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夏の絵描きの備忘録 その4 彼女のご帰還〜ミツケテヨ〜



すでに短き秋も折り返し地点を過ぎていると言うのに、今更ながら書きたかった夏の備忘録を書いてみる。
書きたかった出来事は他にいくつもあったが、夏の備忘録としては新鮮味がなくなってきたので、これを最終回にしようと思う。
少しでも興味を持ったら、ちょっぴり寄り道して下さい。



風に攫われた彼女



それは6月26日、風の強い日であった。
絵描きは出品する創作物を画廊に送るため、梱包作業に必死であった。
搬入業者に頼めば、こんなに苦労しなくても済むのに……しかし配送費を考えれば、貧しい絵描きには仕方のない事なのである。
ベランダで激しく踊り続ける彼らに気付きながらも、先立つ梱包を優先し熱中していたのである。
夕刻、ほぼ1日を費やして、ようやく作業を終え、必要以上に乾いた彼らを取り込もうとしたその時、気付いたのである。
彼女が居ない! 後悔先立たず……早く取り込めば良かった。
一体いつ、どの風に攫われたのか……

5階のベランダから身を乗り出し、まだ明るい自宅の周辺を見回す。彼女の白き姿はどこにもない。
鍵もかけずに部屋を飛び出し、建物の周りから他人様の家の庭まで覗き込み、挙動不審者の如く立ち止まってはキョロキョロを繰り返す。
「どこに行ったの〜」と声を出して不審がられながら、夏の日が落ちるまで探し続けた。しかし、彼女を見つけ出すことは出来なかった。
明日になれば誰かが気付いて塀の上やガードレールに置いていてくれるやもしれぬと、希望的推測を胸に、その晩は、朝からの慣れぬ梱包作業に疲れ果て眠ってしまった。
絵を描くより、遥かに体力を消耗したと思う。




彼女のご帰還


翌日から、私の白き彼女の捜索の日々が始まった。
仕事の行き帰りは連日通り道を変え、路地裏を覗き、他人の庭を覗き、屋根を見上げ、挙動の不審さに拍車をかけて捜索範囲を拡げていった。
それでも彼女を見つけられぬまま数日が過ぎた。
あとは……まさかのお巡りさん……か?
駅前の交番に、白衣の落とし物が届けられていないか訊きに行こうか考えあぐね、やめた。諦めたのだ。
彼女を失った私は、この傷心を誰にも伝えられず苦しんだ。
それでも展覧会の忙しさで、次第に彼女に執着する気持ちも薄れ、白衣の実費の新調を決心した……明日は職場で彼女を……白衣を無くしたことを告白しようと。
彼女の行方不明から2週間が過ぎていた。
そう思いながら、ベランダからいつものように空を見上げていた時である。
ふと気配を感じる。微かな声を感じる。

 ねえ、ミツケテヨ
 あなたのすぐソバにいるの
 ねえ、ミツケナサイヨ
 ずっとココにいるのに
 ねえ、いつまでマタセルノヨ
 はやくタスケナサイヨ

隣の空き部屋のベランダとの境目から聴こえてくる微かな声。
まさか……
這いつくばって下から覗くと白っぽい布の切れ端が見える。
5階の高さに目眩を感じながら脚立を立て、隣のベランダを上から覗く。
いた! イタ! 居た! 
こんなそばに居たなんて。2週間もジッと堪えていたなんて。
ごめんね、ごめんね! と叫びながら、上から朝顔の蔓を絡ませる棒でプルプルしながら彼女を助け出した。いや、助けたなどとは烏滸がましい。こんなに近くに居たのに気付かないなんて! 彼女への愛が足りなかったのかもしれない。

引き揚げられ帰宅した彼女は、2週間に渡る風雨に晒されて、すっかり砂まみれ。
驚くことにその白きボディーには、草?が生えていたのである。
これが2週間という時間なのか。

 もう、ハナサナイデネ

彼女が言う。

 二度と離すものか

私はそう言うと、彼女の砂まみれのボディーを優しく洗い流しす。
そして彼女は、元の白き姿を取り戻したのであった。
その日私は著しく機嫌が良く、部屋でスキップをして、階下の住人に迷惑をかけたのであった。


彼女のご帰還。愛でたし愛でたし。




白衣に生えたちいさな草
こんなところにも草って生えるんだねぇ


帰ってきた彼女



あれから3ヶ月半。
彼女と仲良くやっています。
でも2着あるうちの、どちらが行方不明になった彼女なのか、最早わかりません。
でも、二度と離さないと誓った彼女たちへの愛は変わりませぬ。



noteお休み中にもかかわらず、スキして下さってありがと〜ございます!
いつでも戻れる場所。
心から感謝いたします。

いっぱいありがとう
山ほどありがとう

こちらの記事です。ありがと〜ございます!


現在、今年最後のひろ生の作品展示を、超地元のギャラリーcafeで催しています。
地元での出逢いにも尊いものがあります。
今年はギウギウのスケジュールでした。
31日まで。あと少しがんばるぞ!


西野圭果お姉さまが、早々とひろ生の展示の様子を記事にしてくれました。感謝!
新作もこちらで十分に披露してもらっているので、ひろ生はのんびりと展示の終える頃に地元での出逢いや、やや蛇足的な記事を出そうかなあと思っております。


世界中の子どもに、子どもだった大人たちに読んでほしい


夏の備忘録シリーズ


十六夜杯、締め切りまであと10日
滑り込みでひろ生もがんばるよ〜


読んでくれてありがと〜



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