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Rider's Story 引退試合

割引あり

バイク小説短編集 Rider's Story 僕は、オートバイを選んだ
 武田宗徳 オートバイブックス 収録
 2011年11月15日 発行 モーターマガジン社 RIDE 54 掲載作品


 風を切る。

 木漏れ日の中、土手沿いの道をスーパーカブは疾走していた。
 宮本健太、十六歳。初めての体験だった。

 土手沿いの木が途切れ、視界が広くなる。河川敷の芝生公園と向こうの河原が、目の前に大きく広がった。気持ちいい。風景が心地よい速度で過ぎ去っていく。生まれて初めての感覚。感動していた。新鮮だった。
 河川敷にグラウンドが見えた。草野球の試合をしているようだった。健太は野球の試合を眺めながら、休憩しようと思った。

 土手から降りて、適当な場所にボロの愛車のスタンドをかける。興奮がさめやまない。どこへでも行ける気がした。何でも出来る気がした。

 グラウンドに近づくと、いかにも速そうなオートバイが停まっている。漢字で「隼」と書いてある。
「すっげー」
 健太は、このオートバイに釘付けになった。持ち主は、あそこのベンチで草野球をぼんやり眺めている革ジャンのおじさんだろう。三十代後半くらいだろうか。そっと近づいてみた。おじさんと目が合った。

「引退試合だってよ」

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