ドラゴンシェフ地区予選で作った「神弁当」のレシピの話
まず、ドラゴンシェフとは、全国の40歳未満の料理人を対象にしたコンテストです。M-1の料理人バージョンみたいな感じらしく、優勝賞金は1000万円。
参加のきっかけは、テレビCMでした。
2020年の年末に参加を呼びかけるCMが流れていて、料理系のコンテストって参加制限が厳しいものが多い中、経歴や資格など関係なく、料理を愛する人全てが参加対象とあって、人生で初めて料理系のコンテストに参加を決めました。
ちなみに、地区予選の前に都道府県予選もありまして、そちらは写真と動画を使った審査内容でした。
お題は「地元食材を使った、ビールにあう一皿」。
僕は、「東京軍鶏、治助イモ」を使った「透明な唐揚げ」をつくり、東京都予選を突破。東京代表に選んでいただきました。
地区予選のお題は「神弁当」
続く、地区予選。
各地区ごとに設定された「神食材を使った神弁当」というテーマで三段重を作れ!というのが、地区予選の課題でした。
これに加えて、副食材として使用できるのは、2000円まで!(調味料込み)
ちなみに、関東甲信越の神食材は「東京X、蛤、カブ」
全部白っぽいので、彩りに予算を当てる必要がある分、予算に余裕はありません。
コンセプトは「お弁当」
「神弁当」とは別にコンセプトも定めるように番組サイドに求められます。
僕が定めたコンセプトはそのまま「お弁当」です。
というのも、僕の料理のスタイルは「分解と再構築」で、コンセプトはだいたいいつも単純です。ただ、単純だからこそ、思考し甲斐があるし、工夫し甲斐があって、美味しく面白く、深くしてくことができると思っています。
【分解】
〇〇とはそもそもなんだっけ?と考えたり、料理の要素を因数分解したりする。
【再構築】
分解した材料を元に、美しく組み直す。または、面白くする。
都道府県予選の時に作った「透明な唐揚げ」が、まさにそれです。
今回は、自分の原体験を元に、「お弁当ってそもそもなんだっけ?」と考えてみました。
小さい頃、お弁当って特別感があって、楽しかったし、ワクワクしてた記憶がありませんか?
冷めてるから出来立てより美味しくないはずなのに、お弁当の形になると美味しさ以上のワクワクがあったように僕は記憶しています!
それは、「ふりかけをかける行為」だったり、「おもちゃみたいな小さなカトラリー」だったり、「ナポリタンやソースカツ、グラタンなどの主役級のおかずが一緒になっている」という要素にあるのかもしれないなと考えました。(ここまでが分解)
「ふりかけの特別感」「食べにくいカトラリーによる非日常体験」「主役級のおかずだらけ」「お弁当あるある」などの分解して出てきた材料を使って、美しく面白く、深くしてきます。(ここから再構築)
具体的には以下のようなメニューで臨むことにしました。
【肉の重①】 梅の生姜焼き(バラ肉)
お弁当の定番「生姜焼き」を分解と再構築してみました。
硬くパサパサになりがち豚肉は、冷めても柔らかい食感に仕上げるため圧力鍋でホロホロになる寸前まで火を通します。
豚の脂は室温で白く固まってしまい、そうなるとしつこくなるので、脂の厚さを調理前に筋引き包丁で調整して、梅と生姜のソースを纏わせることでさっぱり食べれるようにアレンジして解決しました。
また、梅干しを乾燥させて作った「梅干しのふりかけ」を、途中で振りかけることで、塩味のアクセントと、食感としての面白さを演出してみました。
梅干しも、お弁当によく登場する食材なので、この点もお弁当のテーマに沿った演出になるはずと、時間いっぱいまで薬包作りしてました。笑
以下は、番組に提出したレシピです。
