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直前期の極悪ファイトは突然に。厚子発狂60インチテレビ倒壊事件【前編】
2025年度考査にご参加中の皆様におかれましては、神奈川校の本番、そして東京校の面接ラッシュを迎えまさに必死の形相の上に女優の仮面をかぶって戦っている頃でしょう。
そしてこの時期、お教室の先生方から必ずそして口酸っぱく言われるであろうあの呪いの言葉こと
「考査が近づいたらお子様を絶対に怒ってはいけません。とにかく笑顔で元気よく、お子様が自信を持って考査に迎えるように背中を押してあげましょう。」
を忠実に実行するため、歯を食いしばりながら日々の怒りと焦燥を飲み込んでいるのではないでしょうか。
分かる、チョーわかる。
2年前の今頃、厚子もこのお教室の教えを忠実に守ろうと奥歯をかみしめ過ぎた結果、1本数万円するセラミックジルコニアがその重圧に耐えきれず毎週のように欠けまくり作り直しをするため入学金2校分を歯医者につぎ込んだ過去がある。
言うて親が勝手に始めて勝手にやっている小学校受験である。半ば強制的に巻き込まれる形になった子供に何の罪もない。しかし必死かつ真剣になるが故、腹は立ちまくるし怒りの沸点はオーバーヒートし煮えたぎる。それが恐るべき10月のお受験直前期である。
今回は、厚子が「うわ~この話めっちゃしてぇ~でもこれ言ったら絶対皆にひかれる~鍵垢リポストで毒親とか叩かれる~嫌だよ怖いよでも全部べろってあの時の恨みつらみを成仏させたいよ~~~」って2年間寝かし続けてきた『1年半のお受験期間中、厚子がダントツナンバーワンにブチ切れた話』をしちゃおうと思う。
その日、我が家はメインのお教室で行われる志望校模試に挑まんとしていた。
小学校受験準備の集大成かつ神奈川・東京本番前最後の大一番である。そして厚子はこの模試に並々ならぬ熱意を燃やしていた。
「男子は夏に伸びる」を信じてお金と時間をつぎ込みまくった夏休みにろくな成長を見せなかった我が子という名の現実に愕然とし、眼鏡と白髪輝くナイスミドルな担任講師による「ぼっちゃん君、いい感じになってきましたね。」の一言にさえ
「お前の眼は節穴か。そのハズキルーペは飾りか。」
と完璧な悪口と並列するかの如く心の中で毒づいていた夏を経て、やっとぼっちゃんに成長の兆しが見えてきたのが9月の後半であった。
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なんぼつってもつってもつりあわない。今世紀最悪の違法建築と悪名高いぼっちゃんの「つりあい」がついにつりはじめ、お前だけ常に月の重力をまとっているのか?と未来の宇宙開発に期待をすべく自由気ままに上がったり下がったりしていた「シーソー」がついに地動説に逆らうことなく正しい方向に傾くようになった。
ペーパーにおけるぼっちゃん最大の鬼門であり、お受験業界のカリスマこと狼侍氏をもってして「その2つは確実に出題されますね…やばいですね」と結構ガチめに心配された「シーソー・つりあい」問題を
やっとの想いで攻略できたのが、この9月末であったのだ。(遅)
そして、この「シーソー・つりあい」問題がサラサラ解けるようになって初めて迎える力試しの機会が、我が家にとって最後となるこの日の学校別模試であった。
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1年半にわたる母子格闘の末、ついに違法建築を脱却したつりあい。もう二度と姉歯建築なんて呼ばせないぞ!お母さんの気合はもうなみなみのなみに高まり燃え滾っていた。
無論、今回の模試につりあいがでる確証なんてない。なんなら考査本番で出るかどうかも分かりゃぁしない。でもお母さんは信じていた。
「でる…今日は絶対につりあいがでる…親愛なるザハハディド様。天国から見守っていてね。私とぼっちゃんの愛と涙の完全建築!国立競技場の建築は我が家にMAKASETOKE!!」
と東京オリンピックが決まる前からザハ推しだった厚子は隈研吾を勝手にライバル視し、なんならザハたんに代わってでも完全勝利をこの手に収める決意をしていた。
