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AIのべりすと怪文書『その男の名はランスロット』

 劉邦は素っ裸で、家の寝室で寝ていた。
「あれ? なんで俺はこんな所で寝ているんだ?」
 彼は昨晩の事を思い出してみる。確か、松永久秀の家で飲み会をやってたんだよな……と、劉邦は思い出す。そこからの記憶が曖昧なのだが、どうやら飲み過ぎたらしい。
 彼は、家に帰ってきてから記憶がない。どうやって帰ってきたのかすら覚えていないのだ。
「うーん……二日酔いだ……」
 劉邦が頭を抱えながら起き上がると、目の前に見知らぬ女性が立っていた。
「おはようございます」
 透き通るような声で挨拶をする女性を見て、一瞬見惚れてしまった。美しい黒髪の女性だった。年齢は二十代前半くらいだろうか? その女性は笑顔で劉邦を見つめていた。
 誰だろう? 彼の愛人戚夫人とは明らかに別人だし、正妻の呂雉とも当然別人だ。
「えっと……どちら様ですか?」
「私は韓信の妻です」
 彼女はそう言って微笑みを浮かべる。
(妻!?)
 その言葉を聞いて、劉邦は驚く。韓信といえば自分の部下である。あの男は暇な時は狸小路をぶらぶら歩いているようだが、まさかこのような美人妻がいるとは知らなかった。
「えっと……貴方も飲み過ぎちゃったんですか?」
「いえ、違いますよ」
 韓信の妻を自称する女は首を横に振る。
「それじゃあ、どうして俺の家にいるんですか?」
「それはですね……」
 韓信の妻を名乗る女が説明しようとした時、寝室の扉が開いて一人の男が入ってきた。
「おい、大丈夫か?」
「お前こそ大丈夫なのか?」
 心配そうな表情をしている男に向かって、劉邦は訊ね返す。
 この男は項羽。天下無双の猛将であり、彼と劉邦の関係は要するにトムとジェリーである。
「ああ、問題ない。それよりもお前の方は大丈夫なのか?」
「いや、ダメっぽい」
 劉邦は苦笑しながら答える。
「それで、この方は誰なんだ?」
「私の名前は楊喜と言います」
「ふむ……」
 項羽は少し考えてから言う。
「ところで、この女は何者なのだ?」
「さぁ……?」
 劉邦と項羽は顔を見合わせる。
「実はですね……」
 楊喜と名乗る女性は事情を説明する。それによると彼女は韓信の妻であり、マネージャーでもあるという事であった。
「つまり、俺達は皆して酔っぱらってここに来たわけか」
「そういう事になるな」
 二人は納得したように呟く。
「とりあえず着替えたらどうだ? そんな格好では外に出られないぞ」
 言われてみれば、二人の服はかなり乱れている。とても外には出られそうもない有様だった。
「そうだな。悪いけど手伝ってくれないかな?」
「いいですよ」
 こうして三人は協力して服を着替える事にした。着替えが終わると、三人ともリビングに集まった。
「それにしても驚いたぜ。まさか、韓信にあんな美人の奥さんがいたなんてな」
「まあな。だが、俺の虞姫だって負けてはいない」
 項羽は自分の妻・虞姫の自慢をする。
「へぇ……どんな人なんだい?」
 劉邦が興味深そうに尋ねる。
「一言で言うなら最高だ! 虞は素晴らしい女性だよ!」
「へぇ~」
「まず、料理が上手だ。特に肉じゃがなんか絶品だな。あと、チーズタッカルビとシュクメルリとストラパッツァーダとかいう料理が得意だな。それから……」
 その後も延々と虞美人の長所を述べ続ける項羽であったが、「分かった、もう充分だから」と言って劉邦は話を遮る。

