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2023年8月の記事一覧
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「草原に抱かれて」
『草原に抱かれて』(監督:チャオ・スーシュエ/96分/カラー/モンゴル語/2022年/中国)9月23日(土)K’s cinemaにてロードショー!! http://www.pan-dora.co.jp/sougen/ これは内モンゴルを舞台にした映画。 先にも書いたが僕はモンゴル映画の大ファンだ。 といっても、近代化を問題視したような 首都ウランバートルを舞台にしたような作品は対象にない。 事実以前にそんな映画を観たことがあるが、なんとも嫌な気分になった ・・・ゆがんだ近代化に気分が嫌になったのではなく、変に背伸びしたそうした映画にです・・・。 さて 本作は「内モンゴルを舞台」ということをあえて記したのには 重要なわけがある。 モンゴルは 中国の北側に位置するモンゴル国と 中国の自治区である内蒙古自治区、いわゆる内モンゴル とに分かれる。 ということで 本作は進化する中国の影響を強く受けているモンゴル民族の「今の話」であるという事。 主役のアルスは都会で打ち込みと馬頭琴(この組み合わせもすごいが)のミュージシャン。 言っては悪いが、内モンゴルではこんなレベルの音楽がやっとなのだろうと、思ってしまうが でもそれが、今の内モンゴルの現状なのだろう。 物語はその「都会に出て活躍する若者」が認知症の母を故郷の草原の村へと向かい 民族のアイデンティティーを見直すきっかけを得る ひとつのロードムービーと言える。 そこには (中国の国策なのだろう) 大きな発電風車が林立したり 羊を放牧する草原をドローンが管理したりと・・・ そう、これが内モンゴルなんだと気づかせてくれる。 監督は30代半ばで本作が監督デビュー作ということで 素人臭さや青臭さがあることは否めないが そこがなんとも言えない味であることも確かだ。 ラスト近くの音楽シーンは回転撮影を駆使し 思わず(デ・パルマが好きなんだろうな)とほほえましい感もある。 雑学: モンゴルでは移動テントは「ゲル」 内モンゴルでは「パオ(包)」という、そう、パオとは中国飲茶の小籠包(ショーロンポー)のパオと同じ包むという意味から 2023年9月23日 公開
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「鯨のレストラン」
映画「鯨のレストラン」公式サイト https://www.whalerestaurant.jp/ 議論が必要なんだろう。 うーーーむ、 どう紹介したらよいのか迷った。 本作は 捕鯨、特に鯨を食すということ これを肯定的な立場で描いたドキュメンタリーといえる。 僕自身、鯨を食するという事にはとりたてて反対でもないし だからといって「どんどん食べましょう」という立場でもない。 時には食べるし、小学校の給食の時に出た鯨の竜田揚げには郷愁すら感じる (多くの同世代の人がそうであるように)。 欧米を中心とした それこそ目くじら立てた捕鯨反対やイルカを救え!騒ぎには 本能的に拒絶感もある。 ただ、それは、捕鯨に大賛成だからということではなく なんだか???一体そこに何があるんだろう?何かあるんだろう・・・ というなんだかよくわからない違和感を感じるからなんだ。 取り立てて捕鯨賛成と声を上げるのでもなく 捕鯨反対の動きに違和感を感じる ・・・多くの人(日本人)がそうであるような・・・ 僕なのです。 本作では 感情的な反対ではなく 科学的な根拠で正当性を示している。 この点は見るに値するし 逆に 捕鯨反対派の人たちにこの点においての反論を聞いてみたい。 (多分あると思う)。 話は変わる: 最近出版されてすぐに版を重ね、話題になっている書籍がある。 「検証 ナチスは『良いこと』もしたのか?」 検証 ナチスは「良いこと」もしたのか? (岩波ブックレット 1080) | 小野寺 拓也, 田野 大輔 |本 | 通販 | Amazon https://www.amazon.co.jp/%E6%A4%9C%E8%A8%BC-%E3%83%8A%E3%83%81%E3%82%B9%E3%81%AF%E3%80%8C%E8%89%AF%E3%81%84%E3%81%93%E3%81%A8%E3%80%8D%E3%82%82%E3%81%97%E3%81%9F%E3%81%AE%E3%81%8B%EF%BC%9F-%E5%B2%A9%E6%B3%A2%E3%83%96%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%83%83%E3%83%88-1080-%E5%B0%8F%E9%87%8E%E5%AF%BA/dp/4002710807 タイトルの通りあの時代、はたしてナチスがしたことは悪い事ばかりだったのだろうか? 