【材料】(5人前)
・バラ肉:400g
・醤油: 100cc
・みりん: 100cc
・砂糖: 大さじ2
・水: 50cc
・酒: 50cc
<梅生姜ソース>
・梅:1個
・おろし生姜: 10g
・みりん: 20cc
・醤油: 10cc
<あしらい>
・うるい: 3本
・おかひじき:1パック
・エディブルフラワー:少量
<ふりかけ(食べる直前に振りかける)>
・乾燥梅干し:3g
【作り方】
1. 豚バラの脂身を筋引き包丁を使って、3mm厚に調整する。筋繊維に直角に刃を入れ、2cm幅に薄切りにしておく。
2. 圧力鍋に醤油、みりん、砂糖、酒、水を入れて煮切る。ここに❶を並べて、圧力調理へ。加圧開始から12分ほどで加熱を止める。
3. 梅はフォークの背で潰し、おろし生姜、みりん、醤油を加えて1分レンジアップする。
4. あしらいのうるいは、細切りにして、お重の1/2に敷き詰める。
5. オーブンペーパーを使って、乾燥梅干しを薬包状に包む。
6. あしらいを敷いたお重に豚バラを並べ、梅生姜ソースを塗って、薬包を添える。食べる直前に梅干しパウダーをふりかけて食べてもらう。あしらいも一緒に食べた方が美味しい。
【肉の重②】 真っ赤なソースカツ(ロース肉)
子供の頃大好きだった冷凍食品のソースカツとみそかつ(あけぼの)を、分解と再構築しました。
そもそもカツをお弁当に入れると湿気ってしまって美味しくないんだけど、ソースカツにすると途端に美味しくなるような気がします。
揚げたてのサクサクではないカツのもう一つの楽しみ方が、シミシミにあると思うんです。
ちなみに、この理論でめちゃ美味しいお弁当がすでにあって、羽田空港で売ってる賛否両論の笠原シェフ監修の「醤油かつ重」。
だし醤油が染みた衣が最高に美味しい。羽田空港ご利用の際は、ぜひ食べてみてください。
さて、ソースカツの話でした。
お弁当に入っているソースカツも好きだけど、同じくらい味噌カツも好きだった記憶があって、この両方の要素をソースカツの中に忍ばせることにしました。
カツに使うロースは、ロース芯と呼ばれる脂身の少ない芯の部分を切り出して使います。
取り出したロース芯をミートハンマーで薄く伸ばして、チーズカツのニュアンスを取り入れるべく、みそ玉(小池麹店)と酒粕(七本槍)を合わせたペーストを塗りたくり、中央に一休寺納豆を巻き込み、味噌カツの要素を加えます。
*↓レアな発酵調味料は、発酵デパートメントで買えます。(実は、ここの飲食コンサルもやってます。)
とんかつソースの旨味たっぷりで甘酸っぱいニュアンスは、ビーツとハイビスカスとローズヒップの精進出汁を煮詰めて作る真っ赤な甘酢で表現しました。このソースの豚肉との相性は最高。
(アイデアの源流は料理人仲間のノブさんのビーツを使った一品にあるんですが、自分なりにアレンジを加えて甘酢にしてみた。)
更にあしらいに添えた苺が、先の2つの要素と口の中で合わさると、キュートな見た目とは裏腹にセクシーな味わいになります。
*↓この甘酢、本当はビーツ本体を甘酢漬けにする時に使います。これに苺も非常に美味しい。
苺って、お弁当のデザートの定番だと思うんです。
僕の母親は、小さなタッパーに入ったフルーツをよく持たせてくれた記憶がありますが、高頻度で苺は入っていた気がします。
【材料】(5人分)
・ロース: 1000g
・塩胡椒:少々
・酒粕: 10g
・みそ玉: 20g
・一休寺納豆: 8粒
・小麦粉: 50g
・粉チーズ: 大さじ2
・水: 50g
・卵: 1個
・パン粉: 適量
<真っ赤な甘酢ソース>
・ビーツ:1個
・ハイビスカスティー:1袋
