
その味は簡単に錯覚を起こす
「芸能人格付けチェック」という番組をご存じですか?この番組の人気には根強いものがありますよね。
この番組のなかでは,出演者が高級品と安物,玄人と素人を当てていきます。番組を見ている側からすると「どうして当たらないの?」「こんなこともわからないの?」「いや,やっぱりわからないものなのかな」「この人はさすがにこういうことはわかるんだな」などなど,いろいろなことを思い浮かべながら見ることができるのが,人気の秘密なのかもしれません。
味比べ
よくあるのが味を比べるゲームです。高級ワインと安物のワインの味を当てることとか,高級な牛肉と安い豚肉を当てるとか,高級料亭の料理と安い料理を当てるとか,そういったものです。
番組を見ていると,ますます「どうしてこんなこともわからないのか」と思ってしまうものです。
味はわからない
『「おいしさ」の錯覚:最新科学でわかった,美味の真実』という本があります。この本の中に,二種類の食べ物の違い自体に,なかなか気づかないという話が載っていました。
色と口当たりが似ている二種類のジャム,あるいは二つの異なるフレーバーの紅茶の違いに,あなたは気づくだろうか?ほとんどの人々は「気づく」と答えるに違いない。結局のところ,違いがわかるからこそ,私たちは特定のジャムをほかのものよりも頻繁に買うし,多種類の茶葉を自宅にストックしておくのではないだろうか?しかし,ガストロフィジクスの研究を通じて,私たちの知覚能力に憂慮すべき限界があることが明らかになった。私たちは口にしたものの味を——たとえ数分前のものであっても——驚くほど覚えて(あるいは意識して)いないことがわかったのである。心理学で「選択盲」と呼ばれるこの現象を実証する試みとしてスウェーデンで行われたある有名な実験をここで紹介しよう。スーパーマーケットを訪れた買い物客(およそ二百人)に実験に参加するよう頼んだ。まず,参加者に色と口当たりが似た二種類のジャム(カシスとブルーベリー)を評価してもらった。彼らがお気に入りを選んだあと,同じものをもう一度食べてもらい,どうしてそれを選んだのか,もう一方のジャムに比べて何が優れているのか,説明してもらった。すると買い物客たちは,どうしてそれが気に入ったのかといった説明や,トーストに塗るととくにおいしいといった話を調査員に熱心に話して聞かせたのである。(p.243)
選択盲
選択盲というのは,英語でchoice blindnessと呼ばれる現象です。
たとえば,2枚の顔写真を示して,どちらのほうが魅力的かを答えてもらいます。そして,その写真を手渡して,どうしてこの顔のほうが魅力的なのかを説明してもらいます。回答者はあれこれと理由を挙げて説明するのですが,実は,手にした顔写真は「選択しなかったほう」の写真で,にもかかわらず,なかにははそれが選択しなかったほうの写真だと気づかずに,あれこれと説明してしまう場合がある,という現象です。
ジャムのすり替え
先ほどのジャムの実験でも,商品をすり替えます。
だがじつは,彼らが“お気に入り”のジャムを二回目に食べるとき,調査員がそれを別のジャムとすり替えていたのだ。ところが,買い物客の多くはそれに気づかなかった。調査員が手にもつジャムの瓶は,半分はカシスの,半分はブルーベリーのジャムが入っていたので,誰にも気づかれずに,ジャムを交換することができたのである。言い換えるなら,買い物客は何の疑いも感じないまま,ついさっき気に入らないと評価したばかりのジャムを食べながら,どうしてそのジャムを気に入ったのか話したということになる。それとまったく同じことが,フルーツティーを用いた実験でも起こった。全体として,すり替えに気づいた人は三分の一にも満たなかった。味がまったく違うものを使った例——シナモンアップルジャムとグレープフルーツジャム,甘い香りのマンゴー茶と香りの強烈なアニス茶——でも,すり替えに気づいた人は半分ほどにとどまった。この実験結果は,人々の多くは今食べたばかりの食品のフレーバーをはっきりと覚えていないことを物語っている。
そもそもこんなに「味」という感覚は曖昧なのだということがわかると,芸能人格付けチェックで間違えても「しょうがないことなんだな」と思えてきます。
また特番があるときには,家族で見ながら楽しみたいと思います。
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