見出し画像

読みオワタ 『傭兵の二千年史』 『ウェストファリア体制』 『ウッドロー・ウィルソン』

『傭兵の二千年史』菊池良生

ヨーロッパ興亡史の鍵は、傭兵にあった! 古代ギリシャからはじまり、ローマ帝国を経て中世の騎士の時代から王国割拠、近代国家成立まで、時代の大きな転換点では、常に傭兵が大きな役割を果たしてきた。(講談社現代新書)

Amazon商品ページより

ヨーロッパの傭兵の歴史。古代ギリシャにて市民皆兵の義務の代行者として傭兵が始まる。古代ローマでの兵制の変遷は『ローマ人の物語』をがっつり読んだのでなるほどなるほどだった。ローマでも市民皆兵から志願制になりやがて蛮族の傭兵中心へ移行していく。中世はまるっと傭兵が主役の時代。スイス人傭兵、ドイツランツクネヒト傭兵を中心に、永久に続くヨーロッパの戦乱が30年戦争でピークに達し、やがて近代国家の成立とともに消えていく歴史をざーっと追ってく構成。傭兵最盛期最後の梟雄ヴァレンシュタインは別途伝記を読んでみたい。ともあれ1テーマで歴史を通す本はおもしろいですね!

ちょっと古めの本ですがこんなのおすすめ。


『ウェストファリア体制 天才グロティウスに学ぶ「人殺し」と平和の法』倉山満

教皇、皇帝、国王、貴族という一握りの特権階級が支配者だった頃のヨーロッパ。人々は「人殺し」に明け暮れていた。彼らの日常は「戦争」とは異なる、単なる殺し合い。平和は束の間の安らぎにすぎなかった。血に飢えたライオンよりも野蛮な世界である。この「国」という概念すらない16世紀に生まれながら、「戦争にも掟(ルール)がある」という英知を著す信じ難い学者がいた。その名もフーゴー・グロティウス。彼の思想はのちにウェストファリア体制として実り、国際法の原型となる。天才グロティウスが混沌のなかに見出した「法」を日本一わかりやすく読み解く。

Amazon商品ページより

30年戦争から第一次世界大戦までの欧州の歴史をざっとした分類方法は図の3パターンありそう。

作図:ワイ

本書は史観Aの立場だ。

ちなみに、史観Cの「???」部分(ウィーン体制を二月革命などで崩壊したとする考えで、第一次世界大戦までの間の期間)は何ていうの?教えて!!!

後のウェストファリア体制の礎となる『戦争と平和の法』を著すグロティウスの生涯を負う。グロティウス自身はウェストファリア体制の成立以前に亡くなっている。

続いてウェストファリア体制に至る歴史を眺める。カトリックVSプロテスタントの宗教対立と封建諸侯の群雄割拠が複雑に絡み合って血で血をあらう戦乱が延々と続く。『傭兵の二千年史』で語られた傭兵の容赦ない略奪を伴って。最高潮に達した30年戦争でぼろぼろになったヨーロッパ諸侯はようやく疲れ果てて今後の世界秩序を話し合いに集結する……!ここで確立した「ウェストファリア体制」は、虐殺略奪なんでもありの旧体制の反省から、戦争は「国」のバランス・オブ・パワー外交の延長に生じる決闘だと規定した。宗教戦争の反省から相手を悪魔化するのはだめ、略奪の反省から民間人や非戦闘地域は保護しなきゃダメ、外交官のみの安全もしかり、などなど戦時国際法としてルール化した。

なんやかんやあって第一次世界大戦後、アメリカから乗り込んできたほとんど部外者のウッドロー・ウィルソン米国大統領が提唱する国際連盟などなど含む新しい「ヴェルサイユ体制」では、戦争は「違法化」された。建前上、戦争は「根絶」されたんだけど、戦争が「犯罪」になってしまったがゆえに、いざ戦争が始まるとルール無用の殺し合いになってしまう。ウェストファリア以前の血で血を洗う時代への逆行は必然の帰結で、ベルサイユ体制は一瞬で(※)崩壊して第二次大戦へ突入するのでした。

※広義のウェストファリア体制が260年続いたのに対して、ベルサイユ体制は20年と持たなかった

って、本書の叙述を終えて、最後に現在日本の果たすべき役割みたいな章で締めくくられます。

が、もう最終章は著者が何を言っているかほとんど耳に入らない状態になってました。というのも全体的に読書体験が不快すぎて耐えられなくなってたから。最初から最後までちょいちょいちょいちょい要らん軽口が挟むこまれてくるわそもそも地の文の口調もずっとツイッターのスカッと系おバズりちょーだいツイートみたいだわで。著者のファンならずっとスカッとスカッとするんだろうけど、見ず知らずの私にはなんだこいつって思いばかりが募っていくのでした。

一番つらかった場面は、ウッドロー・ウィルソンの「14 カ条の平和原則」(1918 年)に対する一問一答みたいなツッコミ。

原文はこちら:

対するツッコにはこんな感じ:

