#21 落ち込んだり、よろんだり。ボリビアでデザインを教える毎日は、つづく。
2022年3月30日 miércoles
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今日は朝からオフィスがバタバタと、みんな出たり入ったり、一箇所に集まってリモート会議をしたり、忙しくしていた。まさに今、この時間(19:30)、久々の、リモートではない、カンファレンス?が配属先の主催で行われている。今週に入り、各教員への参加促進の連絡や、準備に奔走していたマネジメントのスタッフ。海外から?講師を呼んでのセミナーらしく、気合の入れ方がちがう。親しくしている教員に話を聞くと、ここでは年に数回こういったイベントを予定しているらしい。ボリビアでは一般的に、海外から人を招くと「おー!」とそれだけで尊敬の眼差しを向けるが、国内のデザイナーに対しては、素晴らしい人もいるのに扱いが低くなる、と言っていた。「ボリビアの良くないところだ」と彼曰く。
そんなこんなで、私も明日の夜に、誰でも参加OKのオンライントークを予定しているが、そんなことはそっちのけで動いている管理部の様子を目の前に黙々と資料を作っていたこの日々。イライラは、つのる。
唯一の救いは、自分の提案した活動についてきてくれている生徒がいること、そしてその活動に参加してくれている数人の教員との交流。活動の準備や調整が大変ではあるが、生徒の反応にうれしくなる時もある。なので、少数ではあるが、彼らのためにできることをやる、と決めた。
今日も、ひとつのプロジェクト「ボリビアの障害を持つ人とのデザインプロジェクトを考える」の定期ミーティングがあり、徐々に参加者が抜けていく悲しい現実と、まだリサーチ段階で動きが少なく、参加者のモチベーションが低下してきた現状を見かねて、今一度このプロジェクトをする意味(大きな文脈から、と自分自身のモチベーション)を見直す時間にしようと思い立って(計画性がない!笑)、それらを考えるための資料、プレゼンテーションを用意した。
その中で、このプロジェクトに対する私自身のモチベーションや、初めての自分のデザインプロジェクト=卒業制作 をどのように作り上げたか、というようなことも話した。結局のところ、私は技術を教えることはできなくて、自分の経験から得た考えや、経験そのものを共有することしかできない。
私が話し終えた時、生徒の一人がニコッと笑って拍手をくれた。
なんか心が温かくなる。
その後、私の用意したワークシートに、このプロジェクトの大きな意義と、プロジェクトに参加する個人的な動機など、各自、時間をかけて書き込み、発表してもらった。うれしかったのは、それぞれにちゃんと自分なりの理由が見えたこと。「今日ここに書いたことを忘れずに最後までやっていこうね。私はみんなが書いたこと、時間をかけてちゃんと読みたいから一旦回収します!」と言うと、「あ、写真に撮ります!」と言う生徒。「また返すから大丈夫よ」と。一生懸命取り組んでくれたのがわかるそんな言葉に、またうれしくなる私。
ミーティングを終えてから、この活動に参加してくれていて、二年前から顔見知りの教員Walterと30分ほど雑談する。「生徒たちのやる気を引き出せてsuper bien! (すごくよかった)」と、今日の活動について。その後、ボリビアのデザインの強みはどこにあると思う?可能性のある分野は??などなど意見交換。私は、アニメーションなんかいいんじゃない、ボリビアは独特のリズムがあるし、音の要素をうまく使ったら?など勝手気ままに自分の思うところを言う。すると「ABUELA GRILLO」というアニメーションを見せてくれた。(ヨーロッパでアニメーション制作の勉強をしたボリビア人が作った作品)
そういえば二年前にも、この作品のことを誰かに教えてもらって見たのを思い出し、時間がつながった気がした。
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2022年4月1日 viernes
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昨日の夜は、第2回目の CLUB de INTERCAMBIO(私の提案した活動)で、日本の近代デザインが伝統的な要素をどう取り入れているか、についてのオンライントークを開催した。
結局その日の朝にZoomがセッティングされた上、ディレクターから教員たちに参加促進のアナウンスがされない!という、悲しい扱い。。。とりあえず私は、他のプロジェクトで一緒に動いている仲間に情報を共有する。すると、Walterが、教員グループのWhatsapp(LINEのようなアプリ)で早速情報を回してくれ、参加を促してくれている(涙)。。。私が関わっている生徒たちからは「待ってました!」という反応もあり、少しでも興味を示してくれる人がいることに心から、ありがとう、とおもう。
さらに、ここ数日、ボリビアのデザインの現状について情報交換的にやり取りを続けている Susana Machicao(ボリビアの国際ポスターイベントBICeBéを組織しているグラフィックデザイナー)にもアナウンスすると、「テーマもおもしろいし、きっと興味のあるデザイナーがたくさんいると思うから、情報を共有する」と言ってくれた。その甲斐もあってか、その日のアナウンスにも関わらず、50人ほどが参加してくれた。一時間ほどのプレゼンを終えた私は、ヘロヘロに疲れていたけど、それなりに反応もあったのでよかった、と、ほっ。
