お人形さんと老夫婦
この5月で結婚12年目に入った。
子どもはいない。
できなかったし結局それ以上進むことをやめた。
うちにはかわいいクマとペンギンの子たちがいて、ときどき、夫婦のあいだをとりもってくれる。
キモくて誰にも見せられないファンタジー。
思い出すのは10代の頃に経験した阪神淡路大震災。12年ぶりに体験した地震があの大きな揺れで、心底怖かった。
近所の人たちがパジャマにコートを羽織って出てくる。
まだ暗い冬のあの朝、わたしをギョッとさせたのは、そんな逃げる人たちの中にいた、西洋人形をそれぞれが抱っこした老夫婦だった。
まだ子どもだったわたしにはその光景自体がホラーだったし、震災の思い出のひとつとして忘れられない。
今、大地震が起きたらうちの家はそれぞれがクマとペンギンを抱いて避難所へ行く。
だからわかる。あの老夫婦にとって人形の娘たちは絶対に離れてはいけない子どもたちだった。
他人同士の夫婦をつなぎとめるのは、人間の子どもよりももしかすると人形のほうが健全なのかもしれない。
あの震災で夫婦仲が悪化した自分の両親にはさまれて、「あの2人の通訳者だね」と親戚に言われるような存在になってしまったいびつな自分のことを思い、老夫婦の娘たちのことを思う。
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