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探検!ゲーム条例制定後の香川県議会の議事録を暴こう!(2020年版)4/6

香川県ネット・ゲーム依存症対策条例(以下、ゲーム条例)制定後、香川県では、その影響を受けた施策が次々と施行されている。
ゲーム条例を成立させた根源的な考え方とは何か。その考え方の何が歪んでいるのか。公開されている議事録を精査することで、それを少しでも把握したい。本稿は、それを目的に作成した。
当然、良い点があれば紹介したかった。しかし、「探検」の結果、それは叶うことはなかった。むしろ、頭が痛くなる内容ばかりだった
その頭の痛くなる発言が詰まっている議事録を、解説付きで暴く。

この階層では、パブリックコメント(以下、パブコメ)など、ゲーム条例の法的な問題点を中心に探索する。本校が、国賠/住民訴訟など、関連時事の理解の補填になれば幸いだ。

[ おことわり ]
議事録は、できる限り原文のまま掲載していますが、文章の前後関係の意味を通すため、文意を崩さないよう編集をしています。何卒ご了承ください。

登場人物

第4階層-1:ゲーム条例の制定過程についてどう考えているのか?

最初は、制定過程に対する議事録から見てみよう。

氏家 孝志:
議員提案条例として制定されたネット・ゲーム依存症対策条例に対して、その制定過程が不透明である、あるいは、強行的、恣意的に制定されたとの指摘がなされています。
1.ゲーム条例検討委員会が非公開となったことに対して「不透明」であるとの指摘について
条例検討委員会において、審議の部分が非公開とした理由は、条例素案が公表された第5回検討委員会以降、一部委員に対する脅迫行為などがあり、冷静に審査する状況をつくり出すために決定されたものと理解しており、その決定に対して、検討委員会内において特に異論はありませんでした。
また、これまでの議会における任意の検討委員会、例えば、2017年に開催された議会改革検討委員会においても非公開の事例があり、そのときにも特に問題や指摘はなかったと認識しております。
2.「審議が十分ではない」との指摘について
ゲーム条例の条例検討委員会は、関係者からの意見聴取等も踏まえ、これまでの議員提案条例における条例委員会回数にも比べて多い7回開催されており、また、条例検討委員会の設置に先立ち、全議員の参加による議員連盟を立ち上げ、積極的に調査研究を行うなど、これまでの議員提案による条例制定に比べて十分な調査研究、審査を踏まえて制定されております。

ゲーム条例検討委員会に招聘された専門家の顔ぶれからしても、少なくとも、ゲーム条例の内容に賛同した香川県議会議員は、あるべき科学リテラシーに則ってゲーム行動症(ゲーム依存症 / ゲーム障害 の日本語版正式名称候補、以下はこれを使用)を考える意図は全くないか、極めて些少だ。それを裏付けるように、ビデオゲームの非科学的な時間規制に反対的な立場をとる医療従事者はおろか、既存の法令との整合性を検証できる法曹界の人、そして、ペアレンタルコントロール機能など、関連する情報セキュリティーやICTリテラシーに詳しい教育コンサルタントも、検討委員会に招聘していない

医療機関・識者一覧

法令として成文化されたことは、どのようなことであっても、市民の行動を制約する。法令の持つこの性質を鑑みれば、関連する分野の専門家を分け隔てなく招聘し、影響のある人たちへの制限を必要最小限にすべくバランスを保つ方向で議論しなければならないが、それすらもしなかった。第1階層と重なる部分もあるが、最初から、自分たちの抱く前提思想を固める前提で、審議が進められたと叩かれても仕方のないことをしている。

氏家氏の答弁のように「ちがう!審議は十分に尽くしたのだ!」といくら声高に叫んでも、それは虚しく響く。理由は単純だ。ゲーム条例の審議に関する議事録が全く存在しないからだ。これは、第三者が、氏家氏の論旨展開が正しいことを検証しようにも全くできないことを意味する。本稿のような(手厳しい?)批判が出ても、議事録という証拠がないので、氏家氏らは、ただ歯ぎしりして聞くしかできない。
それらの事実がある以上、客観的に見れば「十分な調査研究や議論を経て制定された」と喧伝するなど、到底できるものではない