 その頃、韓信は狸小路を歩いていた。彼は普段から一人で行動する事が多く、今日も例外ではなかった。
「さて……そろそろ帰るとするかね」
 時刻は既に夕方になっている。韓信は自宅に帰る事にしたが、その途中で一人の美女と出会った。その女性の名はエレイン。円卓の騎士ランスロットの事実上の妻であった。
「あら、韓信じゃないですか」
「おお、これは麗しのお方」
 韓信は大仰な態度で礼をする。
「こんな所で会うとは奇遇ですわね」
「全くです」
「ところで、これから何か予定はありますか?」
「これから家に帰ろうと思っているのですが……」
「そうですか……それは残念です」
「申し訳ありません」
「いえ、謝る必要などありませんよ。ところで、お詫びとして私のお願いを聞いてくれませんか?」
「どのような事でしょう?」
「私と一緒に食事に行って下さい」
「分かりました」
 こうして韓信はエレインと共に食事をする事になった。その様子を遠くから観察している人物がいる。松永久秀だった。
(ほぉ……あれが噂の女か……)
 久秀は目を細めて二人を観察する。
(しかし、あの男は一体何者なんじゃ?)
 韓信は劉邦の部下である。その妻が芸能人だという事は、彼の経歴からして可能性は低い。そうなると、あの女性はタレントではなくマネージャーだろうか?
(まあいいか。とりあえず尾行を続けるとしよう)
 そう決めると、久秀は尾行を再開する。

 一方、韓信はエレインに連れられてレストランへと向かっていた。そこは彼女の行きつけらしい。
「ここよ」
 彼女が案内したのは、札幌の繁華街にある小さなイタリアンの店である。店内は清潔感があり、居心地の良さを感じさせる空間になっていた。
「素敵な店でございますね」
「気に入ってくれたみたいね」
「はい、もちろんですとも」
「それじゃあ、入りましょうか」
 二人は中に入る。そして、予約していた席へと向かう。テーブルを挟んで向かい合う形で座った後、メニュー表を開く。
「私はいつもこのコースを注文するの」
 エレインはメニューの中から、いくつかの料理を指差す。
「なるほど、このセットならば色々な料理を楽しめますね」
「ええ、そうなの」
「では、私も同じものを頼みます」
「ありがとう」
 こうして韓信とエレインは料理とドリンクのオーダーを終えた。
「ところで、どうして私をお誘いになったんですか?」
「実は……貴方に相談したい事があるんです」
「相談……? いったいどのような内容なのでしょう?」
「実はですね……」
 エレインの話によると、彼女は最近ある悩みを抱えているという。それは、ランスロットが浮気をしているのではないかという事であった。
「ほう……そのような事が……」
「はい……だから、真相を確かめるためにも彼に直接訊いてみようと思うんですよ」
「そうですか……それで、真実を知る覚悟はあるのですか?」
「あります!」
 エレインははっきりと言う。
「そうですか……では、私が協力できる範囲で力になりましょう」
「本当ですか!?」
「はい、勿論です」
「嬉しい! 本当に感謝します」
 エレインは嬉しそうに言う。その時、店員がやってきたので二人は料理を食べ始める。
「このサラダ美味しいですよ」
「どれどれ……」
 二人は料理の味について語り合ったりしながら、楽しい時間を過ごした。
 食事を終えて店を後にした二人は、タクシーに乗って自宅へと向かった。
「今日はとても楽しかったです」
「こちらこそ」
「また機会があれば一緒に食事に行きたいものですな」
「そうね」
 そんな会話を交わした後、エレインは自分の家に辿り着いた。

 韓信は自宅に帰り着くと、妻の楽波が出迎えてくれた。
「お疲れ様」
「ああ、ただいま」
「お腹空いているでしょう? すぐにご飯を作るわね」
「頼む」
 こうして韓信は、久しぶりに妻との夕食を楽しんだのであった。

