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2023年9月の記事一覧
「ヨーロッパ新世紀」
『ヨーロッパ新世紀』 https://rmn.lespros.co.jp/ 人種、宗教、言語のるつぼって、 ルーマニアとはまさにそういう地だということを 知らしめてくれた。 そのことは後で書くが、、、 本作、 舞台はルーマニア中部のトランシルヴァニア。 この地トランシルヴァニアとは「森の彼方の地」の意味であり、 古典的な恐怖小説「吸血鬼ドラキュラ」の舞台でもある。 ルーマニア人とハンガリー人、そして少数のドイツ人やロマの人々が暮らすこの多民族の村。 主要産業だった鉱山が閉鎖されて以来、 村の働き手はよりよい報酬を求めて西ヨーロッパの先進国へ出稼ぎに行っている。 主人公マティアスはクリスマス直前の冬、 そんな出稼ぎのドイツの食肉工場で上司への暴力沙汰を起こしこの村に帰ってきた。 しかし長らく疎遠だった妻は、突然現れたマティアスに冷ややかな目を向ける。 幼い息子のルディは、つい最近、森で恐ろしい何かを目撃し、 まったく言葉を発しなくなっていた。 一方地元のパン工場のオーナーから経営を任されているシーラは、 EUからの補助金を得るために求人広告を出すが、地元の応募はない。 やむなくシーラは、人材派遣業者を介して外国人労働者のスリランカ人3人を雇い入れることにする。 合法的に雇われた3人はとても勤勉で、職場や業務にもすぐ馴染んだが、 村のコミュニティは彼らを異端視しSNSには「奴らがやるのは盗みと殺しだ」「ひとり雇えば、じきに群れになる」「ルーマニアから追い出せ」と。 更にスリランカ人従業員への殺害までもを促す穏な書き込みが投稿されるようになる。。。。 この作品を語るには ルーマニアが人種、宗教、言語のるつぼの地であるという 歴史的、地政学的事実を念頭に置いておくことだろう。 地域: 東欧のほぼ真ん中 東にモルドバ、ウクライナ 西にハンガリー、セルビア 南にブルガリア 等に囲まれている。 言語: 公用語はルーマニア語であり、人口約2300万人のうちの 約89%によって話されている。 ハンガリー語は、主にトランシルヴァニアで人口の約7%によって公用語として話されている。 15世紀以降、現在のトランシルヴァニア地方はオース トリア・ハンガリー帝国の領土で、 ドイツ系やハンガリー系の人々も多く住んでいた。 また、国の人口の約1.5%はドイツ語を話す。 民族: ルーマニア人は人口の89%を占め、 ハンガリー人とドイツ人は、比較的最近まで多くおり、 ハンガリー人はまだ少数の地区で過半数を占めている。 また、ロマと呼ばれるジプシーが約10%存在。 彼らは14世紀頃、東方から移動をしてきた民族で 今もなお差別や偏見に苦しんでいる。 宗教: 正教会、ハンガリー人はカトリック、ドイツ人はルター派が多い。 しかしハンガリー人にはユニテリアン主義派、ルーマニア人にはギリシャ・カトリック、ドイツ人にはカルヴァン主義派もいて、 これらが混在している。 歴史: 13世紀末から14世紀には公国が建国されるが、 15世紀末には、オスマン・トルコの宗主権下に入る。 以後各公国が勃興し独立革命が画策されるが 1878年まで再びトルコに統治される事になる。 本作の舞台トランシルヴァニアが、ルーマニアに併合されたのは1918年。第1次世界大戦後のこと。 しかし1940年には、ソ連がベッサラビア地方を占領。翌年には、「ナチス・ドイツ」の圧力により、ルーマニアは第2次世界大戦に参加。 1965年には、チャウシェスクが、党の第1書記に就任。 彼の独裁政治は国民の不満を買い、1989年12月、チャウシェスク政権打倒を目指し、改革が行われる。 1991年12月には、新しい憲法が承認。 現在: 民主化もある程度は進み、2007年には悲願のEU加盟を達成している。 但し、経済成長も進んではいるが、 EU加盟国の中ではブルガリアに次いで貧しい国となっており、 多くの国民は西欧へ出稼ぎに赴いている。 また 西欧へ向かう移民、難民の陸路、中継地でもある。 何だか歴史の授業みたいになったけれど ともかくこれを知って、この事実を知らしめるための作品と言える。 ・・・事実僕もこの作品を観なければこの事実は知らないままだった。 「人種のるつぼ」と「歴史に翻弄」された地に さらなる「外国人労働者問題、しかもアジア系」 これらが絡まりあった(というかほとんどこんがらがってといった方が正しいかもしれない) 事態をあらわした作品。 ルーマニア出身の監督 クリスティアン・ムンジウは 2007年、2作品目の『4か月、3週と2日』で第60回カンヌ国際映画祭パルムドールを受賞。 様々な国際映画批評家協会賞を受賞し、ヨーロッパ映画賞では最優秀作品賞、最優秀監督賞を受賞している。 2023年10月14日 公開
