終電という心配がなくなる?~自動運転実用化のインパクト~
日経電子版の記事【MaaSの本命? 自動運転タクシーの衝撃を探る】は、MaaSに関する出色のリポートだと思います。MaaSの実現によって起きてくるであろうことが、広く体系的に語られており、近未来におけるその情景が瞼に浮かんでくるようです。
まず、記事から、その予測の流れを整理してみると――
▶自動運転タクシーのインパクト予測
24時間どこでも マイカーよりも ドア・ツー・ドア 交通弱者の
使える 低い総コスト の利便性 需要取り込み
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自動運転タクシーの利用者激増
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法人向け自動車販売 マイカーが 人が運転する配車サービス
が急増 減り続ける の減少
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北米・欧州で20年代後半にクルマの販売台数が現在の半分になる可能性も
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マイカー保有の場合の 中長距離の移動 交通事故率が80%削減も
半分の支出 スピードに優れる
移動にかかる支出の 公共交通との
減少 棲み分けが進む
+ (ラストマイル) ⇩
運転にかかっていた時間 膨大な駐車スペースが解放
が浮く ⇩
⇩ (公共)
通信サービス等が伸長 収益化・ビジネス化
(車内エンターテインメント) (民間)
居室化・庭の拡張など
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結果的にはトータルでGDPを押し上げる
(マイカーを個人が運転しても、運転という労働に対価は発生しないが、自動運転の場合は、1マイル当たりの移動に対価が発生する、という点も注意)
自動運転を中心とするMaaSというと、自家用車の生産台数が大きく落ち込むというネガティブなイメージが頭に浮かびますが、トータルとしてはプラスのインパクトが大きくなりそうです。そんなMaaSの実現した世界を想像してみると――
(1)終電の心配がなく、深夜料金もないと
どうなるか?
仕事であれ飲み会であれ、終電の時間を逃しても、自動運転タクシーでさして料金を気にせず帰宅できるとなると、どんなことが起きてくるでしょうか?ただし、人間の運転でないから深夜料金の制度は適用されないし、ダイナミックプライシングで夜間の料金が極端に高額になることもない、という前提です。
ポイントは、いつでも帰れる、逆に言うと、いつでも出かけられる、ということですから、娯楽だけでなく、仕事も含めたナイトライフ、ナイトシーンが活性化することは間違いないと思われます。これまでナイトシーンの活性化を妨げていた移動の制約が取り払われる訳です。
深夜も昼間とほとんど変わらないような、『眠らない街』が出現するとしたら、その経済効果は驚くほど多方面に波及するかも知れません。
(2)いらなくなったカーポートをどうするか?
個人宅の場合は、そのまま放置する人も案外多いかも知れませんが、庭を拡張し作り直したり、母屋を増築してプレイルームにしたり、新規の需要が発生することは間違いなさそうです。そのニーズを巧みに吸い上げた新しいビジネスモデルが誕生するかも知れません。
もちろん、自動運転タクシーの待機スペースとして貸し出すこと、また、その業務を請け負うプラットフォーム企業なども考えられます。
一方、不要になった公共・私営の駐車場については、前もってルールを定めておかないと、乱開発の温床になってしまうかも知れません。緑地化・公園化なども含めた計画性が必要となりそうです。
ところで、この状況には、地価の押し下げ効果があるのでしょうか?
(3)クルマが移動する部屋になる
運転の心配のいらない、移動コストも比較的低く抑えられるクルマとは、もはや今までの自動車とは全く違ったモノ、『部屋』と考えた方が良さそうです。『部屋』だとすれば、そこでの過ごし方が、全てビジネスのシードとなります。
移動レストラン、移動ホテル、移動映画館、移動アパート、移動マンション、移動事務所……そして、それらの駐車スペース、車内インテリア、ドライブスルー型店舗、ドライブスルー型の宅配便受取や返品拠点、クルマごと乗れる列車、船舶……ありとあらゆるビジネスが考えられそうです。
『移動する部屋』、エンターテインメントであれビジネスであれ、今まで一カ所に静止しながらやっていたことが、『移動しながらできる』という社会的、カルチャー的なインパクトには相当大きなものがありそうです。
今回の記事は、MaaSの実現した近未来の社会がどのように変貌するのか、それを思い描くベースとなる、卓越した未来予測だと思います。MaaSによってもたらされる変化は、想像を遥かに超えたものになるのかも知れません。