 翌日、韓信は出勤すると、真っ先に上司の蕭何の元へ報告に行った。
「おはようございます」
「おお、韓信。今日も早いな」
「昨日は早く寝たので」
「そうか、それなら良い」
「ところで、今日は仕事の事でご相談があるのですが」
「ん……? 何かあったのか?」
「実はですね、妻に頼まれまして」
「奥さんに? 何をだね?」
「それが……ランスロットの浮気調査をして欲しいとの事です」
 韓信の言葉を聞いた瞬間、蕭何も他の同僚達も同時に硬直する。
「……今、なんと言った?」
「ランスロットの調査をしてくれと、妻から依頼されたのです」
「……何故、そのような事を?」
「どうやら、彼は最近、女遊びが激しいらしくて……」
「そうか……だが、それは君の勘違いではないのかね?」
「いいえ、間違いありません」
 韓信はきっぱりと否定する。
「そうか……分かった。とりあえず調べてみるとしよう。ただし、あくまでこれは業務の一環だと忘れないでくれよ」
「分かっています」
 こうして、韓信はエレインの依頼を引き受ける事になったのであった。

 それから数日後、韓信はエレインから連絡を受けた。
「調査の結果が出たわ」
「おお、早かったな」
「当たり前じゃない。この程度の仕事なんて、一時間もあれば充分だから」
「そうか……ちなみに、結果はどんな感じだったんだ?」
「やっぱり、ランスロットは複数の女性と付き合っているみたい」
「やはりか……」
「それに、アーサー王陛下の奥方グィネヴィア王妃と密会していた事も確認できたわ」
「ほぉ……それは興味深い情報だ」
「しかも、それだけじゃなくて……他にも円卓の騎士の女性を何人も口説いていたみたい」
「マジか……あいつ、とんでもないプレイボーイじゃないか」
「全くね。信じられない話よ」
「それで、君はどうするつもりなんだ?」
「勿論、彼には制裁を加えるつもりよ」
 エレインは強い口調で言う。
「具体的にはどうやって?」
「それはもう決まっているじゃない。彼の浮気現場を押さえるのよ」
「なるほど……」
 韓信は納得する。
「という訳で、これから彼の行動を監視してくれるかしら」
「了解した」
 こうして、韓信はランスロットの行動を監視する事となったのである。

 エレインに言われた通り、韓信はランスロットの行動を逐一チェックしていた。そして、彼が外出する時は尾行して後をつける。その結果、彼は複数人の女性とデートしたりホテルに入ったりしている事が判明した。
 それだけではなく、ランスロットは円卓の騎士の一人であるガウェイン卿の妻ラグネルとも関係を持っていた事が判明したのである。更に、ランスロットがエレイン以外にも複数の女性と関係を持っている事は、既にエレインも把握済みであった。
「ランスロットめ……! こんなにも浮気をしていたとは……」
 韓信は怒りを露にする。
「このままでは、ますます許せん!」
 そう言うと、韓信はエレインの元へと向かった。
 エレインの家を訪れた韓信は、彼女の部屋で話をする事にした。
「エレイン殿、例の件についてなのですが」
「ええ、分かっているわ。貴方の言いたい事は全て理解している」
「ならば話は早い。私は貴方のために力を尽くしたいと思います」
「ありがとう。でも、大丈夫なの?」
「心配は無用です。これくらいの修羅場など、これまで何度も潜り抜けてきましたから」
「そう……なら任せるわね」
 こうして、韓信はエレインの協力の下、ランスロットへの制裁を実行する事に決めた。
 まず最初に、韓信はランスロットと会う約束を取り付けた。場所は、ランスロットが宿泊している高級ホテルの一室である。

