
【追悼】中間玲子さん
暑い夏に,突然の訃報でした。兵庫教育大学教授の心理学者,中間玲子さんが,お亡くなりになりました。「体調がよくない」という話は,1年ほど前に耳にしてはいたのですが……連絡に驚きました。
中間玲子さんは,大学院時代から親しくさせてもらった研究者でした。お互い,青年心理学や自己や自尊感情あたりに興味があって,いっしょに本も出版しましたし,共同研究をしたこともあります。
同世代
中間さんは鹿児島出身で,1991年に大阪大学人間科学部に入学,1995年に京都大学大学院 教育学研究科修士課程入学,1997年から京都大学大学院 教育学研究科 博士後期課程,2001年に博士(教育学)を取得しています。
職歴としては,2001年から奈良女子大学文学部助手,2005年から福島大学助教授,2007年から名称変更で准教授,2009年から兵庫教育大学准教授,そして2016年から教授です。
大学に入った年も,修士課程も博士課程も,就職した年も私と同じです。同世代の研究者として,まだこれから活躍するだろうと思っていたのですが……残念です。
連絡
中間さんの研究内容は,特に自己概念や自尊感情,アイデンティティ,青年期発達などです。この10年ほどは,それぞれ研究の方向性が次第に変わってしまっていましたので,交流は少なくなっていました。しかしやはり同世代の研究者ですので,学会などで会うことができるのが楽しみな研究者の一人でした。
この数年も,何か研究や統計などで迷ったことがあると,たまに中間さんから「教えて」メールが届いていました。私からはいつも出版した本を送っていましたし,中間さんからも送ってもらっていました。
最後のメールのやりとりは,2023年の春頃でした。この年のとあるシンポジウムでいっしょに登壇することができたはずだったのです。ところが,その登壇がキャンセルされたという連絡を受けたのでした。また,別のところから体調がよくないという話も耳にしていました。
まさかそのまま二度と会うことができなくなるとは,思ってもいませんでした。
書籍
そもそも私が初めて出版した,博論をベースにした書籍『自己愛の青年心理学』(ナカニシヤ出版,2004年)は,中間さんがきっかけとなって,出版社とのつながりをつくっていただいたのでした。
いっしょに書いた本もあります。『あなたとわたしはどう違う?: パ-ソナリティ心理学入門講義』(2007年,ナカニシヤ出版)は,私と中間さんが前後半,半分ずつ書いた本です。
中間さん編集の書籍『自尊感情の心理学: 理解を深める「取扱説明書」』(金子書房,2016年)には,レジリエンスについての1章を執筆しています。
こちらの公認心理師テキスト『感情・人格心理学:「その人らしさ」をかたちづくるもの』(2020年,ミネルヴァ書房)でも,2つの章を執筆しました。
彼女から頼まれれば,断ることはできません。そして,私も『自己愛の心理学: 概念・測定・パーソナリティ・対人関係』(2011年,金子書房)では,彼女に原稿を依頼しました。
日記法
ここからは,自分自身の彼女への後悔も含めて,過去の研究を紹介します。中間さんと一緒に行った研究で,まず挙げるすれば,自尊感情の日記法研究です。
福島大学研究年報に,『自尊感情の変動性における日常の出来事と自己の問題』という共著の論文が掲載されています。
実は,2002年頃から2005年頃にかけて,毎年共同で研究発表をしていました。以下のリストは,中間さんの個人HPからの抜粋です(当時は水間さんでした)。
小塩真司・水間玲子 (2002). 日常場面における自尊感情(1):平均レベルと変動の個人差に関する諸特徴 日本心理学会第66回大会, 50, 広島大学.
水間玲子・小塩真司 (2002). 日常場面における自尊感情(2):出来事が個人にもたらす影響からとらえた自尊感情の変動性 日本心理学会第66回大会, 51, 広島大学.
小塩真司・水間玲子 (2003). 日常場面における自尊感情(3):共感性の類型との関連 日本心理学会第67回大会, 24, 東京大学.
