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2022年公開映画で良かったもの

年末なので2022年公開映画で良かったものを10本ほど振り返ろうと思います

Bardo, False Chronicle of a Handful of Truths / Alejandro González Iñárritu

https://www.youtube.com/watch?v=lCQimQfDuTs

イニャリトゥ新作はNetflixオリジナルでしたが、シネマトグラファーがDarius Khondjiだったこともあり劇場で観たかったなというのが正直な感想。
メキシコ出身のドキュメンタリー作家シルベリオの人生を、奇怪な現実とも空想とも取れない映像で駆け抜ける。次から次へとインサートされる風変わりな映像と演出に、これは夢なのか、それとも、シルベリオのドキュメンタリー作品それ自体なのか?とかなり混乱させられたけど、一人の男の「人生」を描いた美しい映画。
死に際に自分を振り返るとして、それも映画一本分に凝縮しろと言われたら自分なら何を取り上げるだろうかと考えさせられてしまったよね。彼にとっては移民であるということへの自己の不安定さ、そして家族だったのかな。実子を喪うという経験、家を不在にし、「良い父親」になれなかった後悔の念、両親への愛。
中盤で派手なダンスシーンがあるんだけど(サムネイルにも採用されている)、私も自分の映画を撮るなら絶対にパーティーで踊りまくるシーンだけは入れたいなと思いました。数ある映画の中でも5本の指に入るであろう、素敵なパーティーシーン。
Federico Felliniの「8 1/2 (Otto e mezzo)」と比較する人が散見されたので、そちらも観てみたいなと思います。


Men / Alex Garland

https://www.youtube.com/watch?v=pt81CJcWZy8

夫を喪った心の傷を癒やすために田舎町を訪れた主人公(Jessie Buckley)。理想的なカントリーハウスで静かにリフレッシュ、と思いきや街で出会う男たち全員が同じ顔をしていることに気づく。
Alex Garland、エクスマキナもそうだったけど本当に男の嫌なところを描くのが巧すぎて怖い。今作は女性から見た男性の「加害性」について手を変え品を変え観ている側のメンタルを削ってくるんだけど、精神的にも視覚的にもグロテスクに追い詰めてくるので結構参った。それも自分がパートナーとの関係性について頭を抱えていた真っ只中だったので、胃潰瘍の時に中本北極辛さ5倍食べるような感じでちょっともう無理です勘弁してくださいと泣きかけました。まあこういう、作品に向き合うときのメンタルの状況と、それによって見方が随分と変わるところも含めて映画鑑賞の醍醐味なんだけどね。
きっと元気な時に観たらMidsommarみたいに笑えたんだろうけど。特にラストのこれでもか、っていうくらいしつこい演出はJessie Buckley と一緒になって冷笑できただろうな。(どうやって撮ったの…って感じの表現でしたが色んな意味で)
ところで予告編でも使われているトンネルでの天然多重録音シーン、こんな綺麗にルーパーみたいに使えるフィードバック強めのトンネルこの世に存在するのかしら。2時間くらい遊べそう。サントラもおすすめです。

Hustle / Jeremiah Zagar

https://www.youtube.com/watch?v=nM4iy0reaCA

こんな綺麗なAdam Sandler見たことがない!ってくらいに綺麗なAdam Sandler。Paul Thomas AndersonにもなにかのPodcastで「Adam Sandlerがキレてるところ見たいじゃん」って言われてましたが、感情爆発させずメンターに徹する天使のAdam Sandlerに正直いい意味で期待を裏切られました。
スカウトマンとして世界中を飛び回っていたAdam Sandler扮する主人公。ずっとコーチ職に就きたかったところを耐えて耐えてスカウトに専念していたところ、念願のアシスタントコーチに任命されて喜んだのも束の間、再びスカウトマンに逆戻りというキャリアの挫折を味わう。失意のどん底の彼の目の前に、ストリートバスケで天才的な活躍を魅せるボーが現れ、二人三脚でNBAでの活躍を目指すというスポーツモノ。
私自身、バスケはからっきし駄目なのですが(スポーツ全般詳しくないですが)、実在するチームや著名選手も数多く出演しているそうで、バスケ好きな人はもっと楽しめるでしょう。
ストリートバスケしか通って来なかったボーが、テストでライバルに喧嘩を売られてメンタルブレブレで大失態をやらかしちゃうんだけど、その後のAdam Sandlerのメンヘラのメンターっぷりに心打たれる。とにかく献身的。コーチングって凄いなと思う。心を折るのも人ならばまた、立ち上がらせて奮い立たせるのも人なのよね。そしてそのAdam Sandlerを支える妻も立派なメンターでした。


