「巨人」という名のウイルス
進撃の巨人に登場する巨人は、意思を持たずに人間を捕食という形で攻撃する。「寄生獣」であれば宇宙から来た寄生生物として、繁殖方法を持たぬまま自身の存在意義を問う場面すらある。「アイアムアヒーロー」のように人間をゾンビと化して隣人をその仲間へと変え増やすが、影響力のある対象が居なくなった後はどのような世界になるのか。
少なくとも現世で変態を繰り返すウイルスは宿主に取り憑き、繁殖し、また次の宿主へと移動を繰り返すため、宿主を急激に弱らせるウイルスは存在しない。存在したとしてもそのような特性を持つウイルスであれば瞬く間に移動手段を失い、取り憑いた宿主とごく僅か周辺の宿主へ移る可能性のみにしてその個体は絶滅してしまうのである。
ウイルスは単体では生きられず、生物学の基準に当てはまらないため生物として認識されていない。寄生してのみ分裂し、その目的は未だ人類にとって分かり得ない。
さて、進撃の巨人に登場する巨人はどのような存在であるか。
こちらは人類を捕食するが消化器官を持たない。なんなら排泄器官も持たないため、半端に人間を壊した後は口から吐き出す。またうなじを切って絶命させない限り、栄養を取らなくても永久に人間を追いかけ続けるのである。
まるで生物としての機能をしておらず、エネルギーの循環も繁殖の方法も持たず、生物学的に考えてもおおよそ生物とは考えづらいだろう。この辺りは質量こそあるがウイルスのそれに近い。
ファンタジーと言ってしまえばそれまでなのだが、調査兵団副団長のハンジが研究者として熱量を持って紐解いてくれる。ファンタジーの世界とは言え日本人よりよっぽど人間らしさを誇る進撃の登場人物が、なんの役に立つのか分からない基礎研究に没頭し常人や世間様がほとんど振り向かない様は、我々の世界観の延長線上であるのではないかと錯覚さえ覚える。結局巨人の生態調査については、この「進撃の巨人」の物語の中でも具体的に役に立つことはない。
しかし「わからないことに蓋をする」のではいつまで経ってもわからないまま、研究の末その方向で考えても「分かりえないことを知る」ことができれば、同じ方向で恐れることもそれ以上無駄に深追いすることもなく、そういうものだと受け入れられることも存在する。人は分からないことを分からないままにすることに一番恐怖を感じるのだから。
「寄生獣」という作品は「神がもたらした人類という生き物へのアンチテーゼ」と言う認識でいる(だいぶ作者の脳みそで攪拌されてる)。寄生獣もゾンビも巨人もウイルスも、そう言った意味で見れば、不自然に増えた人類に対して、ただ種を弱らせ減らすための虚しい存在と見ることが出来る。おそらく作者の意図するところと観れる。
ただ、進撃の巨人の作中ではさらに、人類が兵器として巨人を利用する様が描かれるが、物理的に視覚化された生物兵器としての存在は見もの。アニメファイナルシーズンではその辺りがダイナミックに表現されることでしょう!
コロナ禍の今、是非改めて観ることをお勧めしたい。