映画感想『ガンジスに還る』心地のよいモヤモヤ
このインド映画は踊らない、歌わない、闘わない。
迷子のこどもの家を探し出したりしない。
〝昔の夢をまた見るようになってな…死期が近づいている証拠やと思う…せやからバラナシにある、ガンジス河のほとりのな、最期の家に行ってそこで死にたい…ついてきて…”
と言い出した父に渋々ついていく息子(おじさん)の話だ。
死期が近づいているといっても、大病が発覚した訳ではなく、本当にその夢を見ただけなのだ。それでも父に逆らえないのか、父の意向に沿ってあげたいのか、ついて行く息子(おじさん)。終わりの見えない長期休みを取ることで、会社の上司や顧客には嫌味を言われる。妻にも「バケーション楽しんでね」と嫌味を言われる。それなのに父は「食事中くらいスマホをおけ!」「お前の食事まずい」と言いたい放題だ。このお父ちゃん、わがまま!自由!うらやましいくらいに!
この映画を観ていくうちに、わたしが望むエンディングとは何なのだろうと考え始めた。それは息子(おじさん)の望むエンディングとは何か、に通じるのかもしれない。いつ最期を迎えるかわからない元気な父に寄り添っていなければならない。だからといって、死を望むわけではもちろん無い。バラナシを離れるつもりもない。肉親の最期と仕事を天秤にかけなければならない哀しみと、いやいやこの父めっちゃ元気だし、という気持ちとの揺れが、国や文化が違っても伝わってくる。どう死ぬか、ということは、どう生きるか、ということなのかもしれない。
この、親子だからこそのモヤモヤ、ムズムズの元を、わたしはまだ言葉にできない。だけどこの作品がとても好みだ。
映画鑑賞が趣味のひとつで、できれば観た作品についての自分の感情を書いておこうと思っている。だけどこの『ガンジスに還る』のように心地よいモヤモヤに浸っている間に、観に行きたい作品はどんどんと増えてしまう。映画を観るなら最優先はここと決めているシネマジャック&ベティの公開ペースが早いせいでもある。短いときは一週間で上映が終わってしまう。わたしのスケジュールはジャック&ベティの公開スケジュールを軸にして動いている。
昨年観た作品の半分は、感想がまだ書けていない気がする。その作品を好きであればあるほど、書けなくなる。Twitterで時々目にする、「尊い…」しか言えなくなっている人。あの状態である。
『ガンジスに還る』尊い…
これ以上の感情を書けるようになりたい。
公式サイト http://www.bitters.co.jp/ganges/