・ローズヒップティー:1袋
・水:250cc
・ラズベリービネガー:50cc
・シェリービネガー:10cc
・赤ワインビネガー:10cc
・砂糖: 大さじ3
・塩: ひとつまみ
<あしらい>
- おかひじき: 1パック
- 苺: 2粒
- オリーブオイル: 少々
【作り方】
1. 豚ロースの芯の部分を外して使う。外したロース芯をミートハンマーで叩いて伸ばし、5cm幅に切り揃えておく。
2. 苺を1mm幅で薄切りにしておく。
3. 酒粕、みそ玉を合わせてよく混ぜ、ロースの表面に塗り、一休寺納豆を一粒置いて端から巻き込み、表面に塩胡椒をしておく。
4. 小麦粉と粉チーズを合わせて水を加えて伸ばし、卵をよく泡立てたものを加えてよく混ぜる。ここに❷をくぐらせて、パン粉を纏わせ、160℃の油で揚げる。
5. ビーツとハイビスカス、ローズヒップの出汁を煮詰め、ビネガー類と砂糖、塩を加えてとろみが出るまで弱火で煮詰める
6. 真っ赤な甘酢にとんかつを潜らせる。
7. おかひじきをお重の1/2にひいて、真っ赤なソースカツを盛り付ける。苺とエディブルフラワーを飾り付ける。
【魚の重】蛤のおこわ
おにぎりというシンプル極まりない料理を、分解と再構築しました。
シンプルだけに奥が深いおにぎり。でも、お弁当に入れるとどうしても、乾燥してぱさついてしまいます。
そこで、ちょうど形の似ている蛤の殻があったので、これに封じ込めることで乾燥を防ぎ、繊細な香りを閉じ込めることにしました。
蛤出汁で炊いたおこわには、刻んだケイパー、実山椒の佃煮、レモンオイルを混ぜ込んであります。
おこわに中には、蛤出汁に白たまり(日東醸造)、みりん、砂糖を加えて佃煮にした蛤を隠しました。
蛤出汁でおこわを作り、そのおこわを貝殻に戻します。
盛り付けた様子は、蛤が積んであるだけに見えるますが、殻を開けると中から香り高いおこわが現れます。
この料理は、食べ方もポイントで「貝殻をスプーンに見立てて」食べていただきます。この蛤の殻は、僕が丸一日かかりっきりで研磨剤とリューターを使ってツルッツルに磨き上げたものなのですが、そりゃもう口当たりが最高なんです。
お弁当の時って、ひとまわり小さなお箸やカトラリーで食べていた記憶があって、あの体験もお弁当の大事な要素の一つだと考え、喫食体験として、このメニューに落とし込んでみました。
【材料】(5人分)
・もち米: 1合
・うるち米: 1合
・はまぐり出汁: 240cc
・ケイパー: 6g
・実山椒の佃煮:12粒
・レモンオイル: 小さじ2
<蛤の佃煮>
・蛤のむき身:10個
・白たまり: 30cc
・みりん: 30cc
・砂糖 大さじ1
・蛤出汁: 30cc
<あしらい>
・ひばの葉:適量
・蛤の貝殻:6個(蛤の貝を磨いて持ち込んだ)
【作り方】
1. はまぐりは酒蒸しにして身と蛤出汁に分ておく。この時、きつめに出汁を取る。蛤から出汁を搾り取るイメージ。この後の工程で佃煮したり、おこわの出汁として使うので、身に火を入れ切って、潮汁のような状態になるまで煮る。
2. 蛤出汁240ccで、汁気を切ったもち米とうるち米を入れ、 木べらで混ぜながら水分を吸わせる。蒸し器で25分蒸す。
3. むき身を半分に切って、白たまり、みりん、砂糖、蛤出汁と鍋に合わせて、佃煮を作る。煮汁が少し残るくらいで止める。
4. 蒸し上がったおこわに刻んだケイパー、レモンオイルを加えてざっくり和え、蛤の殻におこわを戻して、蛤と実山椒の佃煮をトッピングして、佃煮の煮汁を少量かけて、貝殻で蓋をする。
5. お重にヒバのを敷き詰めて、蛤の殻(おこわ入り)を盛り付ける。
【裏話】