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しかし、間が悪いことにその日は午前中に保育園のお友達と公園でランデブーする約束をしていた。
基本ぼっちで孤独死寸前の厚子にとって、こんな光明はこの先5年は訪れないと分かっていたし、ぼっちゃんにも何かと我慢をさせる生活をしていたこともあって、なんとかしてでもこの集いには参加をしたかったのである。
タイムスケジュール的にはややタイトであったが、神奈川考査における午前→午後の考査はしごのイメトレ&練習を繰り返していたことで、パツパツのスケジュール運用には大分自信がついた頃でもあった。
午前中は公園でたっぷり遊び、帰宅しお昼ご飯を食べたら余裕を持ってお教室に向かう段取りを組んでいた。
しかし、こんな予定調和なんて決して許してくれないのが小学校受験であり私の愛するぼっちゃんである。
その公園の集いには、ぼっちゃんが将来を約束した運命のパートナーが2人参加していた。
ひとりは結婚を誓ったクールビューティRちゃん。もし彼女が小学校受験を志していたら難関女子校を総なめにしたであろう才色兼備の逸材である。
そしてもうひとりはHくん。身長体重がぼっちゃんとほぼ完全に一致する彼と、ぼっちゃんは大人になったらお笑いコンビを組んでM-1グランプリで優勝するという夢を約束し合っていた。
家族と仕事―。
人生の主軸であり文字通り生きる糧となる2つの柱を共に支え生きる2人と公園遊びを共にすることに、ぼっちゃんは心震えるほどの喜びを感じていたに違いない。
それでなくとも暴れ馬のごときハードな遊び方をすることで有名なその保育園の子どもらしく、ぼっちゃんも背中に羽根が生えたかの如く23区内極狭公園を飛んでは走った。恋のパートナーには己のイケてる勇姿を見せんばかりに。仕事のパートナーには、ライバルとしてふさわしき背中を示すべしと。
そして、やつは飛んだ。滑り台の上から飛んだー。一切の迷いを見せることなく
雲ひとつない秋晴れの真っ青な空へダイブ
したのである。
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え、そこは飛ぶ場所じゃないよ!?
そう突っ込む暇もなく、愛する我が子は地面に転げ落ち、左ひざを思いっきりすりむいたのである。
典型的な東京生まれ東京育ちのひとりっこであるぼっちゃんは、家の中では限界空腹の蟻でも食わんわ!って程の超ド級のどろどろあまあま甘えん坊であるが、家を一歩出た瞬間キムタクに変貌を遂げるタイプのお子様であった。
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平成を抱いた男ことキムタクことぼっちゃんは、血が噴き出て砂まみれになった膝をしばし茫然と見つめていた。
どう考えても痛いだろうに、結婚を約束したRちゃんや、将来漫才コンビを組む相方ことH君を目の前に決して弱音や涙を見せることはしなかった。だって彼はキムタクだから。
「血、出たじゃん…」
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とちょっと置きに行く感じで一言だけ発したキムタクは、そのまま何事もなかったかのようにまた滑り台に上ってはちーすとポーズを決めては雄々しく滑り降りることを繰り返した。
さすが平成を抱いた男であるし、Rちゃんのママは「え、ぼっちゃん君大丈夫なの?厚子さん、いいの??」と未来の婿&姑候補の態度にドン引きであった。
そして大方の予想通り、帰宅しドアを閉めた瞬間に我が家のキムタクは藤原竜也ばりの号泣をした。
「死んじゃう!ぼっちゃん死んじゃうよ何これ!なんでこんなに血が出るの?!まんまぁ~~~~~~~~!!!」
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と、もはや何に怒り狂っているか本人も分らぬほどにキレ散らかしながら嗚咽をあげた。ハードボイルドマザコンことうちのキムタク(一瞬藤原竜也)である。
お前つい5分前まで婚約者と相方の前で平然を装いながら平成を抱いていたはずじゃないか。
っていうか私の説教は5秒で忘れる癖になんで今日に限って30分も前のこと思い出しては号泣するの?!こういうことこそ今すぐ忘れてくれよ根に持ちすぎだよ!!
