コンピュテーショナルデザインの起こすカスタマイズ化の潮流
この記事「電脳が創る見たことないデザイン 日野の近未来車」は、AIが人間の創造的な作業にまで浸透してくる第4次産業革命の事例として『コンピュテーショナルデザイン』を紹介したものですが、文中に見過ごしにできない重要な指摘が含まれていることに気付きました。そのことに触れる前に、第4次産業革命について、もう一度確認してみます(以前私が投稿した内容から抜粋。その投稿を本稿の末尾に添付しておきます)――
第4次産業革命とは、IoTとそれを制御するAIを活用することによって、コモディティ化するモノにサービスをセットして供給する、『コトづくり』が産業のあり方となる時代です(製造業のサービス化)。●クローズド=UX(ユーザー・エクスペリエンス)と直結しない・・・従来の『モノづくり』 『モノづくり』=メカニクス+エレクトロニクス+ソフト●ユーザー参加型=UXと直結・・・『コトづくり』のビジネスモデル 『コトづくり』=メカニクス+エレクトロニクス+ソフト+IoT+AI =モノ+サービス(モノとサービスの融合)
第4次産業革命をこのように理解するなら、その特徴は――
① IoTとAIが活用される。② ユーザー参加型である。③ モノとサービスが融合している。
ここで第4次産業革命の特徴から敢えてコモディティ化を外した点こそ、この記事で私が気付かされた指摘です。その指摘とは、日野自動車デザイン部創造デザイン室未来プロジェクトグループ サブリーダー兼コーポレート戦略部の渡辺邦彦氏の次の言葉です――
●「コンピュテーショナルデザインにより、顧客ごとに1つひとつ異なる設計のトラックを納車できるようにしたい」●(同社が販売するトラックは現在でも、顧客の要望を入れて1つひとつ異なる仕様で納車されている。それでも)「決まったメニューの中から選んでもらっているのに過ぎないところもある。もっと個別の要望に1つひとつ応えるようにものづくりを変えていかなければならない」
つまり、第4次産業革命のコア・テクノロジーであるAIを活用したコンピュテーショナルデザインによって、スピード感をもって一人ひとりのユーザーの要望に応えたカスタマイズが行えるようになる、ということです。この指摘は、第4次産業革命の進行する過程で、必ずしもコモディティ化だけが起こるのではなく、コモディティ化とカスタマイズ化に二極分化する可能性を示唆しています。
コンピュテーショナルデザインを使えば、ユーザーの要望と技術的な要件の折り合いのつく、製品化可能な最適設計案を生成することができ、実際の製造工程に3Dプリンティングのテクノロジーなどを組み入れれば、かなり広範なカスタマイズ(例えば自分だけの一点物の車)が実現可能と考えられます。これは、従来の『モノづくり』とは完全に一線を画する、ユーザー参加型のオープンな『モノづくり』であり、モノにセットされたサービスによってユーザー参加が担保されUX(ユーザー・エクスペリエンス)の最大化が図られる、という一般的な第4次産業革命のイメージとも異なります。このような革新的なカスタマイズ化は、ユーザーが設計・開発にも関与する、よりディープなユーザー参加であり、コ・クリエーション(価値共創)であると言えます――
●ユーザー参加によるUXの最大化 =【コモディティ化】モノにセットされたサービスにユーザーが参加する場合=製造業のサービス化 =【カスタマイズ化】モノの設計・開発にユーザーが参加する場合=コ・クリエーション ⇑●【コンピュテーショナルデザイン】の実現するもの=顧客の要望+技術的な要件を満たす
このようなカスタマイズ化が実現し、コモディティ化に対抗しうるシェアを獲得できるとすれば、直ちに指摘できることが2点あります。それは――
① 高度な技術力を持った日本の製造業にとって高いアドバンテージがある。② 特定の顧客のために開発(カスタマイズ)した斬新な商品が、広く大ヒットする可能性が高い(量産には顧客の同意が必要)。
私は、第4次産業革命において基本的な潮流はコモディティ化で変わりないと思いますが、『カスタマイズ化』、ユーザーが商品のデザイン(設計)に関与するコ・クリエーション(価値共創)型のビジネスモデルは、コスト的・価格的な折り合いがつけば、かなりのシェアを占める事が可能であり、技術的な課題は3Dプリンティング・ロボティクスなど実現可能なレベルに達しつつあると考えます。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO28739170Z20C18A3000000/