「バーナデット ママは行方不明」
映画『バーナデット ママは行方不明』オフィシャルサイト https://longride.jp/bernadette/ いくつになっても、何度でも人生はリスタートできる。 原作は2012年に出版されたベストセラー、アメリカの作家マリア・センプルの小説『Where'd You Go, Bernadette』 かつて天才建築家としてもてはやされた主人公バーナデット、 夢を諦めた過去、日に日に息苦しさが募る中、 退屈な世界に生きることに耐え切れず忽然と姿を消す。 彼女が向かった先は南極!さて。。。 本作は バーナデットを演じたケイト・ブランシェットに尽きる。 1998年『エリザベス』でエリザベス一世を演じ、ゴールデングローブ賞ドラマ部門主演女優賞などを受賞。 レオナルド・ディカプリオ主演によるハワード・ヒューズの伝記映画『アビエイター』では大女優キャサリン・ヘプバーンを演じ、アカデミー賞助演女優賞を初受賞。 その後もアカデミー賞で数々のノミネート、『ブルージャスミン』では主演女優賞を受賞。 本作ではゴールデングローブ賞主演女優賞にノミネート。 文句ない実力が忌憚なく発揮されている。 また 監督・脚本の リチャード・リンクレイター ベルリン国際映画祭銀熊賞を2度受賞しているのに 僕には未確認監督だった。 特に2度目受賞作の『6才のボクが、大人になるまで。』観なければ!、と資料を見て決断した。 本年度 極楽映画大賞主演女優賞ノミネート 2023年9月22日 公開
「ロスト・キング 500年越しの運命」
https://culture-pub.jp/lostking/ シェークスピアと徳川家康はほぼ同期。 僕はよくこの事実に言及する。 シェークスピア1564~1616 徳川家康1543~1616 と生まれは違うが没年は同じ。 まっ、これは雑学ですが この事実を知っておくだけで 世界史は俄然面白くなります。 さて本題。 シェークスピア登場のさらに100年前に即位した イギリス王リチャード3世、 一介の歴史好き主婦があることをきっかけに長年(500年!)その存在が不明だった そのリチャード3世の遺骨の存在を21世紀の2012年に発掘した事実に基づく映画。 本作を観るにはまず その時代背景を知っておくことをお勧めする。 リチャード3世の15世紀というと 日本では戦国時代 イギリスでは薔薇戦争時代。 薔薇戦争とは、 これに先立ちフランスとの100年にわたる100年戦争後に 発生したイングランド中世封建諸侯による内乱。 百年戦争の敗戦責任の押し付け合いが次代のイングランド王朝の執権争いで ランカスター家とヨーク家の、30年に及ぶ権力闘争だった。 最終的にはランカスター家系のテューダー家のヘンリー7世が武力でヨーク家を倒し、 ヨーク家のエリザベス王女と結婚してテューダー朝を開いた。 リチャード3世はヨーク朝最後のイングランド王、薔薇戦争の最後王であり 100年後にシェイクスピアによって、ヨーク朝に変わって新たに興ったテューダー朝の敵役として悪名高き王として描かれ、その人物像が後世に広く伝わった。 しかし一方で、リチャード3世の悪名はテューダー朝によって着せられたものであるとして、 汚名を雪ぎ「名誉回復」を図ろうとする「リカーディアン (Ricardian) 」と呼ばれる歴史愛好家たちもおり、 欧米には彼らの交流団体も存在する。 本作は 一介の歴史好き主婦がその汚名を晴らすべくこのリカーディアンにも加わり 更に考古学者などを巻き込み、できる限りの手を尽くし どうにかこうにか「本能的」に探し当てたリチャード3世の埋葬地と思われる場所を発掘し 500年後の今、見事に発見につなげるという信じられない事実。 そこに至る、また発見後の 政府や学会のいやらしい立場の人々の描写 さらに これらに反して主人公が得た至福の場所 ・・・・お勧めします。 主演の サリー・ホーキンス アカデミー賞女優賞の候補となったイギリスで最も尊敬を集める女優のひとりでもある 彼女の演技が卓越。 (どこかでみたよなーー)と調べてみたら なんとあの傑作、熊の「パディントン」シリーズで暖かくもユニークなブラウン夫人を演じた人だった。役者ってすごいと改めて思う。 本作のもととなるその主婦 フィリッパ・ラングレー(1962年生まれ)は リチャード三世の遺体発掘と特定における貢献に対し、エリザベス二世より大英帝国勲章第5位(MBE)を授与される。 彼女から本作へのメッセージの中に 「この映画が日本で公開されると聞いて非常にエキサイティングに感じています。 我々の15世紀の歴史はとても似通っています・・・日本は戦国時代、そしてイングランドは薔薇戦争。 日本にもリチャード三世協会の会員がいることもとても喜ばしいことです。 駐車場に眠る王を探す、という私のジェットコースターのような経験を描いたこの映画をぜひお楽しみください。 忠誠が我を縛る、フィリッパ(別称 キングファインダー)」 ※「忠誠が我を縛る」は、リチャード三世のモットーと言われています 極楽映画大賞:主演女優賞ノミネート 2023年9月22日 公開