(↑Walterが自分の記録用?に録画した、と後日送ってくれた動画。客観的に聞くと、自分のスペイン語が拙さすぎて恥ずかしくなる。)
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2022年4月2日 sábado
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今日は午前中、部屋の掃除と洗濯をしたあと、午後にある定期ミーティングの資料作りをする。なかなか先の調整が難しいプロジェクトで、毎週毎週、次のミーティングに何をするか考え、資料作り、というやり方になってしまい、この準備にかなりエネルギーを消費してしまっている。
しかも慣れない(そして決して得意ではない・・・)データ分析めいたこともしてみたりして、それを生徒に説明する、とか。めちゃくちゃ焦る。とにかくなんとか形になるように持っていきたい、と思いながら。
このプロジェクトも別のプロジェクトしかり、まだ調査段階で動きが少ないのでモチベーションが落ちてきている?という感じだったので、今一度プロジェクト全体の進め方と、今どの段階にいて、これから何のリサーチが必要か、という話をしよう、と、そのための資料作りをしていた。
そして、観察・リサーチの重要性を伝えるべく、Glasgow School of Artでのプロジェクト時の私のスケッチブックの中身をいくつか、と、一年でおこなった、すべてのリサーチ・実験(↓)を写真で見せた。
「たった一年でこんなにするのか・・・」とびっくりする生徒たち。すると、同僚のダニエルが援護射撃的に、リサーチの厚みの重要性、そのプロセスを経るか経ないかで「唯一それだけ」のものか、「どこにでもあるもの」になるかが決まる、的なことを話してくれた。(ヨーロッパとラテンアメリカのデザインの考え方の違いに言及しながら。)
そして、このリサーチを経て、たったひとつの作品をつくった、と私が言うと、生徒たちはさらに驚く。私は「ここでは視覚化する前のリサーチが圧倒的に足りない」という点と、「リサーチはつまらないものでなく、楽しいし、デザインする上ではとても大事なプロセスだから、もっと日常的に情報を集めようと意識してほしいし、それを楽しんでほしい」と話した。
(↑私の作品を見る生徒たち)
ミーティングの途中で、すごい雨の音が聞こえた。「また突然の土砂降りだー」と、その数秒後「あ、バスタオル干したままだわ・・・」と気づいて若干落ち込む。ミーティングが終わり外に出て濡れた地面を見ながら、「もう一回洗濯しよう」と心に決め、家に着くと、バスタオルが屋根の下に移動しているではないか!「エリカさんーーー!!!」その気遣い、感謝しかないです。
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2022年4月3日 domingo
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昨日の夜は、友人から食事、そのあと踊りに行こうと誘いがあったのだが、本当に出かける気力もないくらい疲れ果てていて、さらに今朝は同僚のダニエルの彼女、ヒメナ(私はヒメちゃんと呼んでいる)をプールに連れて行く約束をしていたので、家でゆっくり過ごした。
先週の日曜日も泳ぎに行ったのだが、それをヒメちゃんに話すと「どこのプール?楽しそう!」私が「一緒に行く?」と誘うと、二つ返事で「行きたい!」ということで、私は二週連続で泳ぎに行くことになった。
朝、彼女の家に寄ってからPumakatarri[プーマカタリ]を捕まえるべくバス停へ。ダニエルも途中まで一緒に。彼はMinibus[ミニブス]でアーチェリーの練習へ行った。
施設に着いて、私はいつものように平泳ぎでゆっくりレーンを往復する。時々、あまり泳ぐのが得意ではなさそうなヒメちゃんと、彼女の体を支え、体を浮かす練習をしたり、おしゃべりしながら。一時間半ほどプールで過ごしてその後サウナへ。ミストサウナと普通のサウナに入り、腹ペコで死にそうな私たちは早めに切り上げ「食べに行こう!」と施設を後にする。
その後ダニエルと合流しお昼ごはんの予定、が、待ちきれない私たちは先にレストランでお肉とビール。ダニエルが合流した頃にはすでに食べ終え、しかも今度は食べ疲れて眠くなっている私たち。
「いい休日だね」と、体は疲れながらもリラックスできた様子のヒメちゃん、と、私。
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ATSUKINO(アツキーノ)
2006年〜日本でグラフィックデザイナーとして働いた後、2013年に渡英。スコットランドの The Glasgow School of Art で修士号(Communcation Design: Graphic Design)を取得。帰国後はアートディレクター、キュレーターとしてデザインディレクションとともに現代アートの展示企画制作なども行う。海外での生活、旅を通じて得られる新たな表現や人との出会いが次の可能性につながると信じて動く、旅するデザイナーでありアーティスト。現在は南米のボリビア、ラパスにてJICAボランティア活動中。デザイン教育環境の改善にあたっている。
http://nakanoatsuko.com/
https://shadow-candle.com/