自己と他者のサイコパス評価はどれくらい一致するのか
「パーソナリティの質問項目を自分自身で評定して,どれくらい正しい結果が得られるのだろうか?」という質問はよく出てきそうです。通常のパーソナリティ特性を測定する場合でもそのような疑問は浮かびそうなのですが,特に正直に答えることが本当にできるのだろうか,疑問になりそうな特性だとなおさらです。
たとえば「サイコパス」なんかはどうでしょうか。
サイコパス
いまこの記事を読んでいるなかにも,ネット上でサイコパス診断テストのようなものをやったことがある人がいるかもしれません。たいていそこでは,曖昧な図形がどのように見えるか?とか,特定の状況でどんなことをすると思うか?とか,どうして特定の行動をしたと思うか?とか,非常に曖昧な質問が用意されて,曖昧に回答をしていきます。
おそらくどうしてそういうことになるのかといえば,背景には「われわれは個人自身のことを十分にわかっていないのだから,ストレートに物事を尋ねても真実は返ってこないだろう」とか「そもそもサイコパスの人なのだから,正直に答えることはないだろう」といった考えがあるのではないでしょうか。
確かめてみないとわからない
でも,心理学の研究の中でも,同じだと思うのです。「質問をしたからと言って,みなが正直に答えるわけではない」ということはじゅうぶんに理解されていて,だからこそ「測定した結果が本当に目的のものを測定できているかは,確かめてみないとわからない」ということで,測定の妥当性を検討することが重要だとされるわけです。
もしも,サイコパスであるかどうかが法律上重要な観点であり,その診断が犯罪の量刑に関わるようなことがあるのであれば,なおさらですよね。研究者の責任は非常に重要なものになってきます。
自分の評定と他者の評定
もしも自分自身で行った評定が,専門家の判断とある程度一致しており,知人の判断とも一致しており,その他多くの人々の判断と一致しているのであれば,自己評定でも問題がないと言うことになります。
これまでにも,サイコパシーの傾向について,自己報告と他の人の報告との間の関連が検討されたことがあるそうです。過去の研究では,両者の間の相関係数は,r = 0.23〜0.62という程度で,そんなに低くはないけれどもとても高いわけではない,という中程度の関連と言っていいのではないでしょうか。
ただしもちろん,この「他者が誰か」という点も重要ですよね。隣にいる人なのか,友人なのか,夫婦なのか,それとも専門家なのか……。
矯正施設の研究
では,矯正施設(刑務所)に収監されている人々を対象に,自己報告と他者報告によって報告されたサイコパシーどうしの関連がどの程度であるのかを検討した研究を見てみましょう。この論文です(Evaluating the validity of brief prototype-based informant ratings of triarchic psychopathy traits in prisoners)。
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