Amsterdam / David O Russel

David O Russelということでジェニローを期待してしまったのですが(American HustleとSilver Linings Playbookが好きすぎて)、今作はマーゴット・ロビーが見事な美しさでスクリーンに君臨していました。それもそのはず、シネマトグラファーがルベツキで、そりゃ綺麗に撮るわと。American Hustleで見せたのと同じく、虚構と史実を織り交ぜた笑えるクライムストーリー。第一次世界大戦で知り合い親友となった三人組が、殺人事件に巻き込まれ(Taylor Swiftが頑張ってました)、自分たちにかけられた嫌疑を晴らそうとする中で独裁指導者たちの陰謀に気付くというお話。
American Hustleではジェニローがキレッキレの最高にイカれた女性を演じるんだけど、今回のマーゴット・ロビーは控えめ。正直ちょっと物足りないなとかも思ったんだけど、その分、ルベツキが創り上げる映像の世界に圧倒されちゃって、何も言えない。完全なる美の前に語彙力なくすよね。マジ綺麗。Christian Bale演じるバートも戦争によって身体中傷を負い、義眼で顔にも痕が残っているんだけれど、その傷痕一つ一つを丁寧に切り取っていてルベツキの目で見る世界はきっと美しいんだろうと思わされる。エンドロールだけでも観る価値あり。


Don’t Worry Darling / Olivia Wilde

本編そっちのけでゴシップのほうが先行していたので、極力前情報を入れずに観に行ったんだけど、とんだホラー映画だった。
とにかく家父長制の妄執に囚われたクソ野郎すぎるHarry Stylesとその仲間たちにぞっとする。サントラも不穏。とにかく不穏。
フローレンス・ピューとハリー・スタイルズ夫婦は、BIG FISHに登場する「完璧な街」を彷彿とさせるゲートタウンみたいな地で幸せな結婚生活を送っている。ロスアラモス研究所のイメージが過るような、広大な砂漠の中にぽつんとある、お誂えの街。もうその時点で結構怖いんだけど、ご近所の奥さんがメンタル参っちゃってるのを、フローレンス・ピューが目撃。なんかこの街、おかしいかも?そんな疑問が彼女を追い詰めていく。「あーん自信喪失して自暴自棄になってるインセルHarryたんもかーわいー♡」って具合に、見れたら良かったんだけど、結構ガチに無理めなタイプの役柄でした。
と、ここまで書いてふと、私なんでこんなクソ野郎しか出てこない映画ばっかり観てるんだろう?って疑問。K Dramaも並行して観まくってるからかしら。ウ・ヨンウのイ・ジュノ筆頭に、彼氏スキル100%のポリコレ無害過ぎるユニコーンみたいな男にきゅんきゅんした後の帳尻を、こういうの観て合わせてんのかな…とか思ってしまいました。ははは。

Licorice Pizza / Paul Thomas Anderson

自意識超過剰、メンタルギャル通り越してちょっとウザい年下の男の子(しかも高校生!)ゲイリーにグイグイ迫られる、10歳年上のアラナ。そんな二人のLAを舞台にしたすったもんだ青春恋愛映画。
日本公開がとにかく遅くてイライラさせられたことを思い出しました。
マジで私的な映画ばっかり撮ってる人だけど、今回も彼の近所でばっかりの撮影だったらしい。スクリーンにクーパー・ホフマンが現れた時、ちょっと涙ぐんでしまった。お父さんにそっくりなんだもん。
HAIMの他の姉妹も含め両親や、PTAの家族も出演しているらしい。LAのカラッと過ごしやすい空気が映像越しに伝わってくる。LAという街が、映画が、それを通して出会った多くの人々が、心の底から大好きなんだろうなこの人。
前作Phantom Threadでの恋愛劇はちょっとドロドロしてたけど、こっちはほんの少しだけ爽やかで、PTA作品の中でもInherent ViceやPunch-Drunk Loveのように気軽に観れるシリーズだと思います。

https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B09PQ82Z7F/ref=atv_dp_share_cu_r