第一次大戦で疲弊したドイツの経済を立て直した、アウトバーンを整備した、手厚い家庭支援をした等々 本書は各点を掘り進めている。 その実、判断は読んだ人たちそれぞれに委ねられると思うのでここでは記さないが ともかく、見る側、どちらから見るのか、立場によってその判断や価値観は異なるということ。 ただ、この書評の一つにそうした異なった立場の人であっても 「議論すること」の必要性を説いていた。 本作に話を戻す: ということで 本作に対する僕の紹介は 「うーーーむ、議論することじゃないかな」 ということです。 何だか割り切れない文章で申し訳ないです。 2023年9月2日 公開
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「春に散る」
https://gaga.ne.jp/harunichiru/ 大好きな作家の新作だからこそ、あえてすぐに読まずにとっておく事あるよね。 沢木耕太郎フリークの僕はこの原作「春に散る」を読まずにとっておいた。 そして読む前にこの作品を見た(見てしまった)。 沢木耕太郎原作で佐藤浩市主演とくれば 見る前からの期待と言ったらなく (もしよくなかったらどうしよう、、、良いに決まっているよな・・・) と、不安と期待に膨らんだ状態とはまさにこのことか。 期待は裏切られなかった! 沢木作品、しかもボクシングが題材。 当然のことながら壮絶なリングシーンをどう撮るのか、演じるのか クランクイン前に制作者出演者は皆、武者震いしたことと想像できる。 、と、 そして見事に完結した。 鬼気迫るとはこのことかと。 映画では sportsや音楽を題材とする場合 作品の評価に対する目の多くが そのシーンをどのように演じられるかに向けられると思う。 古くは ボクシングでは「ロッキー」がそうだし 音楽では(前にも書いたが)「愛情物語」がそうであるように ハリウッドに一歩も二歩も先んじられていた。 しかし近年邦画では 遜色ないというか、日本の土壌、邦画が醸し出す 素晴らしいシーンを完成させている。 …ちなみにマラソンをする僕としては、 駅伝を描いた 「風が強く吹いている」のランニングシーンが忘れられない。 https://eiga.com/movie/54250/ さて本作に戻る。 佐藤浩市の演技はもう書く必要はないだろう。 共演の横浜流星、助演の窪田正孝 演技もさることながら、くどいようだが、、、リング上での鬼気迫るファイトシーン 歴史に残るのではないかな。 また 助演の中でも片岡鶴太郎に関して書いておきたい。 コメディアンだったのがいつの間にか性格派俳優となり いつの間にか、人心を知る刑事役を多く演じ ・・・僕としては、なんだかその姿になじめなかった。 しかし、本作では、彼は、 自ら選んで経験したボクシング その映画だからこそ 肩の力が抜け、その分自然なエネルギーが目に宿り 彼が歩んできた身でこその、卓越した演技だと感じた。 ということで良作である。 そうそう、 ラスト近くで 佐藤浩市が歩く後ろ姿を捉えたシーン ・・・三國連太郎に似てるな、本当に・・・ 本年「極楽映画大賞」ノミネート! 一点だけ(許されるのなら)、 佐藤浩市と横浜流星それぞれが 「何故、あそこまでしたボクシングをやめたのか」 「何故。そこまでしてボクシングを学ぶのか」 この点がもう少し丁寧に描かれていたら、、、とも思ったが これは原作を読んで、と。 最後に 本作に向けた 沢木耕太郎のコメントを一部抜粋で。 @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ 私は映画の制作スタッフに『春に散る』というタイトルと広岡という主人公の名前を貸すことに同意した。 しかし、同時に、それ以外のすべてのことを改変する自由を与えることにも同意した。 というより、むしろ、私がその一項を付け加えることを望んだのだ。 文章の世界と映像の世界は目指すところの異なる二つの表現形式である。 映画の制作スタッフが、広岡をどのように生き切らせ、死に切らせようとするのか。 あるいは、まったく別のテーマを見つけて提示してくれるのか。 楽しみにしている。 @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ また惚れた。 2023年8月25日 公開