 韓信が部屋のドアを開けると、そこにはすでにランスロットの姿があった。
「よう、韓信。今日はいったい何の用だ?」
「お前に伝えておきたい事がある」
「何だよ? もしかして愛の告白とか?」
「違う! お前の悪評を聞いているぞ」
「俺の? どういう意味だ?」
「しらばっくれるな! 女遊びが激しい上に不倫までしているそうだな!?」
 韓信は大声で怒鳴った。すると、ランスロットは一瞬だけ表情を変える。
「なんだよ……その程度の事で呼び出したのか?」
「そんな事だと? 俺にとっては重要な問題だ」
「はぁ……くだらない。俺は自分の好きなように生きているだけだ。それの何が悪いんだ?」
「悪いに決まっているだろう!」
「ふん、うるさい奴だ。まあ良い……とりあえず座れよ」
 ランスロットに促され、韓信はソファに腰掛ける。ランスロットはベッドの上に寝転がると、タバコを吸い始めた。
「おい、灰皿は無いのか?」
「無い」
「ちっ……使えない野郎だ」
「文句があるのであれば、自分で持ってくれば良かったではないか」
「そうか……それもそうだったな」
 ランスロットは立ち上がると、備え付けの冷蔵庫の中からガラス製のコップを取り出して、その中に水を入れて戻ってきた。
「ほらよ」
「すまない」
 韓信は受け取った水を一気に飲み干すと、大きく息をつく。
「それで、他に何かあるのかい?」
「ああ……実はな、ある人から依頼されてお主の事を調べていたのだ」
「誰だ?」
「そう……エレイン殿からの依頼でな」
「あの女か……どうせろくでもない女なんだろう?」
「いいや、彼女は素晴らしい女性だ。だからこそ、私は彼女の力になりたいと思ったんだ」
「へぇ……そりゃまた随分とお優しい事だ」
「だが、いくら何でも限度というものはある。エレイン殿は泣いていたぞ」
「はん、知らんね」
「貴様……!」
 韓信は拳を握り締める。
「だいたい、あんたが俺をどうこうしようが勝手だけどさ……それを他人にまで押し付けるのは止めてくれないか?」
「他人の迷惑を考えろと言っているんだ」
「それは無理な話だな」
「何故だ?」
「だって、他の連中は皆、俺よりも劣っているからな」
 ランスロットは嘲笑うかのように言った。
「それに、この世界は弱肉強食なんだぜ。弱い者は強い者に喰われる運命なんだ。それが自然の摂理ってものだ」
「貴様という男は……」
「だから、別に俺は間違った事を言っているつもりはないね。むしろ、正しい。それに、俺は楽毅よりもはるかに優れた男だ」
「貴様!」
 韓信は激昂し、ランスロットをぶん殴る。
「ぐはっ!?」
 ランスロットは壁に叩きつけられた。
「ふざけるな! お前みたいなクズが楽毅より優れている訳がない! 彼の功績に比べれば、お前のやった事はただの暴虐だ!」
「……」
「もう我慢できない! エレイン殿に代わって、俺がお前を成敗してくれる!」
 韓信は剣を抜いて構えた。
「ふっ……面白いじゃないか。やってみろ!」
 ランスロットも剣を抜き、戦闘態勢に入る。こうして、二人の戦いが始まった。
 ランスロットと韓信の戦いは、激しい攻防が繰り広げられた。互いに一歩も譲らず、互角の勝負を繰り広げる。しかし、次第に体力の差が出始めてきた。
「くそ……!」
 ランスロットの方が先に疲れを見せ始める。
「これで終わりだ!」
 韓信は渾身の一撃を放った。ランスロットはその攻撃をまともに受けてしまい、その場に倒れ込む。
「ぐうぅ……」
 ランスロットは立ち上がろうとするが、体が思うように動かない。
「まだ戦う気なのか? 無駄な抵抗は止めるんだ」
「黙れ……!」
 ランスロットは何とかして立ち上がったが、もはや限界寸前であった。
「くっ、殺せ……!」
「分かった」
 韓信はランスロットの心臓を一突きする。ランスロットはそのまま倒れた。
「ふん、口ほどにもない奴め」
 韓信は剣を引き抜くと、その場を後にした。

