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成人の日の修羅場ウォッチング

 成人式には行っていない。地元には住んでいたが高校は違う市に通っていて地元のつながりは薄くなっていたし、地域が同じだからという理由で集まるのが苦手なのでハナから行く気は無かった。

 「成人式、行かへんやんなぁ。えべっさん行く?」
幼なじみのなっちん(仮名)も成人式には行かないつもりだったようで、わたしを西宮戎に誘ってくれた。おじさんおばさん達にまみれて、寒い中参拝をすませたあと、なっちんの携帯が鳴った。
「嘘やん!あっほちゃう?そっち行くわ」となにやら怒っている。彼氏が浮気してた、となっちんは言いながらタクシーを捕まえて、わたしを連れてどこかに向かうその車中でもずっと携帯にどなっている。怒っているなっちんがわたしに経緯をかいつまんで説明してくれていたが、怒りのせいでその話もあっちに飛びこっちに飛び、でよくわからない。でもわたしは修羅場にわくわくしながら黙って横にいた。

 タクシーは、とある白いマンション前に停まる。マンション前にはわたしが初めて会うなっちんの彼氏が待っていた。奥田民生から音楽を抜いたようなおっさんがいた。その当時おっさんだと思っていたけれど、二十代後半か三十代くらいだろうか。今のわたしよりは若い。
 なぜ浮気がバレたのかはわからないが、民生はずっと腰低く謝っている。三階の民生の部屋にあがる階段で、先を歩いていたなっちんが当時バリバリに流行っていた安室奈美恵風厚底ブーツで民生を蹴っていた。ギャルは強い。ロックも終わりである。いやあの人はロッカーじゃないけど。
 完全に混乱しているなっちんはずっと暴れながら怒っているばかりで、まだわたしには話が見えなかった。怒れるギャルとへこへことなだめる民生を、リビングの椅子に座ってぼーっと眺めるだけだった。ただ民生が台所の包丁をサッと取ってなっちんの手の届かなさそうな場所にしゅっと隠した瞬間をわたしは見ていた。民生のほうが一枚うわてだな、と妙に感心した一瞬だった。

 「あっちゃん、ごめんな、もう帰っていいで」
なっちんがふとわたしのことを思い出してくれて、解放してくれた。ほな気ぃつけてなぁと声をかけマンションの外の大きな道まで出て、わたしは気が付いた。ここがどこなのか、わからない。
 今なら海外にいたってグーグルマップを手元で見ることができるが、その当時は携帯電話で地図を見ることはできなかった。西宮市内にいるということは見当がついたが、まったく歩いたことのない道だ。
 「すみません、駅に行きたいんですが、道に迷って」
と高校生に声をかけた。
「え、どの駅ですか?」
「どの駅かもちょっとわからなくて…一番近い駅でいいんですけど」
と言いながら気持ち悪いなわたし、と恥ずかしかった。
「一番近い駅…二つあるんですよね」
そんな答えが返ってくるとは思わなかった。もう素直にここがどこかわからなくて阪急電車に乗れる駅を探していると伝えた。自分が変な奴になっていることにそわそわした。

 高校生のおかげでなんとか阪急の駅についたのだが、どこかわからないところで幼なじみの修羅場を見て、その後盛大に道に迷ったこと、成人の日がくるたびに思い出す。

 なっちんはその後、別の誠実な人と出会った。彼のおかげで今はとても落ち着いていて、厚底ブーツで男を蹴ったりはしない。ときどきこの話をして二人で笑う。親友と過ごす成人の日も、こんな感じに良い。

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