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【書籍】「科学的に正しい」とは何か

今回は,『「科学的に正しい」とは何か』(リー マッキンタイア著,ニュートンプレス,2024年)を紹介したいと思います。

以前,この著者リー・マッキンタイアの別の本を紹介しました。こちらも関連する内容の書籍です。


科学かどうか

心理学は「科学」であろうとします。授業でも「心理学は科学的な研究方法を使います」と説明したりもするのですが,話をしていると「科学」という言葉のイメージも,人によってずいぶん異なっていることに気づきます。同じ言葉を使っているのに,頭に思い浮かべる内容がずいぶん異なるのです。

科学かそうではないかは,「線引き問題」と呼ばれます。どうして心理学は科学であり,占いは科学ではないと言えるのでしょうか。心理学は科学で,降霊術は科学ではないと,どうして言えるのでしょうか。どこに線を引くことができるのかという問題です。

科学理論

心理学も占いも心霊術も,「理屈」があります。いわゆる「理論」です。占いには占いなりの理論があり,心霊術には心霊術なりの「理論」があります。しかし,科学としての理論であるためには,3つのポイントを押さえておく必要があるそうです。

 理想的には,科学理論は次の三つの条件を満たすべきだ。まず,経験のなかにある一定のパターンを特定すること。次に,そのパターンが今後どう発生するかを予測する裏づけになっていること。そして最後に,なぜそのパターンが起こるかの説明になっていること。その意味で,理論は科学的な説明という建物全体の大黒柱といえる。

p.89-90

この3つの条件をあてはめていくと,うまく区別はできるのでしょうか。

科学的態度

科学かどうかと言う問題になると,ポパーの反証可能性やクーンのパラダイムシフトなどが思い浮かびます。でも,これらは一定の議論の価値はありつつも,線引き問題に適用しようとすると,いろいろなところにこぼれ落ちるものがあるともいえそうです。

そこで著者は,「科学的態度」が重要だと主張します。簡単に言うと,科学的態度とは次の2点を守る態度のことです。

 科学的態度とは,簡単に言えば,次の二つの原則を忠実に守る姿勢のことだ。
(1)経験的根拠を大切にする。
(2)新たな根拠に照らして自分の理論を変える意思をもつ。

p.115

科学が偉いわけではない

世の中の議論を見ていると,ときに科学であることに絶対的な価値が置かれていて,科学ではない学問は「学問ではない」とすら考えている人がいそうで,個人的には残念です(けっこう知られた科学者がこのような態度を取っていると,さらに残念な気持ちになります)。科学であるかどうかは,学問の価値を決めるポイントではありません。そもそも,この本の内容自体,科学ではない「哲学」なのですから。

問題は,「科学であるかのように見せかけているが科学ではない」活動にあります。

この本の中には,次のようにも書かれています。

 ここで重要なのが,あるものが科学であるかないかの判断をする際に,上から目線にならないようにすることだ。科学の特別さというテーマに取り組むほかの研究者とは違い,私は「科学的態度をもっていないから,科学でないものはすべて劣った活動だ」と言うつもりはない(実際,哲学も科学ではないのだから,そうでないほうがよい)。文学と芸術,音楽はどれも科学ではなく,科学的態度を欠いているが,それはごく当たり前の話で,問題は,科学的であろうと見せかけるが科学ではないものにある。占星術や創造論,心霊療法,ダウジングなどは,経験的主張をする一方,優れた科学の進め方(根拠に対する科学的態度を備えることもその一つ)に従おうとしない。これらはどれも,科学のふりをしたものでしかない。科学の皮をかぶりつつ,科学的ではないやり方で経験的知識に近づけると主張するものには,軽蔑こそがふさわしい。経験的知識を追求するときに科学的価値観を疎んじることは深刻な問題である。

p.161

問題が起きても

心理学の再現性問題についても,この本の中で扱われています。問題が起きても修正しようとする動きそのものが,「科学的態度」ともいえます。学会の話を聞いていると,本当に心理学という学問は方法論にこだわっていて,常に誰かが研究の手続きの問題を指摘していて,本当に「反省することが好きだなあ」という印象を受けます。

でも,科学コミュニティとしてはそれが正常で健全な状態です。次のように書かれているとおりです。

 科学で最も重要なのは,失敗を見つけ出そうとする姿勢だ。本当に危険なのはミスではなく,それをごまかそうとすることにある。ミスは修正し,教訓にできるが,ごまかしはたいていミスを隠す際に使われる。見つかる前に多数の研究者が改ざんされたデータを研究の土台にしてしまう場合もある。知識を生み出すことより自分のキャリアを重視する研究者は,科学的態度という理想をないがしろにするだけでなく,科学者仲間をもだましている。うそや操作,改ざんは経験的根拠に対する誤った態度そのものだ。

p.241

意図的な改ざんや虚偽の報告,データや結果の操作などと,「ミス」とは区別する必要があります。科学的な手続きの中では,ミスや偶然手にする結果など,正直に研究をおこなっていても「失敗」は生じるものです。

本質は態度

科学の本質は「態度」にある,という主張は「曖昧だ」と感じるかもしれませんが,この本を読むと,研究活動をしている中の姿勢そのものが「科学」という営みをもたらしているのだろうと思わされます。

 最後に,科学の本質は方法ではなく態度にあること,すなわち結論に飛びつくのではなく結論の正当性を追い求める姿勢にあることを理解すれば,説明をするうえでの唯一無二の強力なツールを手に入れられる。さまざまな限界はあるにせよ,経験的な知識を手に入れるうえで,科学は,人間の心が生み出した最大の発明だと私は思っている。だからこそ科学を理解し,それを模範とし,守る必要がある。

p.454

というわけで,科学とは何かを考えてみたい人にオススメの一冊でした。

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