さて、「議会の常識は世間の非常識」という言葉がある。一般社会で行われるビジネスのプロセスの観点から外れているものは「慣習で長く続けてきたものですから」と言われても、おいそれと受容できるものではない、と個人的には感じる。その時はトラブルが起こらなかったからといって、サーバーのログデータを許可もなく勝手な判断で削除するICT技術者がいないのと同じように。

第4階層-2:ゲーム条例に寄せられたパブコメについてどう考えているのか?

パブコメは、性善説に基づいて構成されたシステムだ。言い換えれば、バックドアのような悪質な手段が使われることはない前提で、かのシステムが生まれ、運用されている。
しかし、香川県や香川県議会がとった、ゲーム条例に対するパブコメの処理は、それと真逆のことだ。正規の応募先ではない個所から、わずか2・3日の間に、文言をわずかに違えただけの単純な感想同然の短文約1,900通もの応募を受け付けた*1 ことに加え、パブコメでは本来問わない「賛成数の多さ」を前面に出したプレスリリースによってマスメディアを汚染させたのだから。
ちなみに、香川県が提示したパブコメ1件あたりに寄せられる意見の平均数は、10程度だ。それを鑑みると、わずか2・3日の間に1,900という投稿数は明らかに「異常」だ。

それを踏まえて、議事録を見てみよう。

氏家 孝志:
議員提案条例として制定されたネット・ゲーム依存症対策条例に対して、その制定過程が不透明である、あるいは強行的、恣意的に制定されたとの指摘がなされています。
1. ゲーム条例に対するパブコメについて
当該パブコメは、国の制度を準用した本県の制度により実施されたものであり、その実施方法、意見募集期間、結果の公表ともに制度に基づいて実施されたものです。
2. 「ゲーム条例賛成派がパブコメの多数派工作を行ったのではないか」の疑念について
議会内においてそのような事実は決して存在せず、仮に、県議会外で代表者が意見を取りまとめて送付したとしても、提出者の了解を得て行っているものであれば、そのこと自体に問題はなく、そもそも県民等からの貴重なご意見に対して議会が直接関与できる立場にはなく、その経緯を把握・確認することも求められておりません。
3.「パブコメでの賛成意見が多かったことから議事を強引に進めた」の指摘について
パブコメの公表された第7回条例検討委員会におきましては、パブコメの反対意見が多いことから条例提案を先延ばしすべしとの意見と、パブコメ等の意見を踏まえ、条例案を修正し2月議会に条例案を提出すべきとの意見があったことから、意見が出尽くした後に採決を行い、賛成多数により修正案を2月議会に提出することが決定されたものです。パブコメは賛成が多いから早く採決すべしとの意見の下、審議が打ち切られたと一部マスコミによる報道内容は事実に反するものであります。
ちなみに、パブコメ応募前に行われた第6回条例検討委員会において条例の素案が賛成多数により決定し、2月議会に上程することも決定されていたことを申し添えておきます。

ゲーム条例のパブコメについては、以下のことが分かっている。

1. 制度的な根拠は一切存在しない。
2. 当時の香川県議会の議長(大山氏)が勝手に行っている。
3. 香川県のパブコメの実施機関として、議会は入っていない*2。

ただし、上記のことが「ダメ」とは言い切れない。国政でも、行政手続法に基づかない任意のパブコメは相当数実施されているうえ、募集期間については、明文化されている規定より短縮されることがある。民意を広く聞く点においては、むしろ、上記のような運用の柔軟性が評価されているからだ。
ゆえに、氏家氏の回答にもあるように、一概にゲーム条例のそれだけが特例でおかしいわけではない。また、単純に意見のとりまとめをすることも、違法行為ではない
その点では、ゲーム条例のパブコメの工程全体では、違法性を問うことは難しい。これは、ゲーム条例に「賛成する」旨のパブコメの多くが偽造だったとしても、手続きの違反を訴える目的では、法廷闘争の武器にはできないことを意味する。

