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ロマンティックラストオーダー

「あの、ちょっと寄っていきませんか」
 居酒屋で一杯飲み干すのがやっとだったお酒の力を借りて、駅までの道にあるファミレスを示す。立ち止まった彼はきょとんと目を丸くして、それからスマホを取り出した。
「ラストオーダーギリギリだと思うけど、大丈夫?」
「あ……あの、今あのチェーンに猫型ロボットいるじゃないですか」
「ああ、確かに可愛いよね」
 最近ファミリーレストランには配膳ロボットが導入されているが、このチェーンはそれがちょっと違って猫耳とモニターの顔が付いた猫型ロボットなのだ。声も可愛いし、お客さんがどいてあげるのを見るのも微笑ましい。そして。
「あれ、ヒマになると寝るらしいんですよ」
「え、そうなの?」
「こんなに遅くなる事も珍しいので、ちょっと見てみたくて」
「それなら俺も見てみたいな」
 内心ガッツポーズ。子どもっぽいって思われただろうけれど、「好きだから一緒にいたい」と言えない私の精一杯のアプローチだ。
「じゃあ……」
 入っていったら案外人がいた。騒いではいないけれど猫型ロボットはするすると動いている。これはちょっと眠るのを見るのは難しいだろうか。そう思っていたら彼はさっさと店員さんに声をかけていた。ついておいでと手招きをするのに慌ててついていく。
「さっきの店で色々食べたから、もういいかな」
 ドリンクバーを二つ。注文すると猫が動いてしまうから、他のものはなし。けれど本当にラストオーダーギリギリだったので、猫ロボットはずっとうろうろしている。
「……ごめんなさい、結構動いてますね」
「そうだね。頑張ってるね」
 猫ロボットを見る視線も優しくて、好きだなぁと改めて思ってしまう。こうして付き合ってくれるのも優しいからだ。
「あ、電車大丈夫?」
「はい。……すみません、ちょっと遅くなっちゃいますね」
「俺は大丈夫だよ」
 けれどラストオーダーギリギリだったのでもう店じまいだ。猫ロボットがキッチンに向かってしまったので私は頭を下げる。
「大丈夫だよ。またリベンジする?」
「え?」
「付き合うよ」
 その後付き合い始めて、彼が随分な可愛いもの好きだという事を知った。

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