派遣会社『現実逃避』
今から約6、7年前「よ・う・か・いのせいなのね、そうなのね!」となんでも妖怪のせいにしてしまう歌が流行ったことがある。
その時は、なんでも妖怪のせいにしてしまう風潮を心配する保護者まで出だしたそうな。
今コロナの影響でそれまでの生活ができていない状況で、僕のところにはたくさんの妖怪が訪れている。
きっと今までにもたくさんの妖怪が訪れていたけれど、大人になってしまった僕はその存在に気付けなかったのだろう。
今回はこのコロナ禍で、大量に僕のところにやってきている妖怪たちと、この際だからじっくり向き合ってみることにした。
タイトルにある派遣会社「現実逃避」というのは、僕がこの妖怪たちと向き合った時に気づいた、その妖怪たちの親元である。
厄介なことにこの派遣会社は、このコロナ禍で通常の派遣会社が身動きが取れないことをいいことに、ここぞとばかりに社員を派遣している。僕の予想では間違いなく皆さんのところにも訪れているはずだ。許可もなく訪れ、そして居座る、全くもって迷惑な会社だ。
今のところ僕が出会った派遣妖怪は4通りいる。ただ皆さんからの目撃情報、体験談も合わせればもっと悪質な妖怪もいるかもしれない。今後の人類のためにもデータをアップデートしていきたいところだ。
それでは4通りの妖怪を紹介しよう。そして今後僕のところに長々と滞在するようであれば、その都度どうやってお帰りいただいたのか、奮闘記として記していきたと思う。
まず、エントリーナンバー1、漫画にもなりそしてドラマにもなったあいつ
「たら・れば兄弟」
漫画、そしてドラマでは「タラ、レバー」を基に可愛く描かれていたけれども、その正体は全然可愛くもない性悪兄弟なのである。
常に人々に過去を振り返らせ、「〜〜だったら、〜〜してれば」とありもしない現実ばかり見させようとする。派遣会社「現実逃避」の“エース妖怪“と言っても過言ではない。そりゃあ漫画化もドラマ化もするわ。
ありもしない現実を考えさせ、リアルと向き合うのをやめさせる魔力、それが強ければ強いほど、人類は現実を生きることが辛くなっていく。
常に選択を迫られる人生、こいつらに出会わずして生き抜いていく力、それがどこで手に入るのか、我々人類はまだ知らされていない。目撃情報求む。
エントリーナンバー2、、「後 de 野郎」
ちょっとチャラついた2匹目の妖怪、こいつは名前から察するに新手のYoutuberかもしくは売れないDJか、といったところだがまさにその通り。
必殺技は「後回し」。
体に装備されているディスクの上に、目の前の人間のやりたくないことを乗せ、軽快にそのディスクを回し「後 de イッショ!」とテンションぶちあげでやりたくないことを神隠ししてくれる。
その必殺技「後回し」をされた時、人々の脳には幸せホルモンが分泌されるが、その後日、大量の罪悪感とともに終っていない仕事等が押し寄せてくる。一種の麻薬みたいな技を繰り広げてくる。とても厄介だ。
そしてこの後de野郎に取り憑かれると、人々は「のびのびやろう」と開き直り、某有名アニメの「野比の◯太」のようになってしまう。彼の名字に「野」の字が入ってしまっているのは、この妖怪に取り憑かれた何よりの証拠なのだ。
人々はこの妖怪に出くわさないようにある呪文を唱える。
それは「明日野郎は馬鹿野郎」
特にこの妖怪は思春期の子どもたちを狙うことが多いようで、受験生たちは受験勉強というものを後回しされないよう、必死にこの呪文を唱える。
また、ぽっちゃり体型の人もこの派遣妖怪の滑腔の餌食のようで、甘いもの、食べたいものを我慢しようとするその瞬間を狙ってくるようである。
こいつの倒し方が「明日野郎は馬鹿野郎」の呪文しかないのが今のところ、人類の弱点である。
このコロナで、経済が停滞し、在宅勤務になり、時間がのんびり流れるようになってからはこいつがやたらと僕のとこりに入り浸っている。必殺技も何度もかけられとても困っている。誰か助けて欲しい。
エントリーナンバー3、「物怖じぃ」
名前の通り、おじいさん妖怪である。その姿は名前が表す通り、へっぴり越しである。この妖怪がやってくると、人々は皆、何をするにも物怖じし、あれやこれやと不安に駆られ行動に移せなくなるのである。
たまに物怖じぃがいたことで、危険を回避するということもできるが基本的にチャレンジ精神を持った人々の心を折っていく妖怪である。
この物怖じぃに長いこととりつかれすぎた人間は自分のチャレンジ精神を否定するだけでなく、他人に対しても「できやしないよ」「無理だって」「やめといた方が良いよ」とアドバイスをするようになる。そして何より人間が歳を取れば取るほど、この妖怪に取り憑かれていくのである。
小さい頃に、この「物怖じぃ」に対しての免疫を手に入れられるかどうか、それが大きな鍵になっている。
もし、この物怖じぃが現れた時の対処方法としては、とにかく物怖じぃの言葉に耳を傾けないことだ。特に何かに挑戦し、失敗した時、物怖じぃはここぞとばかりに「ほら見たことか!!」と狂喜乱舞する。折れ曲がっていたへっぴり腰さえも、真っ直ぐになって踊り出す。そしてそこに「たら・れば兄弟」がやってくるのがお決まりだ。これこそが派遣会社「現実逃避」のやり口である。気をつけて欲しい。
エントリーナンバー4、「未来予想図」
4番目の妖怪は今までの3匹の妖怪とは違い、少しポジティブな要素を持つ。
風貌としては、帽子を深く被り大きな地図を広げるちょっとスカした妖怪。スナフキンを彷彿とさせる。
これからの人生、どうする?と囁いてくる。そしてこんな未来は、あんな未来はと提案してくるのだ。
こいつの厄介なところ、それは明るい未来を見せるだけ見せ、そこで終わるのだ。
たら・れば兄弟が、過去についての妄想を繰り広げるのに対し、こいつは未来に対しての妄想を繰り広げる。
噂によると、たら・れば兄弟と常に営業成績を競っているらしい。
この妖怪は、人々を明るい気持ちにさせているというところに誇りを持っていて、特に性質柄物怖じぃとソリが合わない。
また、未来予想図を見せるだけ見せ現実とのギャップで、人々を落胆させることを得意とするが、まれにそれが人々を奮起させる起爆剤となってしまう部分がある。
本人としては不本意な結果であり、会社としても本来の目的とは異なるため、手を焼いている部分である。
その点が、この未来予想図がたら・れば兄弟に勝てない部分だ。
さて、長々と僕の周りをうろちょろしている妖怪たちについて、愛を込めて紹介してきた。
冒頭でも書いた通り、これからこいつらが長く居座るようであれば、奮闘記を書いていきたい。
そして、それらを書くことで、またやらなければならない仕事から目を背けていこうと思う。
この妖怪紹介こそが、まさに僕の現実逃避なのだ。
派遣会社『現実逃避』。してやられたり。