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蛙化現象の謎とアイデンティティのための恋愛

秋学期には毎年,青年期以降の発達心理学の授業をしています。その中で,恋愛や結婚の話をする授業の回があります。

ここ数年,学生たちの授業に対する感想を見ていて気になっていることばが「蛙化現象」というものです。

蛙化現象とは

本当にこのことばを知らなかったので,いったい何なのだろうと思って調べてみました。

そもそも蛙化現象とは、片思いしている男性に好かれると、とたんに相手を気持ち悪く感じてしまう、という心理。蛙化現象の意味はグリム童話の「カエルの王様」という話が由来となっています。

グリム童話がもとになっていると書かれていますね。相手から好かれると,逆に引いてしまうような現象のことを指すようです。

片思いやアプローチ中は相手のことが大好きで長所しか見えなくても振り向いてくれたり、相手も自分に好意を持っていると知った途端、興味を失ったり気持ち悪く感じたりすることを意味する心理学用語の1つです。

そうか……蛙化現象という言葉は心理学用語だったのか……。

蛙化現象(かえるかげんしょう)とは、片思い中は相手のことが好きなのに、両思いになった途端に相手に対して興味がなくなったり、気持ちが冷めてしまったりする現象のことです。心理学用語の一つとして知られています。

ここにも「心理学用語の一つ」と書かれていました。うーん,一応は心理学者のはしくれだと思っていたにこの言葉を知らないというのは,やっぱり問題なのかなあ……?

少なくともいろいろなサイトに「心理学用語」と書いてありますし,YouTubeにも解説動画が出てきますので,それを見て心理学の授業を受けた学生たちが関連する情報として感想に書いてくるのは当たり前のように思えてきました。

Googleトレンドで検索

いつ頃からこの言葉が出てきたのか,Googleトレンドで検索してみました。過去5年間の出現をグラフで描くと,下のようになります。

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どうやら2019年ごろになって一気に広まってきた言葉のようですね。最近の授業でよく学生が書いてくるという印象を持っていたのですが,やはりその印象は間違っていなかったようです。

学術文献検索

もしも心理学用語なら,学術論文にこの言葉が使われているはずです。ということは,J-STAGEやCiNiiで論文や学会発表の中で「蛙化現象」を検索すれば見つかるはずです。

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うーん,見つからない……少なくとも,データベースに登録されている日本語の論文や学会発表に「蛙化現象」というワードは出てきたことがなさそうです。

※2021.12.29付記

近年,このキーワードがついた学会発表が行われていて,データベースでヒットするようになっています。ネットで話題になることで,研究も始まるひとつの例でしょうか。

見つけた

いくつか昔の記事を検索していくと,見つけました。日本心理学会の学会発表論文集(第68回大会, 2004年)に「蛙化現象」の文字があるようです。論文データベースの中に含まれていないようですね……。

2004年の日本心理学会68回大会は,関西大学で開かれた大会です。その大会には私も参加して学会発表をしているはず。とはいえ,日本心理学会というのは3日間で数百の発表があるので見ていなくても当然です(そして研究室にはもう発表論文集もありません)。

こちらのブログ(『好きな人から好意を向けられると気持ち悪くなる』蛙化現象を分析してみた)に,内容の細かい話が載っていました。

とはいえJ-STAGEでもCiNiiでも(全文検索をしても)出てこないということは,それ以外の心理学の文献とくに論文はあまり期待できそうにないですね。そのわりにはネットやYoutubeに山ほど情報があるという……ひとつだけの学会発表が元ネタで,そこからネット上をたどりに辿っていったのでしょうか。何かがネットでバズるというのはこういうことを指すのでしょうね。

ちなみに……アイデンティティのための恋愛

ちなみに青年心理学では「アイデンティティのための恋愛」というキーワードが知られています。こちらはちゃんと心理学の文献の検索結果に出てきますよ。

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これは,アイデンティティの獲得が不十分な状態で恋愛を行うことにより,相手からの評価や賛美が自分のアイデンティティの補強のために使われてしまうような恋愛のスタイルのことを指します。

アイデンティティのための恋愛の特徴は,次のようなものです。

1.相手からの賛美,賞賛を求めたい
(「好きだ」「素敵だ」と言って欲しい)
2.相手からの評価が気になる
(「私のことをどう思う?」と聞いてしまう)
3.しばらくすると,呑み込まれる不安を感じる
(「好きだ」とあまり何度も言われると怖い,不安になる)
4.相手の挙動から目が離せなくなる
(「自分のことを嫌いになったのではないか」と気になる)
5.結果として交際が長続きしない

相手の評価が気になって,自分の評価のために相手の反応を使って,寄ってくるとむしろ拒否してしまい,お互いにこんな状態だと恋愛が長続きしない,という状態のことです。

このなかの「呑み込まれる不安を感じる」が,いわゆる「蛙化現象」というものに近いと思うのですよね。きっと,同じような現象を指しているのだろうなと思っています。

というわけで,私自身は「蛙化現象」よりも「アイデンティティのための恋愛」推しです。提唱者は,日本青年心理学会の現理事長で,これまでに学会発表も論文も青年心理学の本の中にも複数ありますしね……。

※2022.8.12追記

アイデンティティのための恋愛については,「アイデンティティのための恋愛」研究と方法論に関する理論的考察という論文も出版されています。この概念の総括的な内容ですので,こちらをぜひどうぞ。

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