2024 全米オープンゴルフ選手権
1.日程及び会場
〇日程 2024年6月13日~16日
〇会場 パインハーストリゾート&CC コースNo.2
(ノースカロライナ州)
〇全長 7548Y(Par70)
2.結果
優勝 ブライソン・デシャンボー -6
(メジャー2勝目、全米オープン4年ぶり2回目の優勝)
2 ロリー・マキロイ -5
T3 トニー・フィナウ -4
T3 パトリック・キャントレー -4
5 マチュー・パヴォン ー3
6 松山英樹 -2
T7 ラッセル・ヘンリー -1
T7 ザンダー・シャフリー -1
3.天国のペインに届いた自分の思い、渾身のガッツポーズでファンを味方につけて掴んだ皆の優勝、ブライソン・デシャンボー
”これぞ全米オープン”といった最終日の終盤戦でした。
チャンスとピンチが表裏一体のパインハースト。思うようなライに留まってくれないウエストエリアでいろいろ起こるハプニング。硬くしまったグリーンはショートパットも落ち着いて打たせてくれない状況に。
3日目単独首位に立ったブライソン・デシャンボーが、ティーショットに苦しみながらも粘り強くプレーし、2バーディー3ボギー1オーバー71、トータル6アンダーで4年ぶり2回目の優勝となりました。
LIVゴルフ勢のメジャー優勝は、昨年ブルックス・ケプカが全米プロで優勝したのに続き2例目です。
〇綱渡り状態の最終日
他を圧倒するドライバーショットが最終日なかなかフェアウェイを捉えられず、ウエストエリアからのセカンドショットを余儀なくされたデシャンボーでした。
特に8H(Par4)、ティーショットを右の松林に打ち込みセカンドがグリーン左側の傾斜に止まり、そこからのアプローチも寄らずピンチを迎えたものの、長いパーパットを決め雄叫びをあげました。
その後もなかなかフェアウェイを捉えるティーショットは出なかったものの、冷静な処置を我慢強く行い、最終18H(Par4)も3打目のバンカーショットを手前1mに寄せ、パーパットを決め渾身のポーズをギャラリースタンドやコースを取り囲んでいるファンに見せつけました。
〇天国にいる尊敬する大先輩、そして父親への優勝スピーチ
デシャンボーが尊敬するペイン・スチュワート、25年前丁度同じパインハーストで2回目の全米オープンに優勝しました。
高校から南メソジスト大に進学する際、体育館に描かれていたスチュアートを見て進学を決めました。
NCAA選手権、全米アマチュアに優勝した実績を引っ提げプロに転向。ハンチング帽がトレードマークだったのは、リスペクトのあらわれです。
偉大な先輩に並ぶ全米オープン2勝目、そして同じ舞台で勝ったのも何かの縁があるでしょう。
そして一昨年亡くなった父・ジョン氏にも捧げた勝利、最高の”父の日”になったことは言うまでもありません。
インタビューではまずハンチング帽をかぶり、空に向かって人差し指を突き上げペインに優勝報告。そして父親、ペイン、ファンに対して感謝の言葉を伝えました。
〇デシャンボーのPGAツアー時代
デシャンボーはPGAツアーでも異彩な存在でした。
大学で専攻した物理学を取り入れたクラブセッティングは独特で、アイアンの長さを7番アイアンの長さに揃えたり、ボールを硫化ナトリウム溶液に漬け、ボールを回しながら液に入れ回転を見るなどゴルフ科学者とも呼ばれたりしています。
また飛距離を求めるために自ら肉体改造を行い、プロレスラーに近い体型を保ったこともありました。
そのためドライビングディスタンス上位の常連でした。
2017年にPGAツアーに初優勝すると、2020年に全米オープンでメジャー初優勝。2位に大差をつける圧勝でした。
しかしマスターズではなかなか結果を残すことができず、オーガスタナショナルGCに対しきついジョークを浴びせるなど発言に少し難があったことや、スロープレーの常習犯だったためなかなかファンの心を獲得するまでは至りませんでした。
〇LIVゴルフへ移籍
成績もだんだんと下降線をたどって行く中で、2022年デシャンボーは一大決心をしました。LIVゴルフへの移籍です。
クラッシャーズGCのキャプテンとして戦うデシャンボー。ただこれまでは肉体改造をしても平気だった身体も、少し悲鳴をあげてきつつあったので無理のないトレーニング方法でフィジカルを維持、そしてショートゲームに力を入れるようになりました。
昨年のLIVゴルフ・グリーンブライヤーで個人戦初優勝、しかも最終ラウンドで58で回り、LIVゴルフ初の50台プレーヤーとなりました。
そして団体戦も優勝し、調子を徐々に上げてきました。
〇固定ファンから沢山のファンに
今年のマスターズと全米プロで活躍を見せたデシャンボー。ここにはファンを大事にする姿がありました。
大会中でも応援するファンに差別なくサインに応じたり、ホールアウト後や自分の練習終了後など、残っているファン全員にサインや記念写真に応じるデシャンボー。最後の一人、そして暗くなるまで続きました。
全米プロでは少年にサインしたボールを奪い取る大人を一喝する姿があり、これがSNSで大きな反響を得てデシャンボーを応援するファンが急増するように。
今まで固定ファンしかいなかったのが、沢山のファンに囲まれるようになりました。そしてファン達に優勝カップを触らせてあげるのも、デシャンポーならできるファンサービスです。
〇世界ランクもトップ10入り、維持するための戦いはこれから
