【書籍】「科学的に正しい」とは何か
今回は,『「科学的に正しい」とは何か』(リー マッキンタイア著,ニュートンプレス,2024年)を紹介したいと思います。
以前,この著者リー・マッキンタイアの別の本を紹介しました。こちらも関連する内容の書籍です。
科学かどうか
心理学は「科学」であろうとします。授業でも「心理学は科学的な研究方法を使います」と説明したりもするのですが,話をしていると「科学」という言葉のイメージも,人によってずいぶん異なっていることに気づきます。同じ言葉を使っているのに,頭に思い浮かべる内容がずいぶん異なるのです。
科学かそうではないかは,「線引き問題」と呼ばれます。どうして心理学は科学であり,占いは科学ではないと言えるのでしょうか。心理学は科学で,降霊術は科学ではないと,どうして言えるのでしょうか。どこに線を引くことができるのかという問題です。
科学理論
心理学も占いも心霊術も,「理屈」があります。いわゆる「理論」です。占いには占いなりの理論があり,心霊術には心霊術なりの「理論」があります。しかし,科学としての理論であるためには,3つのポイントを押さえておく必要があるそうです。
この3つの条件をあてはめていくと,うまく区別はできるのでしょうか。
科学的態度
科学かどうかと言う問題になると,ポパーの反証可能性やクーンのパラダイムシフトなどが思い浮かびます。でも,これらは一定の議論の価値はありつつも,線引き問題に適用しようとすると,いろいろなところにこぼれ落ちるものがあるともいえそうです。
そこで著者は,「科学的態度」が重要だと主張します。簡単に言うと,科学的態度とは次の2点を守る態度のことです。
科学が偉いわけではない
世の中の議論を見ていると,ときに科学であることに絶対的な価値が置かれていて,科学ではない学問は「学問ではない」とすら考えている人がいそうで,個人的には残念です(けっこう知られた科学者がこのような態度を取っていると,さらに残念な気持ちになります)。科学であるかどうかは,学問の価値を決めるポイントではありません。そもそも,この本の内容自体,科学ではない「哲学」なのですから。
問題は,「科学であるかのように見せかけているが科学ではない」活動にあります。
この本の中には,次のようにも書かれています。
問題が起きても
心理学の再現性問題についても,この本の中で扱われています。問題が起きても修正しようとする動きそのものが,「科学的態度」ともいえます。学会の話を聞いていると,本当に心理学という学問は方法論にこだわっていて,常に誰かが研究の手続きの問題を指摘していて,本当に「反省することが好きだなあ」という印象を受けます。
でも,科学コミュニティとしてはそれが正常で健全な状態です。次のように書かれているとおりです。
意図的な改ざんや虚偽の報告,データや結果の操作などと,「ミス」とは区別する必要があります。科学的な手続きの中では,ミスや偶然手にする結果など,正直に研究をおこなっていても「失敗」は生じるものです。
本質は態度
科学の本質は「態度」にある,という主張は「曖昧だ」と感じるかもしれませんが,この本を読むと,研究活動をしている中の姿勢そのものが「科学」という営みをもたらしているのだろうと思わされます。
というわけで,科学とは何かを考えてみたい人にオススメの一冊でした。
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