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何故、第3号被保険者は保険料負担が無いのか!?

 最近のニュースで話題になっていましたが、経済団体や労働組合から国民年金の第3号被保険者制度の中期的な廃止が相次いで提言されています。
 指摘されている現行の国民年金の第3号被保険者の問題点としては、①片働き世帯を優遇する制度となっている②働き控えの要因となっている③自ら働かないことを選択している第3号被保険者もいる④保険料を納めていないにも関わらず年金を受給できる不公平感等、が挙げられます。

 一方で、厚生労働省は、来年の通常国会に法案の提出を目指している年金制度改革で、第3号被保険者制度の廃止を盛り込まない方針を示しており、一旦は見送りとなりました。

 今回の投稿では、何故、国民年金の第3号被保険者は保険料を納めずとも年金がもらえるのかという点について、理解を深めてもらうために、できるだけ分かりやすく制度の解説をします。


1.国民年金の被保険者の種類

 まず、国民年金の被保険者(保険を掛けている人)には、次の種類が設けられています。
 なお、日本の公的年金には、国民年金及び厚生年金があり、それぞれ第●号被保険者という種類がありますが、今回の投稿では特段の記載が無い限り、国民年金の被保険者の種類であるということでご理解ください。
 また、分かりやすくするため、一部簡素化して記載していますので、ご理解ください。
①第1号被保険者
 第2号被保険者及び第3号被保険者ではない、日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満の者
 【例:フリーランス、自営業者等】

②第2号被保険者
 年金たる給付の受給権を有する65歳以上の者を除く、厚生年金の被保険者   
 【例:会社員、公務員等】

③第3号被保険者
 20歳以上60歳未満の第2号被保険者に扶養される配偶者
 【例:専業主婦、パートタイム労働者等】
 ※ここの「扶養される」に該当するための要件が、年間収入が130万円未満となっています。【所謂、130万円の壁】

2.各被保険者の保険料納付義務

 国民年金法では、第1号被保険者~第3号被保険者のうち、保険料(約17,000円/月)を納める義務があるは、第1号被保険者だけです。ここは、すごく重要なポイントなのでしっかりと押さえてください。
 では、会社員などが該当する第2号被保険者は保険料を納めないのかというとそうではなくて、厚生年金の保険料に国民年金相当分を含んで徴収されるため、国民年金としては納める必要が無いということです。
 一方で、第3号被保険者は、保険料を納める義務が無く、保険料を納付していない期間も保険料納付済期間として取り扱われ、原則65歳から年金が支給される制度になっています。

国民年金の被保険者の種類(日本年金機構HPより抜粋)


3.何故、第3号被保険者は保険料を納めなくて良いのか

 では本題の、「何故、第3号被保険者は保険料を納めなくても良いのか」という点です。
 本来の保険原理の考え方に基づくと、保険制度は、多数の人々が保険料を拠出し、これらの人々の中で老齢により働けない方や障害等を被った人に対して必要な保険給付を行うもので、一種の相互扶助的な制度といえます。
 一方で、国民年金の第3号被保険者は保険料を直接納めていませんので、この点から考えると、保険原理に反した制度ともいえます。では、何故、そのような制度になっているかについて次の3点の理由が挙げられると考えます。

(1)年金制度改革の経緯
 昭和36年、国民皆年金体制が実現しましたが、被用者に扶養されている配偶者の国民年金への加入は任意であり、一方で、被用者年金の年金額は、専業主婦世帯を前提に世帯単位の給付設計(夫名義の年金で夫婦2人が生活できるような給付設計)となっていました。
 当時の制度では、「共働き世帯」や「任意加入の妻を持つ世帯」では夫の厚生年金に加え、妻の国民年金が支給されることで、世帯全体の給付水準が過剰になる点や、国民年金に未加入の妻は障害や離婚時の年金保障が受けられない点の問題が生じていました。
 昭和60年の年金制度改正では、これらの問題に対応するため、全国民共通の基礎年金が新設され、厚生年金等の被用者年金は基礎年金に上乗せされる報酬比例年金(下記画像の黄色部分)となり、被保険者に扶養されている配偶者が「第3号被保険者」として国民年金への強制加入の対象となりました。 

制度改革前⇒制度改革後(厚労省の資料より抜粋)