브로커(Broker) / 是枝裕和

ソン・ガンホにカン・ドンウォン、ペ・ドゥナにIUってもう泣くだろって感じの顔ぶれ。テーマはまた「家族」。私は本当に家族映画が好きです。(PTA初期作品大好きな時点でお察しよね。)家族の数だけドラマがあるじゃない?
ある大雨の夜、IUが赤子を赤ちゃんポストへ託しにやってくる。その赤子を、クリーニング店を営むソン・ガンホと、赤ちゃんポストの施設で働くカン・ドンウォンがこっそり連れ去る。この二人、赤子を富裕層の子供を持てない夫婦などに斡旋する、ベイビーブローカーを裏稼業としているのだ。IUが思い直したのか翌日赤ちゃんポストに戻ると、赤子が消えていることに気付く。ソン・ガンホとカン・ドンウォンはIUに事情を白状し、三人で養父母探しの旅へ出ることに…
ベイビーブローカーを追う刑事役にペ・ドゥナとイ・ジュヨン。物語も中盤でペ・ドゥナが夫に電話するシーンで「Magnolia」からAimee Mannの「Wise Up」が流れるシーンがあるんだけど爆泣き。人生ベストムービーTOP5に入るくらい大好きな映画なので、ここでこの引用持ってくるのはずるいな〜と思いました。
人生には「よくあることだ」で済まされない、コントロールできない出来事があって、立ち直れないほど打ちのめされちゃうこともあるよね。だけど誰かの言葉や行動に救われて、再び笑うことができるようになる。どっちの映画もそんなしんどい中の救済を描いてると思う。あと何より守りたい、カン・ドンウォンの笑顔…って感じでしたね。ほんと好きだわカン・ドンウォン。

https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B0B8T8GD2D/ref=atv_dp_share_cu_r


PLAN 75 / 早川千絵

初日に休み取って新宿まで観に行ったんだけど、こんなに普段映画館ってご老人たくさんいるかしら?ってくらいにロビーがご老人で溢れかえっていて驚いた。
満75歳から尊厳死の選択権を与えられる「プラン 75」が国会で可決され、施行されるようになった近未来の日本。
倍賞千恵子が演じる主人公は78歳。75歳を過ぎてもホテルの清掃員として働き続けなければいけない現状、そして待ち受ける解雇。働き口を失った彼女は、ついに「プラン 75」の申請窓口に向かう。市役所の申請窓口で働くヒロム(磯村勇斗)、プランを選んだ高齢者を最期の日まで電話口でサポートするコールセンターの瑤子(河合優実)、フィリピンからの移民労働者として、プラン利用者の遺品処理を行うマリア(ステファニー・アリアン)。彼らの視線も交えながら、「プラン 75」という制度についての複雑な思いが巡る。
現代の姥捨て山とはこういうことなのか。これ、どういう気持でこのお年寄りたちは観ているのかしら。そっちのほうがどきどきしてしまったんだけど、開始15分くらいで隣の席のご老人が大きな鼾をかいて寝だしたので、そんなシリアスに受け止めてないのね、と妙に安心してしまった。とはいえ自分の40年後のことを考えると暗澹とした気持ちにされてしまう。三十代半ばって一番微妙なお年頃だと思う。子供をギリギリ望める年齢で、まだ、一生おひとりさまを貫く覚悟が持てない、そんな宙ぶらりんな年齢。例えばこの先私がおひとりさまを選択したとして、このプランがある世界線なら喜んで使うだろう。だけど、それはやっぱり誰かの手を煩わせることでもある。コールセンターの女の子にしろ、遺品整理をする人にしろ。誰かの、それも限りなく自死に近いかたちのものに寄り添うって、心理的な負担が大きそうだよね。同じ負担をかけるのだとすると、誰かを生かすための負担の方が良いのかしら。それが介護であり終末医療なんだろうけど、それはそれでいいのかな…と悩んでしまう。
75歳になったときにこの制度があったとして、きみなら使用する?こんな終活しなくてもいいくらい、人に囲まれて爆笑してる人生になっていますように。そう、祈らずにはいられなかった。

