日記(2024/11/29)
からっぽになった部屋を訪ねて、彼の本棚の前に立つ。そうすると、彼と向かい合う心地がする。なんとなく手に取った本をひらいて、その一行目を読んでみる。そうすると、彼の声がこころのなかに響く。少し顔を近づけてみるだけで、彼の匂いがする。あの香水の名残。
こういう文章をサラッと書けるようになってきた。昔は完全に散文的なものしか書けず、少しマシになったとしても、およそ文学的な表現というものは何ら馴染まなかった。もっと明晰に語れよ、とさえ思うことがあった。そういう精神から自由になったあとも、やはり単純に読むのも書くのも苦手で馴染まなかった。だからこそ、この頃の変化が嬉しい。
明晰に語るといえば、次のあとがきの一節を紹介しておきたい。文学に対するある種の苦手意識は別にして、知的探究におけるこういう態度(「知的誠実さ」と言ったりする)は今でも意識している。抽象的で普遍的なことに向かうときこそ、その語りかたは具体的で個別的であるよう心がけなければならない。よい意味でのダブルスタンダードを大切にしたいところ。
せっかくあとがきまにあと名乗っているのだから、こういうのもたまにはね。
数年前の自分が話している動画を見返してみたら、知識が今よりも無いなりに、嘘をつかず明快に話していて感心した。動画は二つあって、年を隔てているのにまったく同じ服、同じ髪型であることには笑ってしまった。ノスタルジア。
これは日記なのだろうか?まあ日記である。あと今日はなんでこんなに口調がお堅いんだろう?ダメわね。もう少し柔らかーくいこ。
電話越しに「速達」ということばを聞いて、そういえばと思った。小学校の国語の教科書にあった『白いぼうし』。もうストーリーは全部忘れてしまったけれど、速達で届いた夏みかんの香りが本当に鼻を抜けた、あの爽快感を今でも覚えている。今日の午前中、それを思い出したばかりだった。デジャヴ的な偶然。それもいつか読み返してみよう。もう長くなりすぎたので、無理やりにおやすみ。