 その後、エレインの元へと戻った彼は彼女に対して謝罪を行った。
「申し訳ありません、エレイン殿。私のせいでこんな事になってしまって」
「気にしないで下さい。貴方のせいではありませんから」
「しかし……」
「それよりも、貴方には感謝しています」
「え?」
「私のために戦ってくれてありがとう。貴方のおかげで、私は大切な事に気づく事ができました」
「エレイン殿……?」
 韓信が戸惑っている間に、エレインは彼に向かってキスをした。そして、耳元で囁くように言う。
「ねぇ……今夜、私の部屋に来ない?」
「エレイン殿……!」
 韓信は顔を真っ赤にして動揺していた。
「いけません! 私には愛する妻がいるのです。ですから、そういうのは困ります」
「大丈夫よ。愛なんて所詮は幻想に過ぎないわ。だから、そんなもの捨てちゃいましょう」
「いや、しかし……!?」
 その時、部屋のドアが激しく叩かれた。
「何だ!?」
 二人が驚いていると、ドアの向こう側から声が聞こえてくる。
「韓信さん、そこにいるのですか!?」
「この声は、まさか……」
 韓信とエレインが困惑していると、部屋の中に入ってきたのは他ならぬ楽毅だった。
「楽毅殿……どうしてここに?」
「話は後です。今は逃げて下さい!」
「逃げるって、いったいどこへ?」
「とにかく、ここから離れなければなりません。急いで準備をしてください」
「分かりました」
 楽毅の言葉に従い、二人は荷物をまとめてホテルから逃げ出した。

 それから数日後、楽毅は韓信を呼び出した。
「韓信殿、今日はあなたに謝らなければならない事があります」
「どうしましたか、急に改まって」
「実は先日、あなたの身辺調査を行った際に、ある人物と接触している事が判明したんです」
「ある人物?」
「はい、その人物はランスロットと名乗っていましたが……実は偽名なんですよね?」
「え!?」
 韓信は驚いた表情を浮かべる。
「ど、どういう事なのでしょうか?」
「あの男は、以前から問題行動が目立っていました。それで、あの男の素行を調査していたところ、とんでもない事実が発覚したんです」
「それは?」
「あの男の正体は、かつて指名手配されていた凶悪犯なんです」
「なんと……」
「さらに悪い事に、彼は自分の仲間を何人も集めておりましてね。その中には、前科持ちの犯罪者ばかりなんです」
「それじゃあ、今回の件は……」
「はい、間違いなく彼らの仕業でしょう。彼らはあなたを誘拐し、人質にするつもりだったようですね」
「そうでしたか……ご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした」
「いえ、こちらこそ。もっと早く気付くべきでした」
 こうして、事件は解決したかに見えたのだが……。

 その後、楽毅の元に一通の手紙が届いた。差出人はランスロットとなっている。
『親愛なる楽毅殿へ』
 手紙の冒頭には、そのような文面が書かれていた。
「これは!?」
 楽毅は慌てて封を開け、中身を確認する。そこには驚くべき内容が記されていた。
『楽毅殿、突然このような形でお別れする事になってしまい、大変心苦しく思います。しかし、私はもう長くは生きられない身体なのです。実は先日の事件の際に受けた傷が原因で、余命わずかとなってしまったのです。そこで、残された時間を有意義に使うために、私は旅に出る事に決めました。今まで本当にありがとうございました。さようなら』
「そんな馬鹿な……」
 楽毅は愕然とする。
「ランスロットが死んでいたとは……」
「では、彼の言っていた事は嘘だったという事なのですか?」
「おそらくは……」
「でも、何故そんな事を?」
「分かりません。ただ、一つだけ気になる事があるとすれば、彼が最後に残した言葉です」
「最後? 確か、『エレイン殿によろしく伝えてくれ』と言っていましたよね」
「ええ。しかし、気になりませんか? なぜ、エレインさんの名前を知っていたのか」
「確かに……」
「それに、エレインさんが言っていました。『私とランスロットは昔付き合っていた時期があった』と」
「つまり、ランスロットとエレインさんは面識があった可能性があるという事ですか?」
「あくまで可能性の話ですよ。しかし、そうなると疑問が生じてきます」
「疑問と言いますと?」
「エレインさんの話では、エレインさんは昔から結婚願望が強かったそうです。なのに、彼女は未だに独身のままだと聞いています」
「言われてみれば、不思議ですね」
「はい。もし仮に、エレインさんが過去に結婚していたのであれば、今も幸せに暮らしているはずではありませんか。それなのに、今の彼女からは幸福感を感じられません。むしろ、何かに怯えているように見えるのです」
「もしかすると、エレインさんには何か秘密があるのかもしれませんね」
「ええ。私もそのように考えています」
「いったい、彼女の過去には何があったというのだろうか……?」
 楽毅はしばらくの間、黙り込んでしまった。

