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男性が知らない"産後女性の体と心の変化"
病室のドアを開けると、ブルブルと震える手をぼくに伸ばす妻の姿が目に飛び込んできた。
「どうした!?」
ぼくが駆け寄ると、妻は青ざめた唇をふるわせ、消え入りそうな声でこう言った。
「体がおかしくて、震えが止まらないの……。」
それは、出産から二日後のことでした。
産後8週間を産褥期と呼びますが、ぼくがその存在を知ったのは妻が3人目の子どもを妊娠したときでした。
最初の出産(双子でした)のときには、そんな知識なんてかけらもなく、ぼくはろくに妻を支えることもできず、ぼくらの関係は壊れそうなガラスのようにもろいものでした。
産褥期の存在を知ったおかげで、3人目の出産以降は妻に対する理解が深まり、感情だけではなく、理屈で妻と向き合えるようになりました。
産後の妻とのセックスレス解消を考えるとき、産褥期の知識は避けて通れないと、今のぼくは感じています。
産後にセックスができないのは、夫のことを嫌いだからではなく、"女性の体と心の変化による、どうしようもないものだ"ということが、頭で理解できるようになるからです。
この記事では、ぼくが妻との関係を改善したくて必死で調べた「産後の女性に起こる体と心の変化」についてまとめています。
かつてのぼくのように、夫婦関係に悩む男性の参考になれば幸いです。
産後は全治8週間の大ケガと同じ
女性の体は、産後6~8週間かけてゆっくりと妊娠前の状態に戻っていきますが、この期間が産褥期と呼ばれています。
聞き慣れない言葉ですよね。ぼくも夫婦関係が悪くならなければ、ずっと知らないままだったと思います。
産後の肥立ちという言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、産褥期は産後の肥立ちの医学用語だそうです。
産褥期には、女性の体にさまざまな不快な症状が起こるんです。
妊娠によってふくらんだ子宮が元の大きさに戻ろうとして後陣痛と呼ばれる痛みを感じたり、悪露と呼ばれる、胎盤、血液、子宮内の排出物などが体から排出されたりします。
産褥期は、外から見たら元気そうに見えるので、ぼくら夫は妻に普通に接してしまいがちですが、体の中は全治2ヶ月の大ケガと同じ状態なんです。
なので、めちゃくちゃ疲れやすい状態です。
産褥期に体を動かし過ぎると死にかけることになります。
下の記事では産褥期にムリをし過ぎた女性が病院に運ばれ、医師から「もうダメかもしれません」と言われ、国立病院に救急搬送され、なんとか命が助かる様子が描かれています。
妻が産後2週間で死ぬなんて、恐怖ですよね……。
出産したばかりの女性は、オキシトシンという幸せを感じるホルモンが爆発的に分泌されるので、脳がハイになってしまうんです。
子どもが生まれた興奮もあり、外から見た体はキズがあるわけではないので、ついつい気づかずに無理をしてしまうことが多いんです。
妻ははじめての出産の翌日、出産の喜びをほかの病室の友だちに伝えるために、あちこち歩き回っていました。
子どもが生まれた喜びと、大量に分泌されたオキシトシンによって「幸せの絶頂&興奮状態」になっていたんだと思います。
そのため、出産の翌々日は反動が来てしまい、手足が震え、ベッドから出れなくなってしまったんです。
第三子が産まれたときは、この時の教訓を生かし、妻を無駄に出歩かせず、なるべくベッドの上で休ませるようにしました。
産院から退院しても、できる限り家事はやらせずに、3ヶ月の育休を取ったぼくがやるようにしていました。
それでも、外見に大きなケガをしているわけではないので、妻はついつい無理をしてしまい寝込んでしまうことが何度かあったんです。
妻は体の変化に自分では気づきにくく、さらに母になったからには家のこともしっかりやらないといけないという思い込みがあったそうです。
「妻だから」「母だから」
だから家事育児をしっかりしないといけないという思い込みに、女性は縛られやすいんです。
ですが、そもそも昔から日本では、産後3週間は床上げするなと言われていて、嫁の布団はずっとしきっぱなしで寝かせておけという風習があったようです。
いまではそういった風習がすたれてしまい、家のことをする人間が妻しかいなくなってしまったことも原因なんだと思います。
現代では、家庭の中の大人が妻と夫しかいない家の方が多いですよね。
ということは、「産後の女性の体調コントロール」ができるのは夫しかいないんです。
ぼくは最初の出産のときには、そこの意識が欠けていて妻にムリをさせてしまうことが多かったんです。
子どもが1才になるまでの間に、妻が育児中に気を失っていたことがあったんですが、かなりの過労がたまっていたんだと思います。
夫を排除する妻のオキシトシン
女性は出産時と授乳時に、オキシトシンというホルモンを大量に分泌します。
オキシトシンは「幸せホルモン」とも呼ばれ、幸せを感じられ、子どもをかわいいと思うようになるホルモンです。
これは人間が育児放棄をしないように作られた自然のプログラムなんです。
人は子育てをすればするほど子どもに対して愛着がわきますが、それは子どもと接するたびにオキシトシンが分泌されているからなんです。
ですが、オキシトシンには「周囲の人間に排他的になる」という効果もあります。
子どもに危害を与えるものを排除したほうが、子どもを安全な状態にたもつことができますよね。
そのため、産後の女性は「自分の子ども」の安全性を守るために、攻撃的な態度になってしまうことがあります。
もし、夫が子育てに積極的でなかったり、妻の気持ちに寄り添ってくれない場合は、夫に対しても攻撃的な態度を取るようになります。
夫を「子どもに害を及ぼす存在」と認識し、無意識のうちに夫を家庭から排除しようとするからです。
これがよく言われる「ガルガル期」の正体でもあります。
そして、もうひとつ大切なホルモンがあります。
「プロラクチン」です。
母乳の分泌をうながし、性欲を消すプロラクチン
産後の女性はプロラクチンというホルモンの分泌も増えます。
このホルモンは母乳の分泌をうながす働きがあり、生まれた子どもが餓死しないよう、母体に母乳を出させようとします。
子どもが生まれた女性が母乳を出すことができるのは、このホルモンのおかげなんです。
ですが、このホルモンにはもうひとつの働きがあります。
それは「性欲の減退」です。
生まれたばかりの子どもにおっぱいをあげている最中なのに、またもうひとり子どもが生まれてしまっては、子育てができなくなってしまいますよね。
そんなことにならないために、産後の女性はプロラクチンを分泌させ、性欲が出ないようにしているんです。
プロラクチンは妊娠中から徐々に増え、出産時にピークに達し、ゆるやかに下がっていきます。
授乳のたびにプロラクチンが分泌されるので、卒乳するまで女性はセックスに前向きにはなりにくいんです。
1歳くらいのお子さんがいらっしゃる男性から「妻が触れられたくないと言うんです。どうすればまたセックスができるようになるんでしょうか?」とご相談をいただくことがあります。
夫婦仲が悪くないのであれば、だいたいホルモンの影響だと思います。
そして、この時期に夫がセックスを無理強いしたり、子育てに積極的でないと、妻は夫に対して不信感をつのらせ、心を閉ざすようになっていきます。
もし、妻が心を閉ざした原因が産後にありそうならば、そういったことが背景にある可能性は高いと思います。
当時にタイムスリップしてやり直したいと思うくらいつらいと思いますが、今からでも夫婦関係改善の方法はあります。
それについては、別の記事で詳しく触れていきますね。