と突っ込みたいのを必死にこらえて、無言で傷を流した。
なぜなから今日はこの後、本日のビックイベントことお教室で行われる学校別最終模試が待ち構えていたからだ。
ここでキムタクの機嫌を損ねてはいけない、だってお母さんにとっては1年半のペーパー学習の総決算である。絶対に耐える、キムタクのわがままにも、超ど級のハードボイルドマザコンさえもお母さんは受け入れるっ!
そう決意をしていたのだ。
しかし、ここで終わっていたら平成なんて到底抱けるはずがない。うちのキムタクはこの程度でおさまる男な訳がなかったのである。
「ねぇママ、ぼっちゃん普通の絆創膏は嫌だよ。新幹線の絆創膏はどこいったの?」
キムタクは日本で初めてリーバイスの“顔”に抜擢され、ドラマで着用した商品が翌日には店頭から消えることで有名であったアメカジの帝王である。傷口をおおうテープ1枚にも決して妥協しない。
けれど、あいにくかさぶた家ではその日に限って新幹線柄の絆創膏の在庫が尽きていた。なぜなら先日、お母さんがお嫁入り道具として新居に持ち込み大切に使っていたカリガリスのチェア側面に「ちょーかっけー!」と全部貼り付けていたからだ。無論犯人はキムタクだ。
平成を抱いた男は過去にこだわらない。嫌なことはすぐに忘れる。そしてめっぽう他責的だ。
「ねぇママ、なんでないの?なんで新幹線の絆創膏がないの!?」
お主がここに貼ったんだろうが!!とキレそうになるのを必死に抑えて無言で椅子を指さすと、キムタクは肩を落とした様子で無言で椅子の横にしゃがみ始めた。
(さすがのキムタクも、やっと己が愚かさに気付いてくれたか…)
安堵したお母さんは、その隙をついて昼食を用意することにした。メニューは昨夜の残りの唐揚げとオムレツである。
例え模試とはいえ、行動観察中の口頭試問などで今日のお昼ご飯を問われた際に「マクドナルドのハッピーセットです!」なんて言われたらたまったもんではない。せっかく積み上げた国立競技場建設への道はにっくき外資のピエロ野郎に根本から崩されてしまう。
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本当なら私だってデリバリーで手早く済ませたい。しかし、この1か月はとにかく家で作ったものを無理やりにでも食べさせることに意味があるのだ。3食すべて手作りで用意する母。お昼ご飯に唐揚げを揚げる母(*揚げていない)。
最高に私立のお母さんっぽい~~~!!と自分のテンションを半ば強制的にぶち上げて、ダルおもい手料理を必死で毎食作り続けていたのだ。
食事が完成し声をかけると、キムタクはけだるげにダイニングの席に着き食事を始めた。
「やっぱり揚げたての唐揚げは最高だね~」
厚子が海原雄山だったら唐揚げ(電子レンジでチンしただけの昨夜の残り物)ごとテーブルをひっくり返す程の味音痴な発言をしながら肉にむさぼるキムタクの膝には、ついさっきまで椅子にべったり貼り付けられていたはずの新幹線の絆創膏がくっついているではないか。
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わが目を疑いその膝小僧を凝視すると、
椅子から無理やりはがされたことで粘着力がなくなりデローンと伸びきった可哀そうな新幹線柄の絆創膏の上に、雑にちぎられたセロファンテープがべっとり貼りつけられていたのである。
キムタク売れの原点となったABATHINGAPEのダウンジャケット、ケイスケホンダが世界初お披露目した両腕に腕時計、そしてぼっちゃんによる絆創膏の上からセロファンテープである。
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日の国JAPANが誇る三大ファッショニスタ。平成生まれ令和育ちの幼児が起こした第三次おしゃんムーブの訪れに震えが止まらない(*怒り)
(こいつ…よもやまさかこの膝小僧のまま模試に行くつもりか…そうなのか…そうなんだな)