蛤おこわは、レシピも提供方法も大変よくできていたので、プライベートサロン(てとてと食堂)でも提供しようと考えていたんですが、、、収録当日、ドタバタしていたもので、回収するのを忘れて、ゴミとして廃棄処理されてしまい、、、心残りです。またあれ作るの、まじ大変なんだよなー。。。
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【野菜の重】 ゆずとカブのドリア
これまで作ってきたお重の残り物で作った一品です。
食の裏側には、少なからず廃棄されてしまうものがあります。
肉の重で使わなかった部位と、魚の重で作り過ぎてしまうものを、野菜の重で取りまとめて、あまりものを組み合わせることで全く違う食体験を提供したいと思い組み立てた一品です。
ちなみに、これも僕の小さい頃の原体験が元になっています。
僕は、遠足のお弁当に入っているグラタン(味の素)をおかずにご飯を食べるのが大好きでした。
優しい塩味とミルクの甘さと、それとご飯の組み合わせが、なんともお弁当らしくて、このコース料理の〆にしようと考えました。
カブで作ったペシャメルソースは、僕のオリジナルレシピで、ローストビーフやローストポークによく合わせます。
このカブを使ったペシャメルソースに、肉の重でロース芯を外した脂の部分をカリカリに炒めたベーコンと、魚の重の作り過ぎてしまう蛤のおこわと佃煮を一緒にして、カブと相性の良い柚子で作った器(柚子釜)に詰めました。
ゆずの香りとカブは相性が良く和食でもよく使われる組み合わせです。
最後にペコリーノロマーノを表面に散らして、バーナーで炙って香ばしさを纏わせました。
見た目は柚子釜を使ったしんじょをイメージしましたが、食べるとドリアの様になる一品です。
【材料】(5人分)
・カブ: 4個
・バター: 60g
・小麦粉: 40g
・蛤出汁: 300cc
・コンソメ顆粒: 5g程度
・ペコリーノロマーノ: 6g
・ハマグリのおこわ:残り
<柚子釜>
・ゆず: 6個
<蛤の佃煮>
・魚の重で使ったものを使う
<豚肉のカリカリ>
・豚ロース: 適量(肉の重でロース芯を外した残りを使う)
・佃煮の煮汁: 適量(魚の重で使ったものを再利用)
・白胡椒: 少々
<おこわ>
・蛤おこわ:魚の重で使ったものを再利用
<あしらい>
・柑橘の葉っぱ:適量
・アマランサス:少量
【作り方】
1. カブを蛤出汁で下茹でして、ハンドブレンダーでペースト状にする。蛤出汁で下茹ですることで、旨味をカブの中に引き込む。
2. バターを溶かして、小麦粉を炒め、❶とコンソメ顆粒を入れて、加熱してとろみをつける
3. 柚子を半分に切って柚子釜をつくる。
4. 豚肉を細かく切ってカリカリになるまで炒め、佃煮の煮汁を絡め、白胡椒を振っておく。
5. おこわに❷を少量混ぜ合わせておく
6. 柚子釜に、おこわ、豚肉、蛤を入れて、❷で蓋をする様に覆う。
ペコリーノロマーノを薄く削って乗せて、バーナーで炙る。アマランサスを飾る
7. お重に馬酔木の葉っぱを敷き詰めて、❻を並べる。
これらの料理を2時間で作り切る。下準備はなし。
かなりハードな1日だったけど、楽しめたし、参加者同志の横のつながりができたのは大収穫でした。
予選を通過しても、しなくても、参加者同士で何か仕掛けて行きたいです!
引き続き、応援のほど、よろしくお願いします!
*関東甲信越地区は、参加人数が多いため前・中・後編の3本構成でお届けしています。僕は中編に出てきます。
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