アレンジの話⑥
前回の「アレンジの話⑤」までの間に
メロディ (パン:Center)
ベース (パン:Center)
オブリガート1(パン:L80)
オブリガート2(パン:R80)
上記4パートができました。ここで重要となるのは、
オブリガート1と2の立ち位置。
彼らは左右で“独立した声部”として機能し、
楽曲の幅を広げる役割を持ったパートです。
よって実をいいますと、メロディとの掛け合いを意識した
“相互作用を意識した声部”とは違う枠だったりします。
以下のようなイメージを持ってみてください。
メロディ (主旋律その1)
オブリガート1(主旋律その2)
オブリガート2(主旋律その3)
ベース (対旋律その1)
オブリガート3(対旋律その2)
オブリガート4(対旋律その3)
オブリガート≒対旋律なので
非常にややこしくなってしまい申し訳ないのですが、
厳密には「主旋律寄り」と「対旋律寄り」
その2種類があると考えていただければ差し支えありません。
つまりここから先は「対旋律寄り」となる
上記オブリガート3、および4を構築するフェーズに入ります。
まず、先んじて作ったオブリガート1と2に関しては
センターのメロディ(主旋律その1)を阻害しない程度に
馴染ませる(一定の音量は保ったまま引っ込める)方向で
パラミックスを完了させておきましょう。
※ミックスについては別項目で扱うため、ここでは割愛。
あくまで主旋律その1が最優先されている状態で、
サイドでは自由かつ独創的な展開がなされ
それが楽曲の可能性を押し広げている……そんな編曲状況です。
そして、オブリガート3と4はそれぞれ
L30~L40、R30~R40のパン設定にして書き始めます。
ここで意識すべきは、前回までの記事でご紹介した
各種TIPSのエッセンスを引き継ぎつつも、上記の“主旋律寄り”と
将来的に書くことになる副旋律(ハモリ)――
その中間となるアンバイを目指すことです。
正直、これはかなり難しい要求といえます。
なにせ、すでに4パートが動いているなかで
・クドくない
・他パートの邪魔にならない
・主旋律に華を添える
を一挙に担ってくれるような音を
追加で2つも書かねばならないわけですからね。
実際問題、この作業には相応の理論・知識にとどまらず
研ぎ澄まされた感覚や音楽的センスを問われますし、
ひとたび吟味を始めたら長丁場になることは必至です。
でも、だからこそ。
出来上がったときは、他の追随を許さぬ
唯一無二の編曲に仕上がるのです。
この手法って、まずプロは採用しません。
なぜなら、ひろく受け入れられる音と真逆の方向性である上に
それを“聴けるクオリティ”にまとめようと思ったら
非常に根気のいる調整が必要で、とにかくコスパが悪いから。
また、ほぼ確実に音楽的な“隙(綻び)”が随所で発生するので
取引先がいる場合なんかは、リテイクのリスクが非常に高くなり
編曲者としての威信や沽券にも関わるからです。
このような逆風に抗ってまで
自分の中の抑えきれないクリエイティブな部分を
果敢にさらけ出しているプロって、どのくらいいるでしょうか。
私の知るかぎりでは、ほんの一握りしか存在しません。
つまりこの手法はものすごく険しい茨道ではあるのですが、
そこを通ったものにしか表現できないオリジナリティに繋がっている。
“あなたにしか出せない色”を追求したい方は
これを機にぜひ挑戦してみてくださいね。
なお、TIPSとしては以下が挙げられます。
楽器は「慎ましくも芯のある」ものを選ぶ
メロディと踊っているかのように書く
聴き手に「こいつがいないと物足りなくなってしまったぜ!」
と言わせるようなフレーズを一つでもいいから見つける必然的に音価(音の長さ)は少し刻み気味になる
1は、主旋律とタイマン張れる響きをチョイスしてしまうと
バランス崩壊することが多いので、クセ・主張のつよい
リードタイプのシンセ音源やフォルテのトランペット、
テナーサックスなどはできれば避けたほうがいいです。
また音の成分が特殊なファゴットや
もともとあまりメロディ向きでないホルンなんかも△。
※向いてないだけで上記を採用すること自体が悪、ではありません。
じゃあ何がお誂え向きなの?という話ですが
経験上、私が制御しやすいと思うものを列挙してみます。
オーボエ
クラリネット
フルート
トロンボーン
イングリッシュホルン
ユーフォニアム
ヴァイオリン(フィドル含む)
ビオラ
チェロ
アコーディオン
木琴
鉄琴
オルガン
エレピ(コーラス・トレモロ系)
いかがでしょう。
「慎ましくも芯のある」……なんとなく伝わりましたか?
ちなみに木琴や鉄琴などの鍵盤打楽器は
どちらかといえばワンフレーズのアクセントなどに適しているので
あまり長い区間 対旋律をやらせるのは得策ではありません。
2はとても抽象的ですが、先にメロディがどう動いたのかを
モチーフ(メロディの最小単位)で認識し、
それを模倣して追いかけるように書くイメージです。
一つ一つの音程に注目して理論的に照合するのではなく、
「まとまり(フレーズ)」で主旋律をとらえて
それに対するアンサーを感覚的に対旋律で表現する……そんな感じです。
3は要するに、必死に書きあげた対旋律であっても
そこにメロディとのシナジーが生まれていなければ
骨折り損になりかねないということです。
できれば2で模索しまくってなんとか掘り当てたフレーズを
日を跨いで何度も聴き直してみて、
「君がいるのが当たり前」になっているか
慎重を期して確認してください。
こうした地道な探求はやがて“スルメ曲”の味わいをもたらします。
4は作業中の大きな指針にしましょう。
基本、全音符を使う場面は少ないと考えて大丈夫です。
2分音符くらいならそこそこ使うかもしれませんが
やはり頻出するのは4分音符以下の音価。
「刻むと他パートと整合性が余計 取れなくなっちゃうんだけど!」
と嘆くそのお気持ちはよーくわかるんですが
そこはぐっと堪え、しっかり刻んでまいりましょう。
殊に32分音符による三連符などは
モチーフ同士を繋ぐときなどに有効な場合があります。
――というわけで、今回はここまで。
次回はようやくコードが確定します。