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Rider's Story 命の電話

割引あり

バイク小説短編集 Rider's Story 僕は、オートバイを選んだ
 武田宗徳 オートバイブックス 収録作品


 日本のどこかに、命の電話という公衆電話があるのをご存知だろうか。僕は偶然、その電話に出会った。まさに、出会ったという表現がぴったりだろう。不思議な出来事だった。

 僕が大学を卒業して、そのまま東京で就職して二年くらい経った頃だ。
 仕事は安月給のクセに忙しく、残業が当たり前。だけどそんな僕も、彼女のためなら頑張れた。結婚するつもりでいた。
 その彼女に振られた。最後のセリフはこうだ。
「ごめん、実は私、結婚してるんだ」
 知らなかった。一年付き合っていたのに知らなかった。そのとき僕は、深い穴に落ちていくような気分だった。そして、しばらくはそのどん底で苦しんだ。仕事も手につかなくなり、半分クビのような形で自主退社させられた。人生なんてどうでもよくなった。

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2,092字

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