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シニード・オコーナー どうか安らかに

シニード・オコーナーが亡くなったという。

ポーグスのスパイダー・ステイシーのツイッターで知った。まだ56歳、僕と一つ違い。大変なショックだ。タフな人生であったに違いない。天国ではどうか安らかに、と思わずにはいられない。

「正直ものが馬鹿を見る」という言葉があるが、彼女の人生はまさにそんな感じだ。いや、なんか違うな。とにかく自分の気持ちに絶対に嘘をつかない、間違っていると思うものに対しては徹底的に抗う。妥協しない。誰がなんと言おうと。魂がきれいなんだと思う。普通の人がそうやって生きたところでそれほどたいしたことにはならないが、彼女の場合は全米NO1ヒットを飛ばした大スターなので、波風が大きい。

しかし折に触れて観る映像の中のシニードは、ごく普通のかわいらしい女の子の表情を見せることがある。こういうことを言うと本人が一番嫌がるのだろうが、そういう時の彼女は本当に可愛らしく、美しい。そしてこうやってyoutubeの動画を漁って見ていると思うのは、この人は本当に歌うことが好きなんだなあ、ということ。

こちらはチーフタンズとの録音風景。こんな時の何気ないオフステージの姿がいい感じである。しかしいざ歌い始めるとその迫力にチーフタンズの面々の目が点になっている。ライ・クーダーの姿も見える。

こちらは僕の大好きな2002年のアルバムである。

スタンダードなアイルランド民謡の曲ばかりを歌っている。しかしプロデュースはなんと、ON-Uサウンドのエイドリアン・シャーウッドである。これがまた素晴らしい実験的な音作りで、エコー・ディレイが遠くの方でグワングワンと鳴っているのが聞こえるが、それが歌声を邪魔するわけでもなく、ありがちにケルトっぽい神秘的な雰囲気とは一味違う、夢の中で聞こえてくるような素晴らしいミックスになっている。当然シニード自身がエイドリアンシャーウッドに依頼したのだろうと思う。元々シニードはレゲエのアルバムも作っているくらいだから、昔からON-Uのダブサウンドのファンであったに違いない。

そのアルバムに入っている曲の動画がいくつかあった。どれも映像も音楽も素晴らしい。どこかで聴いたことのあるような感じなのに、全く聴いたことのない音楽。伝統的で前衛的。静謐なのに過激。僕にとってのベストアルバムだ。

こちらはちょっと時期が前かもしれないけれど、同様にアイルランド民謡を歌っている。後ろにうっすらと写っているのはドーナル・ラニーではないだろうか。

1992年「サタデー・ナイト・ライブ」の生放送中にヨハネ・パウロ2世の写真を破り捨てたパフォーマンスは、カトリック協会の児童性的虐待に抗議をしたものであった。当時まだ注目されていなかったこの問題が、その後大きくなっていくにつれ、彼女への批判の声も小さくなっていったと言う。時代が追いついた、と言うことだ。あるいは彼女がこの問題を俎上に載せたから動き出したのかもしれない。最近の日本のジャニー喜多川の問題にもつながるような話だ。

2021年に出版された回顧録「Remeberings」の中で、この一件について「No.1レコードを手にしたことが私のキャリアを狂わせ、ローマ法王の写真を破いたことが私を正しい道に戻してくれた 」全く後悔していない、と語っているという。この回顧録、ぜひ読んでみたい。日本語訳は出ていないと思うが。

2022年の1月に息子が自死している。当時結婚していたドーナル・ラニーとの間に生まれたシェーン君、まだ17歳だったとのこと。その出来事が今回につながっているだろう、と言うことは想像できるが詳しいことは報道されていない。いずれにしてもあまりにも悲しい結末である。どうか安らかに、と心から思う。

追補

シニード・オコーナーがレゲエをやっていたと言うので少し探してみるとたくさん映像が残っている。前に紹介したアイリッシュトラッドのアルバムの後、『スロウ・ダウン・ユア・アームズ』Throw Down Your Armsと言うアルバムを2005年に出していて、スライ&ロビーがプロデュースをしている。

その中から、こちらはマーカス・ガーベイの歌を歌っている。

これは時期が少し前だと思う。同じくバックはスライ&ロビー。

動画ではないが、サタデーナイトライブの事件の後、ボブ・ディランのトリビュートライブに出てブーイングを浴びながら歌ったボブ・マーレーの「War」である。その映像も残っているがあまりに痛々しくて見れない。

こちらは曲はレゲエではないが、曲名が「Glory Of Jah」、シニードのオリジナルだろうか。右側でスティーブ・クーニーがサポートをしている。

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