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旅でいちばん大切にしていること

『旅』って書くと仰々しいですね。
いわゆる自分の生活から一歩外に出たときのワクワクした高揚感のある日です。
私にとっては日本語が通じない海外へ一人で『旅』をするときでしょうか。
日常はとっても面倒くさがりで出不精な私ですが、旅に出ると強制的に(?)いろんなことを経験させてくれるのでとても貴重です。

ツアーのような、決められた行程を消化するような旅行は苦手です。
なんとなく得られる結果がわかってしまうからだと個人的に思っています。
守られている安心感は最高なんですが。
せっかく動くのならば、自分の知らないことを肌で体感して経験する方が性に合っている気がします。

一人旅って何が楽しいの?そう思われる方も多いと思います。
実際に一人旅をしてみると、めちゃくちゃ大変だということが分かります。
荷物を取られないか四六時中気を張っていなくちゃいけないし、日本語が通じないところでどうやって目的地まで行けるのか分からなくて途方に暮れそうになるし、違う電車に乗ってしまって時間までに目的地に着かないんじゃないかとパニックになるし、買いたい物がそこになかったときの絶望感…本当に散々です。

それでも一人旅をやめない理由は、やっぱり得られる経験でしょうか。

10代、20代のときのような完徹上等!な体力はありません。
毎日転々と移動しながら旅をすることは体力的に無理ですし、きっと疲れ果てて心に残るものも少ないと感じます。

今の私の旅のスタンスは、その土地に住んでいる人たちと仲良くなることに重点を置いています。
3、4日ほど同じ宿に泊まり、お気に入りの食堂や屋台を見つけて通ってその人たちと交流するのが楽しい。
例えば、今年行ったトルコのイスタンブールでは、家族経営のケバブ屋さんの常連になってシャイな奥さんの笑顔を見ることができたり、宿のおじちゃんと色々語り合ったり、アゼルバイジャンから来た宿泊者のおばちゃんと一緒に調べものをしたり、突然の大雨が降ってきた公園で野良ネコと仲良くなって一緒に雨宿りをしたり。

もちろん観光もしますが、インターネットで調べている時点でなんとなく分かってしまうので観光地は実物を見て情報を確認する程度です。

ただ、今の私の旅のスタンスだと刺激が少ないのも確かです。
3、4日同じところにいたらやっぱり飽きてくるし、せっかく海外にいるのに何してるんだろうとも思ってしまいます。

そこで、私が旅でいちばん大切にしていることがあります。
それは、小さくてもいいから1つだけ『チャレンジ』することです。

はじめは小さなチャレンジでいいんです。
海外でお気に入りの歯ブラシを見つけて買ってみる、とか、量り売りの惣菜を買ってみる、とか。
慣れてきたら、ローカル電車やバスに乗って日本人が行かないようなところで降りて人に聞きながら観光してみるとか。

私の今回のイスタンブールでのチャレンジをお話ししますと、軍事施設内にある『ナイチンゲール博物館』に行くことでした。

もう一度言います。
軍事施設内にある『ナイチンゲール博物館』に行くこと、です。

もう、色々とヤバいです。
今やなぜチャレンジしようと思ったのか過去の自分に聞いてみたい。
まぁ、きっと回答は「そこに山(チャレンジ)があるから。」に尽きますが。

ちょっと先は長くなるので気になる方だけお進みください。

軍事施設内にある『ナイチンゲール博物館』を見学する行程は、
①電話で予約する
②パスポートのコピーと必要事項を記入してFAXで送信する。
③当日の時間に訪問する
以上です、簡単です。

・・・簡単か?

あらかじめお伝えしておきます。
日本ではありません、海外です。

電話はどこで、どうやってかけるの?→はい、詰んだ。
電話がつながったとして日本語以外で喋れるの?→はい、詰んだ。
FAX?市内FAXしか受け付けません?どこにFAXあるの?→はい、詰んだ。
当日どうやっていく?バスと電車と船?→はい、詰んだ。

無理ゲーです。
でもやるしかない。「そこに山(チャレンジ)があるから。」

①電話で予約する

幸いにして、何かあった場合に備えてSkypeに課金してIP電話ができるようにしていました。
インターネットに載っていた電話番号に恐る恐る電話してみる。

受付に繋がるが相手はトルコ語。何を言っているのか??状態。
慌てながら拙い英語でナイチンゲール博物館を見たいと伝えると、「ちょっと待ってて」的なことをトルコ語で言われ、しばらくすると英語を話す人に代わった。
改めてナイチンゲール博物館を見学したい旨を伝えると、Whatappアプリから必要事項を伝えると返答。怪しさ満点になりながらも向こうの電話番号を必死でメモする。しかし早口で言われるのと独特な番号の言い回しをするので全く聞き取れず呆れられる。最終的には私の携帯電話を伝えて無事Whatappで繋がることに成功。