全米オープン優勝で最新の世界ランクも10位に入ることが確実視されているデシャンボー。2年ぶりにトップ10に返り咲きました。
しかしこの順位を維持するのは大変な事、LIVゴルフは世界ランク対象外なため、世界ランクのポイント上積みをするにはメジャーに出続けることやアジアツアーなどの試合に出続けるしかランクを維持できません。
(PGAツアーはまだ出場不可)
来年以降10年間は全米オープンに、その他のメジャーもこれから5年間は出場できることが可能です。
新たなファンを獲得し、新しくなったデシャンボーの戦いが始まります。
4.最後の最後でショートパットを外し、またもメジャー優勝お預けに、ロリー・マキロイ
デシャンボーを追いかける筆頭候補のロリー・マキロイ。
1H(Par4)でいきなりバーディーを奪う幸先のいい出だし。
前半でスコアを1つ伸ばし、12H(Par4)で長いバーディーパットが入りついにデシャンボーを捉えると、続く13H(Par4)もバーディーを奪い一時2打差をつける状況になり、13年ぶりの全米オープン優勝が見えてきました。
しかし15H(Par3)でアプローチを寄せた後の短いパーパットを外し、16H(Par4)で2オンしながらも3パットのボギーで一歩後退すると、最終18Hでは下り1mのパーパットを外してしまい、せっかく掴みかけていたカップがするりとマキロイから離れてしまうという、何とも言いようもない結末になりました。
大会前にエリカさんとの離婚を取り消す発表をしたマキロイ、一人寂しく夜を過ごさなくてはいいものの、こちらはほろ苦い”父の日”となりました。
5.伸ばせなかったがパープレーに纏めて今年初のメジャー大会トップ10入り、そして五輪出場の意思を表明、松山英樹
10年間もメジャー大会に出続けると、開催コースを2度経験することがこれから多くなってくるであろう松山英樹。
全米オープン12年連続出場の経験が十分生きた4日間でした。
チャンスが来て決まらないところは我慢、ピンチになったら冷静に処置し、傷口を最小限にとどめる。
他の日本人選手達との”違い”を十分に見せつけました。
最終日は9H(Par3)でボギー、13Hでバーディーの1つずつであとはパーを重ね、結局イーブンパー70でホールアウト。
トータル2アンダーで6位タイに入り、2年ぶりにトップ10に入ることができました。
10年以上もこの舞台で戦い、何をしなくてはならないか、準備はどのようにしなくてはならないかを心得ている松山。
代表に決まったパリ五輪出場に今まで及び腰でしたが、出場の意思を表明しました。
全英オープン後も精力的に活動する松山、無理のないようにして今後を乗り切って欲しいです。
6.プロとしてメジャー初のバーディーフリーだった2日目、そして自身初めて連日オーバーパーで終了、スコッティ・シェフラー
開幕前は優勝候補大筆頭でありながら、大失速してしまったスコッティ・シェフラー。
特に2日目、スコアを伸ばしたい5H(Par5)でウエストエリアのアプローチに大苦戦しダブルボギーを叩いたのが原因で、2ボギー1ダブルボギーの4オーバー74で終了。プロになってメジャー競技で初めてバーディーフリーのラウンドとなりました。
2日間で5オーバーとなり一時は週末に進めないかと思われましたが何とかそれは回避。しかし3日目になってもシェフラー本来の調子が戻らないまま迎えた8H(Par4)でやっと26Hぶりのバーディー。
ここまでバーディーが来なかったのはプロ最長です。
最終日は2オーバーの73で、自身初めての全てオーバーパーのラウンドとなったシェフラー。
結局トータル8オーバーで終了し全米オープンのタイトルは翌年以降に持ち越しとなりました。
7.雑感
〇ラームの代役選手、4日間完走する
火曜日に左足指の感染症による化膿のため棄権したジョン・ラームに代わり補欠から出場権を得たジャクソン・スーバー。
松山、ジョーダン・スピースとの2日間で2オーバーで終了し、見事週末にコマを進めることができました。
3日目に11オーバーの大叩きをするものの、結局18オーバーで大会を終了。
本来ならばスーバーはコンフェリーツアーに出場するはずでしたが、思わぬ1週間となりました。
〇金曜にコースを去った大物選手
今回金曜でコースを去った大物選手は以下の通りです。
フィル・ミケルソン
ダスティン・ジョンソン
ジャスティン・トーマス
リッキー・ファウラー
ウィル・ザラトリス
マックス・ホマ
ビクトル・ホブランド
タイガー・ウッズ
タイガーは今後の全米オープン出場はどうなるかわからないと、ひょっとしたらこれが最後になるのかもと囁かれるようになりました。
そしてミケルソンのキャリアグランドスラム、いよいよ来年が最後の挑戦となります。
〇全米オープン、マスターズでローエストアマチュア
オハイオ州立大在学中のアマチュア、ニール・シプリーが全米オープンのローエストアマチュアに輝きました。
最終日は同じローアマを争うフロリダ州立大在学中のルーク・クラントンと同組で対決、最終ホールまで及ぶ熱戦でしたが最後はシプリーがクラントンに2打差をつけ、ローアマの称号を得ました。
シプリーはこれでマスターズに続くメジャー2大会でローアマを獲得、ビクトル・ホブランドが達成して以来の記録となりました。
来年第125回全米オープンは、ペンシルベニア州オークモントのオークモントCCで開催されます。
全米オープン史上最多、10回目の開催です。