 上記画像は、昭和61年3月31日以前(左側)と昭和61年4月1日以降(右側)の年金制度を表したものですが、左右の図を比較してみると、左側の年金額の全体額がほとんど変わらず、配偶者(妻)が、第3号被保険者として強制加入したことで、右側の図では夫婦が共同して年金を受け取ることになっています。
 ここで重要なポイントが、元々、専業主婦世帯を前提に世帯単位の給付設計となっていた年金制度が、夫婦で受給することに変わったという点です。
 その為、昭和61年3月31日以前では配偶者(妻)が国民年金に加入せずとも左側の図の年金(夫名義の年金)を世帯として受給していた中で、昭和61年4月1日以降、夫婦が共同で年金を受給するという制度になったとしても、年金のパイが変わらないのであれば、引き続き保険料は徴収しないという考え方です。

(2)公的年金の負担と給付構造
 第2号被保険者は報酬比例により保険料が設定される仕組みとなっており、年金額も納めた金額に応じて変動するようになっています。
 そのため、厚生年金に加入する被用者世帯においては、片働き世帯(第2号被保険者:1名)か共働き世帯(第2号被保険者:2名)かによらず、夫婦の合計賃金が同じであれば、同じ合計年金額であり「負担と給付の関係」をめぐる公平性は保たれていると見ることができるという考え方です。

公的年金の負担と給付の構造(厚労省の資料より抜粋)

 なお、厚生年金の金額は、「平均標準報酬額×給付乗数×納付月数」で計算されます。上記画像をもとに納付月数を400ヶ月と仮定し、次のとおり計算することができます。
 【夫のみ】
  40万円×5.481/1,000×400ヶ月=876,960円
 【共働き】
  夫:20万円×5.481/1,000×400ヶ月=438,480円
  妻:20万円×5.481/1,000×400ヶ月=438,480円
  合計:876,960円
 以上のように夫婦の合計賃金が同じであれば、同じ合計年金額となります。
 但し、お気づきの方もおられると思いますが、実は単身世帯と夫のみ就労している場合と比較すると、後者は、妻の基礎年金部分が多くもらえることになります。つまり、単身世帯との比較では不公平感のある制度であるとの指摘ができます。

(3)被扶養配偶者の家事労働
 厚生年金には、離婚等をした場合で一定の条件を満たしたときには、国民年金の第3号被保険者であった方からの請求により、婚姻期間中の3号被保険者期間における相手方の厚生年金(標準報酬月額・標準賞与額)を2分の1ずつ、当事者間で分割することができる制度があります。
 これは、「3号分割」といわれる制度で、夫に妻が扶養されているケースをモデルに説明すると、夫婦が離婚した場合、それまでの保険料に対する将来受け取る老齢年金は夫が「老齢基礎年金+老齢厚生年金」であるのに対して、妻は「老齢基礎年金」しか受給することができません。
 妻としては、家事等を行い夫の仕事をサポートしてきた部分もあることから、第2号被保険者の保険料は、被扶養配偶者が共同で負担したものと認識し、その寄与分として老齢厚生年金の報酬比例の部分を分割する制度としてこの「3号分割」ができました。
 ここでポイントが、厚生年金の法律上、扶養されている配偶者であっても家事等により、夫の収入に貢献していることが考慮されたという点です。つまり、第3号被保険者は直接的に保険料は納めていませんが、掃除、洗濯、料理などの家事労働により、「第2号被保険者の収入の増加」=「報酬比例として徴収される保険料の増加」に寄与しているという考え方です。

4.第3号被保険者に対する年金の財源

 次に費用はどうやって賄っているのかという点ですが、第3号被保険者の年金費用は、配偶者である第2号被保険者から徴収した保険料で負担している扱いとなっています。

5.まとめ

 第3号被保険者の制度は、人々のライフコースの多様化等に伴い働く女性の増加等の社会環境の変化により、他の被保険者との間で不公平が生じていること、女性の就業を抑制する要因になっていることなどが指摘されています。
 また、これらの考えの背景には、専業主婦等の被扶養配偶者は働いていないという考え方が少なからずあると思いますが、実際は、世帯としてみたときには、家事、育児、介護など様々な面において、世帯収入の増加に貢献しているといえ、現行の年金制度では、(2)(3)にもあるよう法律上も、そういった点を考慮して設計されています。
 現行の第3号被保険者の数は約700万人でありますが、今後は、厚生年金の適用拡大などにより、当該第3号被保険者の数はさらに減少すると見込まれます。今回の議論では、直ちに廃止するとなると不利益を被る人が多いので見送りとなりましたが、引き続き議論が活発になるでろう論点として動向に注目していきたいです。

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