水間玲子・小塩真司 (2003). 日常場面における自尊感情(4):自己の変化に対する感受性との関連 日本心理学会第67回大会, 25, 東京大学.
水間玲子・小塩真司 (2003). 自己意識における自尊感情の高低と安定性の特徴について 日本社会心理学会第44回大会, 88, 東洋大学.
小塩真司・水間玲子 (2004). 日常場面における自尊感情(5):友人関係のあり方との関連 日本心理学会第68回大会, 53, 関西大学.
水間玲子・小塩真司 (2004). 日常場面における自尊感情(6):出来事と自己との関係づけにおける自尊感情の変動性による違い 日本心理学会第68回大会, 54, 関西大学.
小塩真司・水間玲子 (2005). 出来事と自己との関係性(2):友人関係の群間における対人関係の出来事による影響の差異 日本心理学会第69回大会発表論文集, 26, 慶應義塾大学.
水間玲子・小塩真司 (2005). 出来事と自己との関係性(1):自己意識、人間関係、社会的態度と自尊感情の変動性との関連 日本心理学会第69回大会, 25, 慶應義塾大学.
これらの学会発表の調査は,1週間にわたって毎晩,その日に起きた出来事と出来事の評価,自尊感情を日記式の冊子に記入してもらうものです。現在であれば,スマホで調査を行うでしょうけれども,当時は携帯電話しかありません。B6判(B5用紙を半分に切った大きさ)で毎晩記入する調査冊子を作って,学生の皆さんに持ち帰ってもらって調査をしていました。
毎年,結構な人数の調査を行っていました。そして,いまならもっとうまく分析することができるはずなのです。6日間前後の個人内変動と,個人間差をもっとうまく処理するイメージが,今であればできます。しかし当時は,うまくデータを料理できないまま学会発表を繰り返していて,論文としてなかなか形にできない状態で時間が過ぎていき,加えて日々の仕事も忙しくてまとめられず,結果的に中間さんの論文1本だけが形になったのです。
自分にとっては,ずっと心に引っかかっている一連の研究です。
ポジティブ信奉
その後,私が二分法的思考の研究を始めた頃,中間さんと会った時に「ポジティブ信奉の研究をするから手伝って」と誘われました。いわゆる「ポジティブに考えるとよい結果がやってくる」とか,「くよくよしていたらもっとよくない結果になる」とか,「心がけ次第で,人生はいくらでも変えられる」といったような,ポジティブ思考を信じる程度を研究するものです。
中間玲子・小塩真司 (2010). 現代青年におけるポジティブ信奉の功罪(1):ポジティブ信奉尺度の構成 日本心理学会第74回大会発表論文集, 58, 大阪大学豊中キャンパス.
小塩真司・中間玲子 (2010). 現代青年におけるポジティブ信奉の功罪(2):他の指標との関連 日本心理学会第74回大会発表論文集, 59, 大阪大学豊中キャンパス.
中間玲子 (2011). 現代青年におけるポジティブ信奉の功罪(3):自己報告による心身の適応との関連 日本心理学会第75回大会発表論文集, 32, 日本大学.
中間玲子・小塩真司 (2012). 現代青年におけるポジティブ信奉の功罪(4):ポジティブ信奉にはいかなる効用があるのか 日本心理学会第76回大会, 専修大学.
こちらも,私自身は当時あまりにも忙しく,中間さんの研究に助言したり,補助したりするような役回りになってしまっていました。論文としてはこちらが形になっています。
これも,研究テーマとしてもっと突きつめて考えることができたはずです。今ならもっと,研究のアイデアが浮かびそうです。これもまた,中間さんとの研究の中で,心に引っかかっている研究テーマなのでした。
いずれの研究も,成果は芳しくはありませんでしたが,取り組んだことで多くを学び次へとつながるものでした。感謝しています。
心からご冥福をお祈りします。安らかにお休みください。
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