しかし、問題はある。それは、県議会と県庁の関係の怪しさだ。もし、香川県庁が一部の県議会議員の圧力で「賛成が多い」ことを印象付ける資料(プレスリリース含む)を作成したのであれば、法には触れないかもしれないが、パブコメというシステムの運用において大きな問題になるからだ。
特に、ゲーム条例賛成派が多数派工作を行った疑惑については、客観的に見ても一切払拭できない。香川県庁の職員もしくは香川県議会関係者による「入れ知恵」でもない限り、その者たちが「正規の応募先ではない個所」から、わずか2・3日の間に約1,900通も応募することなど「できない」はずだからだ。実際、パブコメの応募先には「『県へのご意見箱』Webページからでも可能です」とは書かれていない。仮に応募者が宛先を間違ったとしても、応募数の8割以上の数で宛先が間違われるなど、通常はあり得ない

それらのことから、もし、大量送信された賛成意見側のパブコメにおいて、そこに書かれた氏名が本人の許可なく勝手に使われていた事実の証拠があれば、名簿を本人の了解なく使用した方向での刑事的な訴追が可能となる。愛知県知事のリコール問題のように。

「リーク」があればゲーム条例のパブコメ疑惑も「クロ」が濃厚なのだが…

しかし、本投稿執筆時点では、大量送信されたゲーム条例”賛成”意見のパブコメにおいて、そこに書かれた氏名が本人の許可なく勝手に使われていた証拠は存在しない。
以上の背景があることを承知で、この件について刑事告発に踏み切った動きがあった。拙稿ではあるが、この告発でどのような罪を問うているのかは、以下の記事を参照されたい。

なお、本稿執筆時点では、刑事告発を行った際に警察署に提出した告訴状は、正式に受理されていない。良い判断を含めた、香川県警の真に良質な仕事ぶりに期待したいところだ。

ちなみに、ゲーム条例のマスター版は、パブコメの内容が何であろうと一切無視して、県議会事務局がマスター版としてあらかじめ決めたものを本会議に持ち込みしている*3。中の人しか知らないこの事実があるからこそ、ゲーム条例検討委員会のメンバーだった県議は「パブコメが実施されたこと自体…知りません!」とポロリしてしまったのだろう。

文字通りの爆弾発言に、ゲーム条例に賛同した西川氏も慌ててフォロー

そのような状況では、パブコメを「冷静に」精査したとはまったく言えない。あまつさえ、知らないどころか「パブコメ?そんなのかんけーねー♪」と、堂々と言い放つ県議会議員もいた。

新田 耕三:
ネット・ゲーム依存症対策条例は「よい」と思って賛成した議員である私の立場からすると、パブコメが多くても少なくても、関係なかったのです。

上に挙げたような、ある意味驚愕する思考を持つ人たちばかりの香川県議会議員だが、以下のように、わずかながらも、一市民としての視野と思考を忘れずに政治活動をしている香川県議会議員もいることは、忘れないでいただきたい

秋山 時貞:
2020年9月30日、県内の高校生が県に対して(ゲーム条例を違憲とする)国家賠償請求訴訟を起こしました。
現役の高校生が提訴にまで踏み切ったわけです。このことについて、知事はどのように受け止めていらっしゃいますか。御所見をお伺いします。
また、これはきっと彼だけの思いではありません。多くの高校生を含む当事者たちのこの思いに対してどう応えていくのか、併せてお伺いいたします。

