人間讃歌は『勇気』の讃歌ッ!!|ミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』感想
※この記事は第1部ファントムブラッドのネタバレはもちろん、第2部以降ジョジョシリーズのネタバレが入っているのでご容赦ください。みんなもジョジョを読んで!!
当方、ジョジョラー(古の呼称)歴も10年は超えまして、作品の歴史からすればひよっこですが、多感な時期をジョジョと共に過ごしました。私にとって青春の漫画です。
そんな私がミュージカル化の一報を聞いて、歓喜と同時に不安もあり、ただとにかくジョジョの世界が広がることを心待ちにしていました。
初日は残念ながら観られずでしたが、無事観劇することは叶ったのでここに感想を記します。
クリエイティブ感想
脚本
観劇したときは後述しますがディオをだいぶ人間らしくしたなという印象で、わかりやすくジョナサンとディオの対立構図になっていた。「巨悪の存在となったディオを倒すために奮闘するジョナサン」というのが原作の印象で、ミュージカルは「何かが違えば友情もありえた、どうしようもなく運命の2人の対峙」という印象。ミュージカルを観た後に改めて原作を読むと、そういった見方もあるなと思える場面も多くて、改めて原作の奥深さを知った。本当にミュージカル化してくれてありがとう…。
演出・振付・舞台
波紋を!人で!?ってビックリしたけど、ズームパンチが本当に腕が伸びたように見えたので感動した。メメタァ!
効果音もちゃんと音を載せてくれているところが、ジョジョの特徴である擬音を大切にしてくれていて嬉しかった。ズキュゥゥゥン!
館でのジョナサンとディオの対峙シーン。壁歩きディオは開幕前から楽しみにしていた要素だったので、なるほどー!!となった。
石仮面から!刃が!ちゃんと出たッ!
生首ディオは残念ながらかなり観客の想像任せではあった。初見であのディオが生首だけの姿とはわからないと思う…。でもあんな自在に動く生首は実写でどうやって表現しろって言うんだ、とも思う。
衣装
ディオのパンツinブーツのシルエットが完璧!!ディオの歩き方の再現度が高いなと思ったのは、あの衣装にもあると思う。膨らみがまさに原作っぽい…!
ウインドナイツ・ロットでは原作と違いなぜかずっとコートを羽織っていた気がするけど、記憶に自信がないのでもう一度観劇した時に確かめたい。
音楽
作曲がドーヴ・アチアと知った時は「勝ったッ!」と思った。オシャレな中に癖のある、耳から離れない曲はジョジョの世界観にぴったりだと思ったから。
実際に大勝利した。メメタァソング、スピードワゴンのラップというユニークなものもあれば、黄金の精神、生まれついての悪のように神話のような曲まで、ジョジョの世界に違和感の無い素敵な曲ばかりで本当に嬉しかった。
これは私の思い込みが強すぎるせいかもしれないけど、ちょっとアニメの劇半っぽいイントロもあったりして、そこも嬉しかったな。
原作ファン的に…
思いの外、第1部以外の箇所からも引用や匂わせがあったりして、ジョジョ好きにはニヤニヤする作りにはなっていた。
ディオにとっての母親の存在はスピンオフ小説の「OVER HEAVEN」を思い出すし、決戦前の「過程」と「結果」の話、作中からは星と泥の話の派生なんだろうけど、どうしても第5部の「結果」だけを残す能力をもったボスと対峙する主人公ジョルノを思い出さずにはいられない。
スピードワゴンが「一巡するまでこの物語は語り継がれる。ただそれを語るのは私ではない」のようなことを言ったときは嗚咽するかと思うほどの感動があったし、パンフレットでM32のタイトルが「世界が一巡しても語り継がれる物語」と知った時は鳥肌が立った。