嬉々として唐揚げをほおばる息子を見て、厚子は諦めにも似た境地に達していた。
もしこれが考査本番であればデローンと伸びきった絆創膏の上に重ねられたセロファンテープのまま試験会場に送りこむなんて言語道断、絶対にあってはならない地獄の一丁目一番地である。
しかし今日は模試だ、そして通いなれたメインの教室だ。試験官はハズキルーペ(悪口)である。
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きっと身だしなみの点にいくばくかのマイナスがつくであろう。そして後日、担当講師の見慣れた達筆で「膝?テープ?」とメモ書きが残された評価シートが返却されるだろう。
しかし、今回は服装よりもペーパーだ。ペーパーの結果がすべてだ。だって我が家は違法建築を卒業したのだから!
膝に意味不明なセロファンテープを貼ったまま模試に向かったことでつけられる身だしなみのマイナス5点なんて、ぼっちゃんのつりあいまるくシーソーがいくらでもリカバリーしてくれるはずだ!!!
そう半ば強引に自分を納得させたお母さんは、膝のセロファンテープは観なかったことにした。なんならあれは令和の最新ネイビースタイルの一部であると思い込むことにした。
今日だけはどうしてもぼっちゃんを上機嫌で会場に送りこまなければならない。だって今日は最後の模試だから(本日2回目)
しかし、この判断が我が家にとっての地獄の始まりであった。
「食べ終わったら早く着替えよう、もう時間がないよ。」
さすがにそろそろ準備をしないと間に合わない。そう焦って声をかけるが
「ねぇママ、唐揚げもうないの?ぼっちゃんもっと食べたいんだけど。」
とお母さんの予定管理の都合など意に返さない我が家のキムタクである。
もうそれで全部だよ。と言っても納得せず
「もうこの家に他に揚げられるものはないのか。」
と平成を抱いたはずの愛する息子は、突然彦摩呂みたいなこと言いだした。
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揚げ物は飲み物じゃないんだよ、キムタクならキムタクらしくプロテインでも飲んでろよ。
口から飛び出しそうになるキムタク(彦摩呂)への非難の言葉を必死に飲み込んだ。だって我が家はこれから最後の模試に行かねばならないのだから(3回目)
さすがにもう揚げるものも時間もないよと冷静に返答すると、キムタク(彦摩呂)はちょっとトイレに行きたいだのお腹を休ませたいだのグダグダ言って床に寝転びズボンのポケットから凍らせたこんにゃくゼリー(いつ収納されたのか全く持って不明)を取り出した。
さすが彦摩呂、いついかなる時でも非常食のキープに余念がない。そして彦摩呂は息するように自然な動作で床に寝そべったまま凍らせたこんにゃくゼリーをもぐもぐし始めたのである。
「おうちに帰ったらお昼ご飯を食べてすぐにお着がえをしてお教室に向かう。」
たったこれだけの約束をどうしてうちのキムタクは守れないのか。一般家庭の約束だからまだよかったものの、これが芸能界の最前線なら一瞬でタレント生命の終焉だ。
いや、もしかするとキムタクレベルのトップアイドルであれば遅刻や無断欠席さえも大目に見てもらえるのかもしれない。それともギリのギリまで遅刻しそうに見せかけてプライベートジェットとか貸切ヘリコプターでいっちょとびして現場に華麗に舞い降りるのだろか。
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全盛期のキムタクだったら容易かもしれないが、果たして彦摩呂の場合はどうであろうか。
安定したテレビ出演と代えのきかない稀有なキャラクターで一定の地位を得てはいるものの、ご家庭のエンゲル係数は馬鹿高いことが容易に想像できる。その飽満なボディを維持するにもお金がかかるし、特注サイズであろう衣装代も馬鹿にならないはずだ…サカゼン?サカゼンなのか?