②パスポートのコピーと必要事項を記入してFAXで送信する

運よくパスポートのコピーは持参していたので、向こうの言う必要事項をパスポートのコピー用紙の空白部分に箇条書きで記入。

  • 名前と国籍

  • 職業

  • 訪問希望日時

  • 見学理由

  • 個人的か団体か

確かこんな内容だった気がします。

これを言われた番号にFAXします。

FAXできるところ・・・分からない。
日本ならばコンビニですぐに送れますが、トルコにコンビニなんてありません。
宿の主人に図書館や郵便局ならあるんじゃないかと言われて行くが全滅。
本屋さんや文房具屋さんにもありませんでした。
丸一日かけて探しましたが結局FAXできるところがなくて諦めようとした、そのとき。

古くて暗くて小さな、デジタル機器を扱うお店が視界の隅に入る。
中にはイスラムの帽子を被ったおじいちゃんが二人談話している。
一縷の望みをかけて恐る恐る入店。
FAXできるか拙い英語で聞いてみると英語は分からないものの「ファクシミリ」と聞き取ってくれて無事FAX送信に成功!
あまりに嬉しすぎて両手でガッツポーズをしたら、おじいちゃんが微笑ましい目でお菓子をくれました。(物理的にも精神的にも)めちゃくちゃ疲れていたので頂いたお菓子はほっぺが落ちるくらい美味しかったです。

③当日の時間に訪問する

希望日時を伝えていたので、その中から向こうがピックアップしてくれて日時が決定。医療者は優先的に早く予約してくれるらしく、私は看護師と伝えていたのでFAXしてから一週間後でした。
(一般の方は1ヶ月くらいかかるとインターネットに書いてありましたが実際はわかりません。)

イスタンブールは海を隔てて東西に陸地が分かれています。
宿から海を隔てて向こう側の軍事施設へ向かうため、何があってもいいようにランチの時間を含めて4時間前には宿を出発。
電車には問題なく乗れましたが、バスが一向に来ないまま1時間。地元のバス運転手に聞いたらミニバスだから捕まえるのは大変だと言われて慌てて別ルートを探す。
結局、海まで徒歩で行けたので船着場まで20分ほど歩いて船で海をわたり向こう側へ。そこからまたバスに乗って最寄りまで移動。
Googleマップが頼りだったのでめちゃくちゃ助かった。

昼食を適当なところで食べて、無事に軍事施設へ時間通りに到着!

とまぁ、こんな感じで毎回チャレンジをしています。
今回はめちゃくちゃ大変でしたが、その分めちゃくちゃ思い出に残りました。
毎回こんなチャレンジをしているの?とか、こんなことしたくない、と思われる方もいるでしょう。
もっと簡単なことでいいんです。日常で当たり前なことが非日常では特別であれば問題ありません。
海外先で家族や友人とLINE動画で会話するだけでも違いますよ。自分が思うならばそれも一つのチャレンジなんです。
思い返したとき、昨日のことのように鮮明に蘇ってくるようなことだったら最高じゃないですか?

ちなみにですが、
その後の軍事施設での出来事がまた凄かった!

以下、軍事施設内での出来事になります。
完全に私の個人的な感想になりますので、興味のある方はお読みだくさい。

イスタンブール第一陸軍の正門は4車線ほどの広さ。
そこに着くと、銃を背に提げた兵がどんな用事かトルコ語で聞いてきた。
出立ちに圧倒されながらもナイチンゲール博物館を見たいと片言の英語で伝えると、素敵な笑顔でどうぞと門を開けてくれた。
自分一人だけのために開けられた大きなゲートに感激して思わず驚くとジェントル兵と目が合い微笑んでくれる。
イケメン笑顔に一瞬緊張がほぐれる。

30mほど先に検問所。
ここで手荷物検査が行われます。スマホもここで預けます。
ここから先、Google翻訳が使えなくなることを意味します。

検問所を抜けると、私とWhatappで連絡をとっていた受付の人が待っていてくれました。
俳優のクリス・エヴァンス似のイケメン、しかも軍人さんだからか背筋がピンとしていてとてもキレイ。
彼が間に入り、受付でパスポートを預けてその後いったん待合室で待機。
その間もイケメン受付さんが喉は乾いていないか、食事は済ませたかと色々聞いてくれる。
もうこちらは緊張しすぎて訳も分からず「アイムファイン」の一辺倒。
待合室には兵のご家族や新しく入隊する編入兵の人なんかもいて結構賑わってました。

5分ほどすると、こちらにどうぞと案内される。
てっきり受付横に博物館あるのかなーなんて思っていたら、外へ出た。
疑問に思っていたら目の前にキレイな自動車が。
「どうぞ。」と後部座席の扉を開けてくれるイケメン受付さん。
??と思いがらも乗り込むと、すでに運転席に人が。助手席に乗り込んだイケメン受付さんと一緒に車がゆっくりと走り出す。
よく分からないまま外を眺めていると、道ゆく兵隊さんたちがイケメン受付さんに向かって皆んな敬礼している。

イケメン受付さん、実は偉い人だったー!!