The Fabelmans / Steven Spielberg

これもまた素晴らしい家族と映画の物語でした。Steven Spielbergの幼少期をベースに練られた作品で、撮ることへの愛情と葛藤も伝わってくるお話。
あるユダヤ系の一家に産まれたSammyは親に連れられて初めて映画館に映画(The Greatest Show on Earth)を観に行く。その映画のあるシーンが離れなくなったSammyは、ハヌカのお祝いに買ってもらった鉄道セットを使ってそのシーンを再現しようと試みる。母親は、そんなSammyに、父親のビデオカメラを使ってそのシーンを撮影することを提案する。
エンジニアで超真面目な父親役にはPaul Dano。ピアノと歌とダンスが大好きで超陽気な母親にはMichelle Williams。父の親友で一家の「おじさん」役にSeth Rogen。主演のGabriel LaBelleはカナダ出身の俳優で、本作が初主演。作中に使われているピアノの曲も実際に母親が演奏していたものらしく、名前こそ変わっているものの、ほとんどがスピルバーグの幼少期の話を元に組み立てられているらしい。
Sammyは映画を撮ることの楽しさに取り憑かれてずっと映像を撮っているんだけど、ある時その映像から家族の秘密を知ってしまう。両親が「親」から一人一人の人格を持った「人」として見えてしまう瞬間。そういうのって、人生の中で一度は絶対訪れるよね。親の存在が絶対的に完璧だと思っていたけど、親だってただの人だと知ってしまう瞬間。サンタクロースは存在しないよ、と知ってしまう瞬間みたいな。そんな瞬間を、自分が撮った映像を通して知る、というのがすごく映画を撮る人の世界の見方だなと思わされる。
父親の仕事の都合で引っ越しをすることになり、ユダヤ系コミュニティがまったくないような土地で再出発させられるSammy。もちろんイジメられる。そんな彼がいじめっ子の心を揺さぶる瞬間にもやはり「映画」が武器として使われている。(余談だけどこの彼は後にスピルバーグに電話してきたことがあって、「君の映画を観たよ。本当に映画監督になったんだね。」と言ったらしい。そんないじめっ子は警察官になったのだとか。)映画が彼にとってどれほどパワーを持っているものなのか、それによってどれほど時に傷つけられるのか。私も自分の好きなことを仕事にしてしまったタイプの人間なので、ほんの少し彼の映画に対する愛憎の入り混じった気持ちがわかる気がする。映画を作り上げる、それもこんな私的な映画を撮ろうとなると、めちゃくちゃメンタル削られるんだろうな。
The Director’s CutのPodcastでPaul Thomas Andersonと対談しているものがあったんだけど、そちらの二人の話も良かったです。


Meet Cute / Alex Lehmann

https://www.youtube.com/watch?v=ADrWgBntlEE

Pete Davidsonはそりゃモテるわ!と膝を打ってしまった。(マジで当たり役)
バーで見つけたギャリー(Pete Davidson)に一目惚れしたシーラ。二人は最高の初デートを過ごす。ところが実はこの日は初デートではなく、シーラはタイムマシンを使って同じ「最高の初デート」を何度も何度も繰り返していたのだった。
タイムトラベル系RomCom。毎日死にたくてそのタイミングを伺っていたシーラが、ある日タイムマシンとギャリーに出逢ってしまって、最高のデートのために何度も過去に遡る。そして軽く1年同じ日を繰り返す。毎日同じデート繰り返すだけでもホラーなのに、なんと、ギャリーの幼少期に介入して人格形成に影響を与えたり、元カノを殺めたりと狂気じみた努力をする。シーラ超怖い。自分の人生に介入されていることに気づかないギャリーなんだけど、心はどこか違和感を覚えている。自分の人生だって半ば引っ掻き回されたのに、彼女をどうにか救おうとしちゃうPeteの役柄に絶対モテるわこれ~と唸っちゃったよね。かなり風変わりなRomComですがハッピーエンドなので、安心して観れます。

https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B0B8T6ZQ3K/ref=atv_dp_share_cu_r


おまけ
The Guardians of the Galaxy Holiday Special / James Gunn

https://www.youtube.com/watch?v=OYhFFQl4fLs

二人の父を喪い、最愛の女性も喪ったピータ・クイル aka スターロードに最高のクリスマスプレゼントを贈ろうと、マンティスとドラックスが地球で大暴れするほんわかコメディ。
MCUにハマったきっかけがThe Guardians of the Galaxy一作目だったので、本作も首を長くして待っていたんだけど、ヨンドゥへの愛が溢れ出て止まらなくなるHoliday Specialでした。
家族とはいえど、赤の他人の集合体なのでそりゃ色々事情はある。クイル自身もご多分に漏れず超複雑なお家の子だけれど、同じくらい複雑でねじくれまくった境遇の新しい家族たちに想われて超最高じゃん?しかも一作目のFootlooseのネタをここへきて本人客演で拾いにくるのも、James Gunnへの映画オタク愛が詰まってて暖かくて優しいHoliday気分にさせてくれる。とはいえシリーズ未見の人にはなんのこっちゃ?って感じなのでおすすめしません。(昨今のMCU作品は8割そうなんだけどね)



今年は旧作含めて142本観てました。
「Everything Everywhere All at Once」も良かったな。あとはドキュメンタリーも結構観たんだけど、ジョナ・ヒルの自身のセラピーセッションをベースに撮った「Stutz(スタッツ:人生を好転させるツール)」、狂気の不妊治療を行っていた医師を追った「Our Father(我々の父親)」とかもすごかった。来年もたくさん観たいな。
みなさま来年も良いコンテンツライフを!

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