国と自分を同一視して周辺国を笑う人
日常生活の中でユーモアをもって生活することは,人生を豊かにしますし人間関係にとってもよい結果をもたらすのではないかと考えられます。
ユーモアのダークサイド
普段の生活の中で,笑いながら生活したいですよね。しかし,笑いにはよくない側面もあるのです。日本語でも「嘲笑される」という言葉があるように,自分が現れることで不快感を抱く場合もあります。
また,集団に対して「嘲笑する」というケースもあります。自分の民族性を嘲笑される,自分の国を嘲笑される,自分が所属する集団が嘲笑されるといった場合です。また,嘲笑する側に回る場合もあります。
この背景には,国家的なアイデンティティの感覚が関係しそうです。
悪意のあるユーモア
悪意のあるユーモアには,次のようなものがあります。
◎gelotophobia(ゲロトフォビア):嘲笑の対象となることを予期し,笑われることを恐れる傾向
◎gelotophilia(ゲロトフィリア):笑われることを喜び,笑われることがやりがいのある体験として認識され,笑われることが他者からの評価の表れだと認識する傾向
◎katagelasticism(カタゲラスティシズム):他者を笑いの対象とすること,他者をおとしめ,嘲笑の対象とすることを喜ぶ傾向
このなかでゲロトフォビアは,嘲笑されそうな状況でネガティブな反応を示すことに関連し,笑われそうな社会的状況を回避しようとします。これがひどくなると,妄想のような現象に近くなります。
また一方でゲロトフィリアは,ユーモラスな状況が楽しい経験であり,冗談を言う人が注目され,他者から評価されることの表れであるという認識に関連します。
カタゲラスティシズムは,他者をおとしめることに喜びを感じる,自己中心的で敵対的な表現となってあらわれることがあります。ゲロトフィリアとカタゲラスティシズムは,他者や冗談を言う個人を笑うことを楽しむことに関連します。
国家的
これら3つを,集団に拡張することができるかもしれません。国家を笑ったり嘲笑したりすることは,集団との一体感に関連するのでしょうか。国家的ナルシシズムという考え方があります。
国家的ナルシシズムは,個人や集団のネガティブな結果に関連することが知られています。曖昧な状況であっても,自分が所属する集団が危機的な状況にあると解釈する確率が高く,現実の敵や想像上の敵から集団を守ろうとする傾向が見られます。さらに興味深いことに,国家的ナルシシズムは,所属する集団にとっても害をもたらす可能性があるそうです。
個人と国家
個人のナルシシズムは,脆弱なタイプと誇大なタイプの両方から構成され,誇大なタイプはサイコパシーやマキャベリアニズムにも関連します。一方で国家的なナルシシズムは,自分の国家を理想化する一方で,外からの脅威の知覚に対する感受性が高まること,敵から集団を守ろうとすること,そして外部の集団を蔑視することにつながります。
個人のナルシシズムと国家のナルシシズムは,関連しつつも異なる様相を示しそうです。
国家と笑い
自分が国と一体化する感覚は,ゲロトフォビア,ゲロトフィリア,カタゲラスティシズムに関連するのでしょうか。ポーランドでこれらの関連が検討されています。次の研究を見ていきましょう(The joke is on us? National narcissism and dispositions towards laughter)。
ここから先は
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?