲いかかり、SpencerのシャウトとクリーンVoがそれに追随するプログレメタル。
Djentという言葉に最も愛着を持つ者が放つ、The Djentlyな一曲。
■The Way the News Goes...
クリーンギターと「歌う様な」Voが印象的な一曲。
正直、Voも楽器の一部の様に曲の隙間を埋める役割だったが、この曲では、楽器隊の奏でる音塊の海の上をしっかりとサーフィンしてシンガロングしている気がする。
■Remain Indoors
実験的な電子音をまぶしながら、エモ的なアプローチを試みつつ、ダウンチューニングされた図太い低音ギターリフを主役に据えている。
盛り上がって欲しい所で進行コードがほとんど変化しないという歯痒さもあるが、多分Periphery を聞く時にはそれすらいい裏切られ方として許容すべきなんだとも思う。
■Habitual Line-Stepper
7分近い尺の長い曲。
プログレ系では珍しくはないが、ただそれを長く感じるか、短かく感じるかは詰まっているフレーズの美しさやメロディの印象深さによると思う。
その意味で、やや長さを感じてしまった。
感情爆発系のエモフレーズが少し顔を出すも、惜しい寸止めが多く、もっとグルーヴィさが欲しかった。
Spencerの歌声は鳥肌立つほど上手いのに。
■Flatline
メタルコアの開放感、暴力性とマスコアの複雑性がちょうどよくマッチした高品質チューン。
無意味にシャウトすることも無く、無駄なギターソロもなく、意味のある複雑性が出来上がっている。
■Absolomb
変態的変拍子が絶好調のプログレメタル。
Spencerの高音シャウトと、それに重なる様にエモいギターが入り込んでくる1:55〜あたりの開放感はもはやメロスピ。
■Catch Fire
至極のグルーヴィーメタルコア。
キラキラシンセも効果的に散りばめてきてます。
複雑な曲が居並ぶアルバムの中でエモの要素が強く、聴きやすい。
■Prayer Position
Bulb、Jakeが生み出すグネグネとうねるようなカオスリフを軸に、攻撃性を全面に出した一曲。
Spencerのデスシャウト、エッジボイス、クリーンボイスも満遍なく炸裂し高クオリティなプログレを感じられる。
■Lune
ストリングスを多めに配置し、壮大に展開する荘厳チューン。
カオティックなフレーズや情を置いてけぼりにするようなテクニカル過ぎる瞬間もない。
ただ、ギターが掻き鳴らされて、クワイヤが鳴り響く重厚なエンディングがそこにある。
総合満足度 85点