 その頃、韓信は一人きりで暮らしていた。妻の楽波は韓信が行方不明になった事でショックを受け、体調を崩してしまったのだ。そのため、現在は韓信が家事を行っている。
 ある日の事、韓信は楽毅から呼び出された。
「楽毅殿、どうかされたのですか?」
「韓信殿、大変な事態が発生してしまいました」
「いったい、どうしたというのですか?」
「実は、例の男が脱獄したらしいんです」
「何ですって!?」
「しかも、それだけじゃないんです。あの男は自らの犯罪歴を偽装し、別の名前を名乗っていました。そして、その正体を隠したまま、新たな人生を歩んでいこうとしているのです」
「なんて奴だ!」
「その男は指名手配されていました。その手配書を見て、私の上司は驚きの声を上げていましたよ」
「まさか、その男の名前は?」
「はい、ランスロットと名乗っていました」
「!?」
 韓信の顔色が青ざめる。
「まさか、ランスロットの狙いは……?」
「はい、おそらくはあなたの命を奪う事でしょう。だから、あなたは絶対に一人で外出しないで下さい」
「分かりました」
 韓信は大きく溜息をつく。どうやら、韓信にとって長い一日が始まりそうだ。

 あれから数年後、韓信と楽毅は二人で酒を飲み交わしながら昔話をしていた。
「あの時は本当に大変だったな」
「ええ。でも、今となっては良い思い出ですよ」
「まあ、それも悪くはないな」
「ところで、あの時、ランスロットの言っていた事を覚えていますか?」
「ああ、『エレイン殿によろしく伝えてくれ』と言っていたな……」
「そういえば、そのエレインさんとは連絡を取っているんですか?」
「いや、全く取っていないんだ」
「どうしてですか?」
「実は、ランスロットが死んだ後、しばらくしてからエレインさんと再会したんだよ。その時はお互いに驚いたものだ」
「それで、エレインさんは何と?」
「彼女は俺に感謝の言葉を述べていた。『ランスロットを止めてくれたおかげで、私は今でも生きていける』と言ってくれたよ」
「それは良かったですね」
「だが、彼女はまだ心のどこかで苦しんでいるように見えた。おそらく、過去のトラウマが彼女を蝕んでいたに違いない」
「なるほど。そういう事情でしたか……」
「そこで、俺は彼女に『あなたはもう自由の身なんだ。自分のために生きてほしい』と言った。すると、彼女は涙を流しながら感謝してくれたよ」
「きっと、嬉しかったのでしょうね」
「それからは、彼女とは会ってもいないし、連絡も取ってはいない。ただ、元気に暮らしていてくれるといいのだが……」
「大丈夫ですよ。彼女ならきっと……」
 こうして、二人は夜遅くまで語り合った。彼らの未来が明るいものである事を願いながら……。

『その男の名はランスロット』(完結)

【Valerie Dore - Lancelot】

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