税制改正で変わる贈与(影響・対策編)
税制改正で変わる贈与について、制度・背景については前半で述べました(下記リンクご参照)ので、後半は影響と対策について考えていきたいと思います。前回同様、税に関する相談は必ず税理士に、また本稿の中では生命保険についても触れていますが、保険は保険会社の方に、相談いただくようお願いいたします。
どんな人が影響を受けるのか
税制改正があって困る人はどんな人でしょうか?
誰に影響があるのか?というと、当然ながら今現在贈与している人、これから贈与する人全員であるわけなのですが…
想像するに、適当に贈与してる人は全員困りそうですね。一方で、確りと資産承継・事業承継を計画している人にとっては、贈与は手段の一つに過ぎないので、余り困ることは無さそうです。『計画的な贈与』は厳に注意されるべきですが。
前半で触れた通り、今回の改正は「ちゃんと申告してくれる人にインセンティブをつけるよ」ということですから、ちゃんと申告しない人にはただの制度改悪に映ってもおかしくはないのでしょうね。
適当に贈与していると結局意味が無かったような感じになるかもしれませんが…相続後に使われるか、それより早く贈与後に使われるかの違いだけですし、早くに消費されることは世の中的にも良いことでしょうし、一般論として若い内の方がお金の使い道は幅広いでしょう。
どうせあの世には持っていけませんから、子や孫に贈与して豊かな経験をする分には、良いことなのではないでしょうか。
「後から相続税を払わなければいけない」ということに注意すれば良いと思います。
『とりあえず贈与』している人たちは、自分に相続税がかかってくることもある程度予測出来ていると思います。基礎控除があるので、何も考えずに相続時精算課税制度の届け出をするのも良いと思いますが、まずはこの機会に相続税の計算をし、贈与すべきかどうなのか?を明らかにしてみるのが良いと思います。
実は「皆やってるからうちもとりあえず贈与してます」という方は少なくないのです。
『とりあえず贈与』の人の中にも、例えば銀行に相談してざっくりとした計算の元に「自分で使わない資金」であることがほぼほぼ確定していて子どもに贈与をすることを決めたものの、子どもが贈与でお金をもらって気が大きくなってしまうのも嫌、一回一回贈与契約書とか体裁整えるのも嫌、ということで贈与型の保険に加入されている方もいらっしゃるでしょう。
贈与型の保険というのは、払い込んだ保険料を、一定期間保険会社が運用の上、一定期間経過後に生存給付金として自分以外の家族が受け取るような形の年金保険のことを指します。
通常、贈与の際のリスクとして「贈与したはずなのに贈与と見做されない」という、財産を切り離したつもりが切り離せていないかったということがメジャーなのですが、保険会社を絡ませることで「誰がどう見ても贈与」という説明になっているのです。
1回1回贈与契約書を書くことも無く、手間なく計画的に贈与が出来る造りになっています。
※本来、計画的に贈与をすると、計画全体に税がかかるので、非常に重宝します。
弱点は、計画的に贈与できる代償として、簡単には変更出来ないということが挙げられます。
贈与型保険契約者はケースによって解約もあり
今般の改正により、贈与型保険の契約者はどういった対応が必要になるか?というと、生存給付金が110万円に満たない金額であれば、相続時精算課税制度の届け出をすることが望ましいのではないでしょうか。今まさに契約中であれば、2024年分の贈与から相続時精算課税制度を選択するものとして、2025年の2月1日~3月15日までに相続時精算課税選択届出書を贈与税の申告書に添付して提出、ですね。
暦年贈与で7年遡られた場合には基礎控除は無かったものとして考えられますから、基礎控除分は明確に損になりますよね。
一方で精算課税で「そんな風に国税に捕捉されるのは嫌だ!」という方も勿論いらっしゃいます。
例えば計画的に1,000万円を贈与したいと思っていた場合に、今300万円贈与をしたところだと。残り700万円を贈与したい。
途中で相続が発生してしまって、700万円が相続財産に持ち戻されてしまった時。相続税の実効税率は20%なので、140万円税負担が増える。
こんなように考えた時、戻し期間が3年の内に700万円一気に贈与してしまった方が良いのか?と。こういう疑問に対する答えはこうです。
上が成り立つ時には、2024年を迎える前に贈与をしておくと良いと思います。いくら贈与をするかは、下の直系尊属からの贈与の際の贈与税の税率表を参考にして下さい。
実効税率30%であれば、1,110万円贈与しても特に意味はありませんが、710万円の贈与ならば、10%コスト低く財産を移転することになるわけです。
ただし、ご注意いただきたいのは、節税で頭がいっぱいになり過ぎて、根本的に贈与として認められなくなることですね。
復唱しましょう。贈与の要件は
です。
贈与したのにその人の自由になっていないお金って一体…という話ですね。
贈与を受けて生命保険に入っている場合は要注意
節税したい、でも贈与によって子どもの人生を変えたくない。
こんな時に銀行等から提案されるのが、贈与したお金で生命保険に入りませんか?という話です。
贈与を受けたお金で保険料を支払い、贈与した人に保険をかけ、相続発生の際は贈与を受けた人が保険金を手にする。この時かかってくるのは相続税ではなく所得税(一時所得)…という形態です。相続税の実効税率が高い方の相続時に、納税資金を準備する方法としてはメジャーなやり方です。
相続財産に持ち戻しされようと、保険金が払い込んだ保険料よりも大きくなっていれば、特に何か変更が必要、という話にはならないと思います。
ただし、契約者・被保険者・受取人を誰にするかによっては、贈与した人に相続発生した際の、相続税納税資金に回せない場合もあります。
例えば下のような契約。
贈与を受けた資金で、自分に生命保険をかけた場合。
メリットはあるのです。若い方が保険金も解約返戻金も増えますので。
しかし、この場合贈与した現金が持ち戻されて相続税を負担することになっても、前述の通り保険金はおりてきませんので、納税に使えません。
「不動産は長男に相続する。長女はこれで贈与していけば大丈夫。」ということで贈与しているから他の財産を相続することは不要…などと考えていた場合は、非常に禍根を残すことになるのは想像がつきますでしょうか。
そういう時には、嫌でも相続時精算課税制度の届け出を行うことを検討しましょう。金額が少なければそれで解決しますし、大きな規模でされていた方は、今の保険を払い済みにして再度保険に入り直すなど、税制と保険を活かすやり方を保険営業の方や代理店の方と相談された方がよろしいでしょう。
影響と対策ということで、身近でよく見る、保険を絡めた贈与の話に絞ってお話しましたが、いかがでしたでしょうか。
読んでいただいてお分かりになられた方もいらっしゃると思いますが、筆者は今回の改正はウェルカムで、理由は相続精算課税制度の優遇=実質的にしっかり申告する人は優遇となったからです。
相続時精算課税制度は一度選ぶと暦年贈与に戻ることはできず、暦年贈与を8年以上続けていれば財産から8年目から切り離せる、というのも正しいのですが、8年以上も贈与を続けて何をしようとしているのか?ということに立脚すると、そのように贈与をすることは合理的なのか?という疑問も湧いてきます。収益を生む不動産や外国債券を贈与して、相続時精算課税制度を選択する。すると、家賃や金利は受贈者にプールされていきますので、毎年贈与するよりも下手したら有効かもしれない、など。
目的に応じて、最適なやり方を考えていかれるのがよろしいかと思います。その為には、まずは相続税を計算し、取るべき対策…納税資金の準備なのか分け方なのか、税額を少なくしていく必要があるのか…を検討されていくのがよろしいかと思います。
以上、ここまでお読みいただきありがとうございました。
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