やはり彦摩呂レベルの芸能人ともなればサカゼンの店内を貸し切って優雅にショッピングを楽しむのではないか…さすが彦摩呂。俺たちの彦摩呂は一味違うぜ。
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と、正気に戻ったら今すぐぼっちゃんのド頭に雷とともに鉄拳を落としてしまいそうになるところを必死にこらえる為に、現実逃避よろしく彦摩呂のサカゼン貸切ショッピングまで妄想を膨らませていた。
そうでもしないとマジでぶん殴ってしまいそうだった。
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しかし時は10月頭、今日はこの後模試だし(本日4回目)なんなら来週から東京面接やら神奈川考査が始まる。怒鳴るだけでも大問題なのに暴力は…家庭内暴力だけは避けなければならない。
「顔はやばいよ、ボディやんな、ボディを」
厚子の中に眠る三原じゅん子が甘くささやいてくるが、この誘惑に乗る訳にはいかない。親の身勝手で始めたお受験だ。
ぼっちゃんからすれば私立だろうが地元の公立小学校だろうがどちらに入学しようと大差ない。親のエゴに巻き込んで半ば無理やりやらせているお受験という異様な行為に対し、手まで出してしまったら親として終了だ。じゅん子だけはいかん…っ!!!
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下唇をかみしめ必死にこらえながら、
「もういい加減着替えろや。」
と言葉遣いはすでに三原のじゅん子になっていることに気付かぬまま、厚子はぼっちゃんを再三催促した。
しかしさすが平成の彦摩呂、やっぱりまだ食べたりないと追加のオムレツを要求してきた。お母さんの怒りは沸点ギリギリ98.5度まで高まっていたが、今日はこれから模試である(本日5回目)
耐えろ…耐えるんだ厚子。これは私の魂の修行だ。今ここで雷を落とすのは簡単だ。しかしここで怒って泣きわめいたぼっちゃんを抱えてお教室に向かい模試に挑ませる労力と比べたら、黙って卵を焼く方が間違いなく速いし確実である。
お母さんの精神のつりあいは、オムレツを焼く方に完璧に振り切れた。
もう彦摩呂の顔さえ見るのが嫌になっていた厚子は、返事もせずに無言でキッチンに向かい卵をしゃかしゃか混ぜ始めた。
厚子が何も言わない。これすなわちブチ切れ戦線異状有。怒りの最終決戦前夜である。それなのにうちの彦摩呂は、膝の痛みは30分経っても忘れない癖に自分の都合の悪いことを5秒で忘れるニワトリの生まれ変わりであったため、お母さんが何も言わないこれ幸いと調子に乗り出した。
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あと10分で家を出ないと本当に間に合わない。しかし5分でオムレツを食べ歯を磨き無理やり着がえをさせればギリギリいけかもしれない。いつもギリギリを超えてきた。それが令和の働くお母さんである。
ギリギリでいつも生きていきたいし、ギリギリのラインとはこれすなわち超える為に存在する。負けるな厚子!いけいけ厚子!!!頑張れ厚子!!!!
そう己を励ましているとオムレツがやきあがり、ケチャップを多めにかけようとした時
「あ~オムレツまだかなぁ。できるまでテレビでも観ようかなぁ。」
そう何気なく口にしたぼっちゃんの声が厚子の耳をかすった瞬間に、頭の中で何かがプチッと切れる音がした。
【後編に続く】
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