秋山 時貞:
2020年2月定例会において、香川県ネット・ゲーム依存症対策条例が制定されて以降も、条例の制定過程について、県民のみならず全国から様々な批判が寄せられました。(中略) 議会の透明性・公平性について、疑問や疑念が日に日に強まっていることが繰り返し報道されています。県議会の信頼が損なわれてしまったと言わなければなりません。
(中略) 陳情2件のうち1件は、香川県ネット・ゲーム依存症対策条例の制定過程における問題点を洗い出し、県民への説明責任を果たすことを求めるものであり、県民から寄せられる疑問や疑念の声に誠実に応え、信頼回復を図るため、まさに今、県議会が責任を持ってやらなければならないことです。

樫 昭二:
ゲーム条例の条例制定過程における手続きに対し、透明性、公平性に問題があったと県内外から指摘されており、その疑念はいまだ払拭されていません。
私ども共産党議員団は、自由民主党議員会、リベラル香川の三会派で、県議会への信頼回復を図るための申入れを行い、条例の制定過程における問題点を洗い出し、説明責任を果たすために議会として説明ができる検証をする検証委員会を設置するよう議長に強く求めてきたところであります。

ゲーム条例への陳情についてはこちら (手前味噌で申し訳ございません)

第4階層:議事録内大探検の暫定結果

結果として、香川県(香川県議会)は、以下の「先例」を作ってしまった。

・パブコメの集票は、バックドア的な手段を使うなどの不正をしても何も問題ない
・パブコメの評価は、内容ではなく、賛成と反対の2項評価として単純に分けてよい

このことから、ゲーム条例の制定は、日本国の地方自治行政の歴史に大きな汚点を残す時事として残る可能性がある。「多くの人の羨望を受けるような”歴史に残る”偉業を行いたい」旨の他者承認欲求が異様に強いと思われる、ゲーム条例に賛同した香川県議会議員の願いがある意味叶った形になるが、その願いは、香川県内外を問わず国内の地方自治体の立法過程に悪影響を及ぼす効果以外、ない。特に、保守系議員の多い自治体に対する効果は抜群だ。すでに、ゲーム条例のパブコメの処理工程を真似する -賛成票が多いことを盾にして政策の実施をゴリ押しする- 地方自治体が、現れている
これが、ゲーム条例の制定過程とパブコメの問題において、最も懸念しなければならない点なのだ。

パブコメの結果を示したPDF文書に注目されたし

その意味でも、一連の事象に深く関わった香川県庁の職員と、議員含む香川県議会関係者は、問題を放置すればするほど、香川県民の持つ県政への信頼と香川県のブランドイメージが凋落することを本当に理解していただきたい。瀬戸内国際芸術祭や(良い意味での)うどん狂といった香川県に対する良いイメージも、徐々に消えていくだろう。たった1つでも、悪評にはそれくらいのインパクトがある。何より、香川県外に転勤した家族の子どもが、転校先の学校で、ゲーム条例をネタにいじめられる恐れがある。それでも、本当に子どものために策定した法令なのか、と、個人的には義憤すら覚える。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。
ご意見やご感想は、著者 (Twitter:@Attihelo37392M)までいただけると幸いです。

キミは無事に第4階層を踏破できた。
次の階層への階段は、間もなく現れるであろう…

参考資料

・香川県議会議事録 2020年7月2日:令和2年6月定例会、文教厚生委員会[教育委員会]、本文
・香川県議会議事録 2020年7月8日:令和2年6月定例会(第3日)、本文
・香川県議会議事録 2020年7月9日:令和2年6月定例会(第4日)、本文
・香川県議会議事録 2020年7月13日:令和2年6月定例会(第5日)、本文
・香川県議会議事録 2020年10月7日:令和2年9月定例会(第4日)、本文
*1 第4回情報法制シンポジウム テーマ 5「“香川県ネット・ゲーム依存症対策条例”を考える」より
*2 香川県 パブリック・コメント手続実施要綱(https://www.pref.kagawa.lg.jp/documents/4595/wlma2o150317143614_f01.pdf)
*3 県議会議員と懇意にしている、市民活動に携わる方からのコメントに基づく

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