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母のラブストーリー

11月12日は父と母の結婚記念日だった。

パートの最中に、
「あー、今日、お父さんとお母さんの結婚記念日だなぁ」と思い出したのだ。
1112(イチイチイチニー)となんとなく語呂合わせが良くて覚えていた。

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父と母が結婚したのは昭和24年である。
西暦にすると、1949年。
今年は2024年だから今年は75年目にあたる。

戦争が終わったのが1945年。
父と母が結婚したのはそれから4年後。
終戦後まもなくで、世の中が落ち着いておらず大変な時代だった。

当時、父は銀座の会社で働いていたが、東京のど真ん中でも店の数が少なかった。

ーーー

父と母が出会ったのは、偶然だった。
当時、父が下宿していた家が、母の親戚だったのである。
親せきのおばちゃんの家に遊びに行った母。
そこで父に出会う。

当時、父方の母親(私にすれば、おばあちゃん)が別の女性と結婚させたがっていた。

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父の母親(私のおばあちゃん)は、芯の通った女性だった。

実家は武家で、結婚するときに懐剣を持ってきた。
着物の胸もとに差し込める大きさの刀である。
何かあったときには、それで応戦したり、いよいよの時は自害するために使う。

幼い頃、おばあちゃんから実際その懐剣を見せてもらった記憶がある。
刃がピカピカしていて怖かった。きれいな縫い取りの袋に入ってた。
つい最近まで日本はそんな時代だったのだ。

父は親の反対を押し切った。
きっかけは母が実家を出たから。
母の両親も結婚には反対だった。苦労するのが目に見えていると。
お互いの親に反対されながら、2人は結婚したのだ。

恋愛結婚は珍しかった。
(のちの嫁姑問題の基本はここにできてしまったのかもしれない)

ーーー

東京は焼け野原からの復興の時期。
生きていくのに精一杯の時期の結婚だ。

まずは日本橋高島屋で花嫁花婿の写真を撮ったこと。
父の故郷に帰って、地元で結婚式を挙げたこと。
町中をお披露目として、手を取られて花嫁姿で歩かされたこと。
長い距離を花嫁姿で歩いたので、母は疲れ果てた。

笑いながら話していたけど、聞いている娘としては驚きだった。
そんなこと、小説の中だけかと思っていた。

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11月12日。

結婚記念日だからと言って、特別な事は何もなかった。
思い出話が出た。

当時お休みは日曜だけだった。
父も母もゆっくり話す時間がなかったのだ。
父は、昔の勤勉な日本人だった。
寝る時間も惜しんで働いていた。
母も育児と家事に全力投球していた。
ご飯も洋服も圧倒的に手作りが多かった。

そう、思い出話だけの結婚記念日。

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娘であるわたしが言うのも変だが
父はイケメンだった。

目が大きく、二重で鼻筋が通っていた。
成績もよかった(成績表が全部甲だった、実物を見たことあり)
剣道も強かった。
学生時代は目立つ存在だった。

母は父の実家に行った時
ある女性に声をかけられた。

「あなたが○○さんのお嫁さん?
○○さんはかっこよくて頭もいいから人気があったのよ。
すれ違うだけで緊張したものよ」

どんな人が妻になったか見に来たのだろう。
そのときの母の気持ちを思うと、ちょっとつらい。

母は高等女学校を出ただけで大学には行っていない。
女学校時代には、学徒動員で鉄砲の弾丸を作っていた。
勉強する時間はなかった。

父に釣り合ってないのでは…という気持ちが
いつも母の心の中にあったのだ。

ーーー

わたしは結婚して家を出た。
久しぶりに里帰りしたとき(当時わたしは46歳)
母(その当時78歳)がポツリと言った。

『お父さんのことが大好きでね。

本当に結婚したのかなあって不安になることがあって。
夢なんじゃないかなって。

夜寝ていて、隣を見ると、お父さんが寝ている。

あー、よかったなぁって安心して寝るの』

ーーー
父親としての顔、母親としての顔しか知らないけれども、
恋をしていた若者だった時代があったんだと。
46歳のわたしは意外な気持ちにとらわれた。
満足な返事もしなかった。

でも今63歳のわたしはわかる。
「本当に愛していたんだ」と。
恋のために故郷を出て。

嫁姑問題、経済問題、感情的な問題、
夫婦げんかもたくさんしていた。
いろいろ波風あったけど
それでも、大好きな人の隣が良かったのだ。

ーーー
父は15年前に亡くなり、
母は現在96歳で老人ホームに入居している。
今年は結婚75周年だ。

お互い大好きで結婚した父と母。

愛する人の隣にいたい、と思った母の気持ちを、
大事にわたしの心の中に取っておく。
母のラブストーリー。
母が実家から出なければ、今この世にわたしは存在していない。

心の中でそっとつぶやく。

お父さん、お母さん、
75年目の結婚記念日おめでとうございます。
娘のわたしはいま幸せです。
ありがとうございます。


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あつこ (64) フワフワ文系妻 定年理科系夫 育て中
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