  • 第1条 これは、「第一次世界大戦中、俺がいない時に話し合われた事項は全部否定する」との意味です

  • 第2条 「大英帝国、退け」と、大英帝国に喧嘩を売っているのです。

  • 第3条 主な標的な日本で、チャイナ市場から締め出そうという意図です。

  • 第4条 レーニンをいじめるな、という意味です。

  • 第5条 中南米は「アメリカの庭」扱いです。「自分はいいが、お前たちが植民地を持つのは許さん」というここです。

  • 第6条 やっぱり「レーニンをいじめるな」です。

  • 第7条 「ベルギーは俺の舎弟」という態度です。

  • 第8条 フランスも「俺の舎弟」扱いです。

  • 第9条 イタリアは、大国になりたいのであれば「俺の射程になれ」です。

  • 第10条 民族自決をけしかけ、ハプスブルク帝国を八つ裂きにしようとします。

  • 第11条 殺し合いの原点です。

  • 第12条 オスマン・トルコ帝国は抹殺という意味です。

  • 第13条 (省略 ポーランドのその後の問題的な振る舞いについて)

  • 第14条 (省略)

ぱっと突っ込んだ上で、もうちょっと詳細に論じてもらえればなるほどと納得できるところ、言いっぱなしのハイ論破みせつけらられる気持ちよ……。これならヴィーチューバーのマシュマロ1000本ノック配信みたほうがずっと楽しいわよ。

とはいえ「14 カ条の平和原則」は「うウェストファリア体制」の本筋から外れるからここは言いっぱなしで詳細に触れる紙面は割けなかったということで見逃そう。次の著書「ウッドロー・ウィルソン」では詳しくたのむよ……!!!

軽口悪口は大変つらいんですが、叙述や解説などはとても勉強になりました。でも読むのつらいんです!不勉強ながらグロティウスって人物も『戦争と平和の法』も知らなかったので、別途あたってみたい。

『ウッドロー・ウィルソン 全世界を不幸にした大悪魔』倉山満

私はなぜウッドロー・ウィルソンを呪うのか? 自由主義・民主主義・国際主義による政治体制の変革を自国の使命と考える「ウィルソン主義」の提唱者――。学界の多数説が載る教科書は、第28代アメリカ大統領を「偉人」として記す。だが、平和の伝道師のごとく語られる人物の正体は、「大悪魔」であった。「神の恩寵のしるしが現われはじめた」弁論部員時代からメキシコ、ハイチなど弱い者いじめを重ねた大統領一期目、無理難題を突き付けてドイツ、イギリスをキレさせた第一次世界大戦。従来の国際秩序を全否定し、思うように世界を改変しようとした十四カ条の平和原則。全世界を不幸に陥れたパリ講和会議。自らを神と一体化させ、地球上に災いを呼んだ男の狂気が次々と明らかになる。日本と日本人の悪口は書くが、外国と外国人の否定的評価は「実証的ではない」として回避するわが国の政治外交史研究の「似非実証主義」に、倉山満氏が真正面から立ち向かう。

Amazon商品ページより


なんでこの著者の本を2冊同時に買ってしまったんだと激しく後悔しながら覚悟を決めて読みます。

本書では最初にウッドロー・ウィルソン氏の前半生を伝えつつ、彼が大統領に就任するまでのアメリカ外交史を概説する。アメリカはモンロー・ドクトリンのもと、欧州各国からの干渉は許さないと突っぱねつつ、南北アメリカ大陸は自分たちのテリトリーだからがんがん干渉していくN枚舌外交を展開する。その流れをくんだウィルソン大統領も第一次世界大戦へは最後まで渋って、最終局面で火事場泥棒的に乗り込んでくる。ウィルソン大統領は我が物顔で講和条約しゃしゃりでてきては、言わばモンロー・ドクトリンを全世界に拡大して「地球はアメリカの庭」と宣言するかのような「14 カ条の平和原則」をぶち上げる。ウィルソンによって本格的に展開したアメリカのリベラル覇権主義が現在に至るまで世界中に不幸をもたらし続けている。この主張はオーソドックスなリアリズム派の世界観なので納得感はある。

あるんだけど……前掲書とおなじく、口調や軽口は相変わらずで気分は最悪です。全編ウッドロー・ウィルソンに対する人格否定と誹謗中傷の嵐で、その根拠がジグムント・フロイト『ウッドロー・ウィルソン 心理学的研究』だ。著者のダイジェストが載ってたので参照。

こき下ろすにしても、いろいろ多角的に批判してほしさがある。察するに著者は筋金入りのウィルソン研究家なので、誹謗中傷の嵐にも出典や根拠があることは想像できる。それにしても口が悪すぎてきつい。

しんどい読書でしたが、

  • 石井菊次郎という優秀な外交官がいたこと

  • ウィルソンの元で孤軍奮闘したエドワード・M・ハウス"大佐"の苦労

の2点は発見と読み応えありました。


ちなみに、前掲書で細部が省略された「14 カ条の平和原則」の深掘りを期待した結果は……

まるまる再掲です!!!!深掘りは、ありませでした!!!ずこーーーーーーっっっっっっ!!!!


……あとは、正直今のバイデンも、ウッドロー・ウィルソン並の耄碌した暴君だよな、って思い当たる節ががちらほら。そこらへんはまた関連する本を読みオワタりしたときに触れたい気持ち。

ソンジャーネ

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?