私はジョジョの「受け継がれる意思」というところを非常に魅力的に感じていて、第1~6部、第7~9部の主人公がそれぞれジョースターの血縁の中にあるというところ、前の部の出来事が後の部に大きく影響があるというところが面白さだと思っている。
なのでミュージカルでも、ファントムブラッドだけで完結してもいいところを、続いていく世界線として描いてくれたことが本当に嬉しかった。
キャラクター感想
ジョナサン
私の中のジョナサンって、勢いでまっすぐかけぬけていくまさに銃機関車のような男のイメージ。あとは狂気に感じるほどの純粋さかな。
ミュージカルのジョナサンは、少年期の甘ちゃんだったところから紳士に至るまで書かれていたり、圧倒的なパワーみたいな描写はないので、地に足ついた人になったな~という印象。
ラスト、ディオの手を掴んで、諌めるように奥へと消えていくジョナサン。観劇したときは「ジョナサンがディオをそんな風にちゃんと抑え込めてたらDIOが暴れることもなかっただろうによォ」と少しモヤっとしたけど、後からよくよく考えると、あれはジョナサンではなく「ジョースターの意思」という概念的な存在だったのかもしれないなと。
ジョジョの主人公はだいたい全部ディオのせいで物語が動いており、「ジョースター家vsディオが影響したもの」の構図となっている。
それを踏まえてあのシーンを考えると、ディオと対峙するジョナサンの意思が、ジョースターの血に受け継がれているんだなということを感じて、凄く素敵な演出だったんだなと思い直しています。次あのシーン観たら泣いちゃいそう。
松下ディオで観たのですが、少年期が興津ボイスっぽかったので興奮した。
終演後、近くの男性が「ジョナサンは筋肉がほしかった…」って話しててそれはそう、となりました。
ディオ
宮野真守すご~~~~~~!!!!!
ジョジョの世界を生きている人の歩き方をしていた。漫画のコマで見た立ち方。モデルウォークのように足をそろえてクロスするように歩き、少し上半身をそらした立ち方。ディオ、これだよ~~~~!!!!
他にも馬車からスタッと降りるときのポーズ(あれ漫画だと2ページ使って描かれるシーンなんですよ)とか、頭を波紋で割られてコンコンして揃える動きとか、思ってた通りのディオが再現されていて大興奮した。
子安ディオの印象が強すぎて、宮野ディオってどうなるんだ…!?と思っていたけど、1幕はオリジナルディオって感じで、業界にいる分影響は受けやすそうな中で凄いな…!と思った。と思いきや、2幕で「ジョ~~~↑ジョ~~~~↓」が出たので最高すぎてニヤニヤした。っぱこれよ。
人物像としては、人に堕ちたディオというのが率直な感想。
要所要所でダリオの影に追いつめられるところとか、噓泣きと思えるところが本当に落ち込んでいる、追いつめられているように見えるところとか。すごく人間らしくなったディオだった。
パンフレットによると舞台化するにあたりジョナサンとディオの2人の正義にフォーカスしたということだったので、それはそれでいいなと思ってはいる。
どうしても私はディオをスピードワゴンの言うように「生まれついての悪」と思っているので引っかかってしまったポイントではあるけど、勧善懲悪ものではなく、第1部の話だけで終わるからこそ、ジョナサンとディオの話に絞ったからこそ、この解釈のディオになるのはわかりやすく、話のまとまりとしてはいいんだろうな~と思っている。
エリナ
清水美依紗さんはじめましてだったけど、歌声が美しい…。
とにかく献身的で、男性の後ろにそっと立つような前時代的女性像と、澄んだ歌声が凄くマッチしていたように思う。エリナって聖母なので…。
客船での「う…美しすぎます!」だけが気づけなくて、言ってないはずはこの脚本からないだろうとは思っているので、次回リベンジしたい。
スピードワゴン
新解釈!チルいスピードワゴン!!
