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厚生年金の加入者になるかも!?年金制度改革【ニュース補足・解説】

 厚生労働省は、年金制度改革をめぐって、個人事業主の適用事業所については29年10月から飲食・理美容業などを含む全業種に対象を広げるとともに、パートなどで働く人が厚生年金に加入できる企業規模の要件については、2年後の10月に現在の従業員51人以上から段階的に緩和し、4年後の10月に撤廃する方向で調整に入るというニュースがありましたので、解説・補足をしたいと思います。


1.ポイントの整理

 改めてとなりますが、上記ニュースのポイントを整理すると次のとおりです。
 一つ目が、適用事業所の対象業種に、2029年10月から個人事業主が行う「飲食店」、「美容業」などの全業種が含まれるようになる。
 二つ目は、厚生年金の特定適用事業所における従業員の規模要件が、現行の51人以上から、2027年10月に21人以上、2029年10月には撤廃となる。
 

2.結論

 次項以降、一部専門的な話が含まれていますので、結論だけ最初に申し上げます。まず、厚生年金の被保険者が大きく増えるかについては、次の厚生年金未加入者にどれだけ影響を与えるかによります。
 ①事業所が厚生年金の適用事業所に該当しない正社員等。
 ②事業所が厚生年金の適用事業所であるが、特定適用事業所には該当しない短時間労働者。
 ③週や月の労働時間や日数が少ないパートタイム有期雇用労働者等。
 今回のニュースでは、主に①と②に影響を与える改正となりますが、厚生年金の被保険者が増えるかという点については、一定の増加要因にはなるものの、爆発的に増えるインパクトはないと考えています。但し、短時間労働者に該当するための賃金要件(所謂、「106万円の壁」)が撤廃された時には、かなりの増加となる。というのが私の結論です。
 以下、この件について説明、補足等をします。

3.適用事業所とは

 厚生年金における事業所の分類として、適用事業所と適用事業所以外という区分があり、法人であればすべて、個人事業所については、従業員数と業種によっては除かれる。という整理になっています。(日本年金機構のQ&Aによると適用事業所は、次のとおり。)
 なお、今回のニュースでは、(②)の除くとされている業種(飲食業、美容業等)が適用事業所になるということです。

(①)常時従業員を使用する株式会社や、特例有限会社などの法人の事業所または国、地方公共団体
(②)常時5人以上の従業員を使用する個人事業所(旅館、飲食店、理容店などのサービス業は除きます。)
(③)船員が乗り組む一定の条件を備えた汽船や漁船などの船舶

4.業種の拡大による影響

 全国の飲食店数は約55万事業所(*1)、美容業は約27万事業所(*2)等となっており、適用事業所の業種拡大によって適用事業所のかなりの増加が見込まれると考えています。
 ただ、注意点としては、従業員数5人以上を雇用する個人事業所が対象であり、一部の従業員数が少ない個人事業所は対象外であること、適用事業所になったとしても、法律上の短時間労働者(*3)に該当した場合、被保険者の適用除外となるので直ぐさま被保険者の増加にはならないということです。
 この点について、適用事業所が増えると、適用事業所で雇用されている正規従業員等は被保険者数になり得ますが、*3の要件によりパートや有期雇用労働者については対象外となる場合が多く、それほど被保険者の数は伸びないと予想しています。
 *1 総務省・経済産業省「令和3年経済センサスー活動調査」より
 *2 厚生労働省「令和4年度衛生行政報告例」より
 *3 1週間の所定労働時間が同一の事業所に使用される通常の労働者の1  
    週間の所定労働時間の4分の3未満、又は、1ヶ月間の所定労働日数  
    が同一の事業所に使用される通常の労働者の1ヶ月間の所定労働日
    数の4分の3未満である短時間労働者

5.特定適用事業所とは

 厚生年金の適用事業所に該当した場合でも、さらに特定適用事業所に該当する事業所なのかという線引きがあり、このラインが従業員数の規模要件として、現在は51人以上となっています。
 この特定適用事業所に該当すると、被保険者に該当するかの基準である要件(上記*3)を満たしても、さらに次のいずれかの要件を満たさなければ、厚生年金の被保険者となります。

(ア)週の所定労働時間が20時間未満であること
(イ)所定内賃金が月額8.8万円未満であること
(ウ)学生であること
(エ)2ヶ月を超える雇用見込みがないこと
 なお、(イ)の要件が、年収に換算(8.8万円×12ヶ月≑106万円)すると約106万円になり、これが年収の壁と言われているものです。

6.規模要件撤廃の影響

 特定適用事業所の規模要件がなくなるということは、適用事業で働くパートや有期雇用労働者については、上記(ア)~(エ)の要件を満たさなければ、厚生年金の被保険者となります。つまり、130万円の壁を意識していた方は、106万円の壁を意識して働く必要があります。
 ただ、この点については、厚生労働省も106万の壁によって生ずる就業調整を予想しており、最低賃金が全都道府県で時給1,016円以上に上昇した時点で、(イ)の要件を撤廃する方向になっており、近い将来、106万円の壁は無くなるでしょう。

7.被保険者拡大の本丸

 上記のように、今後、事業所における厚生年金の適用は広がってはいきますが、厚生年金の被保険者が大きく増えるかという点については、短時間労働者による被保険者の除外要件(上記*3、(ア)~(エ))を見直すことが本丸になると考えています。
 直接的な統計データではありませんが、令和5年度労働力調査によれば、非正規社員のうちのパート及びアルバイト者の人数は1,522万人であり、かなりの人数の方が就業時間や賃金額を理由に被保険者となっていないことが予想できます。
 今回のニュースのなかでは、(イ)の要件を撤廃する方向が示されたことは、被保険者の数が増えるという部分では影響の大きいことだと思いますが、(ア)の要件については、雇用保険の適用拡大の施行状況等も慎重に見極めながら検討を行う必要がある等の意見もあり、見直しは見送りとなりました。
 なお、日本の公的年金制度は5年に一度見直すとされていますので、次回(令和12年度以降)の改正に向けて、(ア)の要件の見直しが進めば、被保険者の増加がさらに加速すると予想されます。

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