時速20kmくらいで2、3分ほど走った先の建物の前でようやく停車。
運転兵さんは車でそのまま待機です。(えーーーっ!?)
ちょうど兵隊さんたちが玄関口の掃除中だったようですが、イケメン受付さんの姿を見た瞬間に手を止めて一斉に敬礼。
何事もなかったかのように素通りするイケメン受付さんと、その後ろをヘコヘコ頭を下げながら恐る恐る付いていく私。
対比がエグい。

訳も分からないまま付いていくと、重厚な扉の前に着く。
ようやく博物館?・・・でも雰囲気が博物館じゃない!
ぐるぐるしている私にコーヒーか紅茶どっちがいいか聞いてくるイケメン受付さん、容赦ない。
いやもう水で、なんだったら水道水でいいです、と言いたかったけど水道水という単語が出てこない私、「・・・紅茶で。」と言うのが精一杯。

そこで暫し待っていると重厚な扉を開けて中に入るよう促すイケメン受付さん。
私の頭の中には「尋問」と「拷問」の2文字がチカチカ並んでいる。
え、私の人生終わり!?いよいよ詰んだ?

すると目の前には事務室のような光景が。
え?と思ったら横にある部屋に促される。

そこは社長室のような部屋。

・・・私はなぜかイスタンブール陸軍で一番偉い人にお会いしたようです。

疑問符が飛ぶなか、その偉い人と秘書のような女性(もちろん軍人さん)、そしてイケメン受付さんの4人で面談。
Google翻訳がないのでほぼほぼ成立しない私の英語を頑張って理解してくれようとしている皆さんに申し訳なさを感じつつ紅茶をいただく。
手が震えて紅茶が撥ねて全然飲めない。

いつ終わるのか分からない公開処刑場に現れたのは、お土産の手提げ袋を掲げて入ってきたおじちゃん。なぜかお土産をいただく。日本に興味があるんだ!と笑顔のおじちゃんに癒される。

そしてようやく博物館へ移動できることに。
ここまで本当に長かった・・・。

イケメン受付さんと部屋を出た後、廊下を歩いてセキュリティをいくつか抜けると、小さな部屋に到着。
表には『フローレンス・ナイチンゲール博物館』とトルコ語で表記。

中に入ると、2階建の構造になっていた。
一階部分がイスタンブール軍の軌跡を展示していて、イケメン受付さんがひとつずつ丁寧に英語で教えてくれる。私も時々疑問に思ったことを聞いたりと有意義な時間に。
そして螺旋階段を登った2階部分がナイチンゲール博物館。
といっても、ナイチンゲールの銅像と実際に使用していた机と鏡、そして直筆の手紙や写真などが12畳ほどの小部屋に収められていました。
ただ、ようやくここまで来た達成感や充足感と「ナイチンゲール」が実際にいたことを目の当たりにしてなぜか涙が込み上げてきてしまった。
イケメン受付さんはその間黙って見ていてくれた。ほんとイケメン!
窓から外を眺めると道の向こうに大きな宮殿のような建物。イスタンブール大学だそうです。

ナイチンゲール博物館内部(向かって右側に実際使用していた机がある)

見学が終わった後、イケメン受付さんのご厚意で彼のスマホで記念写真を撮ってくれて後日Whatapp経由で写真を送ってくれました。

帰り道も待っていてくれた運転兵さんの車に乗って元来た道を戻ります。
途中、クリミア戦争で有名になったスクッタリ野戦病院(現イスタンブール陸軍施設)のこの門を通りました。絵で見たことがあったのでビックリしました。

1856年 トルコ・スクッタリ野戦病院のナイチンゲール

無事にパスポートとスマホも返却していただき、最終的には大満足で帰宅したのでした。

この日の出来事は私の一生の思い出です。
大変だったことも、緊張で吐きそうになったことも、思いが込み上げて涙してしまったこともすべて全て大切な私という一個人をつくりあげている大事な一片です。

これだから旅はやめられない!

以上、長々とお付き合いくださりありがとうございました。

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