ラップなのまさかすぎたけど、アリだな~なるほど~~!ってなりました。スピードワゴンは歌い上げるよりラップの方が似合う。
アニメの実況型スピードワゴンに慣れ親しんでいるので、ちょっとクールすぎやしないか…?と思ったけど、どんどんうるさくなっていったり、ジョースター卿が亡くなる時になぜかずっと舞台上にいたり、要所要所で存在感放っているところはやっぱりスピードワゴンだなと思った。
物語が第2部のメキシコにいるスピードワゴンの回想という作りになっていることにワクワクしちゃった。最初なんで第2部の時間軸なのに長髪…?とキレそうだったけど、マスクはがして第1部軸のスピードワゴンになるところにやられた~!となりました。
ただ第1部のスピードワゴンはまだ20代のやんちゃしていた頃のはずなので、もう少し若々しさ、無鉄砲さはあったらいいな~と思っていたり。
「あしたっていまさッ!」をポコがいない代わりに気化冷凍法を食らったツェペリさんの腕を温めるシーンのスピードワゴンに言わせたの、構成が上手くて唸った。
ツェペリさん
私はジョジョでツェペリの一族が大好きで、ジョジョニウムのアオリコメントにシーザー表紙巻でノミネート取ったこともあるぐらいです。
なのでツェペリさんに関してはもう人一倍期待と不安をもって観ていたのですが、面白くて良かったーーー。
ジョースターの館以降でしか登場しないので2幕だけの出番になると思いきや、1幕でもただならない雰囲気を匂わせつつ登場したり、さらっと流されがちなツェペリさんのバックボーンも印象的に魅せたりと、ツェペリさんも深堀してくれて嬉しかった。
メメタァ!って声に出して言っちゃうのね!?「ズキュゥゥゥン」は銃声のような効果音だったのに!?
ただ、だからこそタルカスに鎖で囚われるところや、ジョナサンに最後の波紋を渡すところがだいぶ観客の想像力頼りなところが不満。実写化が難しい場面なのはわかりつつ、そこまでのクオリティが高かった分余計に、なんだか突然死んだように見えて…。
ウインドナイツ・ロットでのディオや、客船でのジョナサンでも同じだけど、舞台全体で死にかけている・弱っているというところが伝わりづらかったのが気になったな。少年漫画脳なので、ピンチはピンチとわかりやすくあってほしい。
切り裂きジャック
キャスト発表時になぜプリンシパルに!?と思ったキャラその①。
警部と兼役だったとは!ラグビー大会で優勝したことをジョースター卿にネタバレした責任を負った警部…。ジョースター卿の最期にスピードワゴンと一緒に影でひざまづいていて、いやハケんのかい!って突っ込んでしまった。
まさか馬から出てくるシーンまで再現されるとは思わなかった。
ワンチェン
身体能力が凄すぎますッ!
館の跡で石仮面を探すワンチェンの動きに思わず見惚れた。キャスティングの大勝利だと思った。
ダリオ
キャスト発表時になぜプリンシパルに!?と思ったキャラその②。
5分で登場シーン終わると思っていたのに、ディオが追いつめられる度に悪夢のように「ディオディオディオディオ…」と囁いてくるのは新解釈すぎた。でも原作を読み返してみると、どうとでも誤魔化せるのにあの父親に誓うのだけはできなかったが故に窮地に追い込まれるぐらい、ディオのコンプレックスとしてダリオの存在は大きかったんだなぁと。
環境に縛られるディオはディオらしくないと私は思うけど、それでもディオを語るにあたりダリオの存在って無視できないものだったんだなと舞台から学んだ。
ジョースター卿
威厳と貫禄、別所哲也様……。
ジョジョの物語に登場するジョースター家の中でいちばん祖にあたる人物がジョースター卿。ジョースター家に根付く黄金の意思を持つ根源に近い人として、素敵な描かれ方をしていた。死んだあと起き上がって舞台袖まで行くのだけはシュールだったケド…。
ダニー
愛着湧かせるな悲しくなるだろうがッ!
総評
長くジョジョを好きでいたけど、ミュージカルを観ることで、改めて原作の良さを知った。そんな黄金体験をさせてくれたから、ミュージカル化をしてくれた関係者各位、許諾をくれた荒木先生・集英社にありったけの「ディ・モールトグラッツェ(どうもありがとう)」を伝えたい。まさに「「ありがとう」…それしか言う言葉がみつからない…」状態。とはいえ、さようならは言いたくなくて、どうかこのファントムブラッドをブラッシュアップして再演して、長く上演される作品になってほしい。
そう思えるミュージカルの初演に立ち会えたことが何よりも幸福です。