「『オオカミの家』 併映『骨』」
『オオカミの家』公式サイト http://www.zaziefilms.com/lacasalobo/ なんだこりゃ!??? どこまでいっても この言葉しか思いつかない。 わけわからないし、気持ち悪いし。 といっても 何かバイオレンスとかホラーではなく 映像の可能性を引き出した怪作とでも言うのでしょうか。 僕が20代のころだったら、ともかく観て ともかくなんだかわからんが、ともかく観た 勇んで劇場に足を運んだ と思う作品。 チリのアーティスト・デュオ《レオン&コシーニャ》による作品。 これでは全く解説にならんので 以下、プレス資料からそのまま記します。 クリストバル・レオンとホアキン・コシーニャの二人組による初の長編映画『オオカミの家』は、ピノチェト軍事政権下のチリに実在したコミューン【コロニア・ディグニダ】にインスパイアされた “ホラー・フェアリーテイル” アニメーション。チリ南部のある施設から逃走し、森の中の一軒家で二匹の子ブタと出会った娘マリアの身に起きる悪夢のような出来事を描いている。 レオン&コシーニャが監督のほかに脚本、美術、撮影、アニメーションなどを務めた。撮影場所は、チリ国立美術館やサンティアゴ現代美術館のほか、オランダ、ドイツ、メキシコ、アルゼンチンにある10カ所以上の美術館やギャラリー。実寸大の部屋のセットを組み、ミニチュアではない等身大の人形や絵画をミックスして制作、制作過程や制作途中の映像をエキシビションの一環として観客に公開するという手法で映画を完成させた。企画段階を含めると完成までに5年の歳月を費やしており、ワールドプレミアとなった第68回ベルリン国際映画祭ではカリガリ映画賞を、第42回アヌシー国際アニメーション映画祭では審査員賞を受賞するなど世界各国で数々の賞を受賞している。 全編カメラが止まることなく、最後までワンシーン・ワンカットで空間が変容し続ける“異形”のストップモーション・アニメーション。その特異な才能の素晴らしさは、『ミッドサマー』で知られるアリ・アスターが一晩に何度も鑑賞し、自ら二人にコンタクトをとったというエピソードからも伝わるだろう。彼らと意気投合したアスターは、今回同時上映となる短編『骨』の製作総指揮に名乗りを上げ、さらに自身の最新作『Beau is Afraid』内の12分にも及ぶというアニメ・パートも彼らに依頼した。ほかに、トム・ヨークの新バンドThe SmileやPJ ハーヴェイのミュージックビデオを監督したことも話題に。2021年には、アメリカのゲーム・エンタメ情報サイト「IGN」の歴代アニメーション映画ベスト10に選出。同年Varietyの「観るべき10人のアニメーター」にも選出された。 2023年8月19日 もう公開されてます。
「ダンサー イン Paris」
https://www.dancerinparis.com/ かつて「若者たち」というTV番組があった。 1966年ということは僕が8歳ぐらいの時。 青春時代の「よくわからない」迷いや、怒りや、喜びを 表現したTV番組として一時代を築いたといえる。 この 「よくわからない」エネルギーがまさに青春であり 「よくわからない」けれどどこか同感や郷愁を引いてしまう そうとも、それが青春だ♪ と、わかる人にはわかるフレーズが出てきちゃうんですね。。。。 話を本作に、 そう、この作品はまさに 現代フランス・パリでも 同じようなことがあるんだなと、 そういう作品だと思う。 パリオペラ座バレエ団でトップを目指していた主人公が トラブルでその道をあきらめ新たな道を歩みだす。 同時にクラシックとは全く違うコンテンポラリーダンスに出会い そこで新たな青春が開花する、といったところだろうか。 僕はダンスのことは未知だが 一点(なるほど)と思わせるセリフがあった、 「この二つのダンスは同じダンスでも 表現を目指すところは クラシックバレエは天に昇る、昇ろうとする姿 コンテンポラリーダンスは地を深く掘る、掘ろうとする姿 を追求する違う物なんだ」 ・・・わかる気がした。 因みに 先の「若者たち」の出演者は 田中邦衛、橋本功、山本圭、松山省二 佐藤オリエ、加藤剛 なんというラインナップだったのか!? 2023年9月15日 公開