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たくさんの著者がいる論文を書く時のガイドライン

他の研究分野でも同じではないかと思うのですが,心理学の研究でも1本の論文に示される著者の数は,どんどん増加してきた印象があります。私が大学院生の頃はまだ論文の著者が「1名」つまり単著であることが珍しくなかったのですが,いまでは少数派になっているのではないでしょうか。


メリット

共著で論文を書くことのメリットはあれこれと考えることができそうです。

◎執筆のスピードアップ……手が空いた人が作業することができる,共同研究者がいるとプレッシャーになって作業が進む?
◎ストレスの低減……投稿論文に対する厳しい査読意見が返ってきても,責任が分散したり一人で抱え込まなくてよかったり
◎研究の役割分担……ひとりですべての作業を行うよりも作業を分担することで効率的に研究が進む

特に近年は論文の「数」が求められる場面が多いので(それが良いことかどうかは別にして),共著であっても論文をとにかく出版していく方向へと進みがちではないでしょうか。

さらに大規模化

そして近年,多くの国の研究者が数多く参加する世界規模の調査プロジェクトがいくつも立ち上がり,論文の著者数はますます増える傾向も見られます。私自身も日本で調査を行う協力をして,数十人の著者に名前を連ねたことがあったりするのですが……。コロナウィルス感染症が広がってからさらに,世界中でそのような国際共同研究プロジェクトが行われています。

そういうときに注意することは何かあるのでしょうか。

著者が多いときのガイド

というわけで,「数多くの著者がいるときに気をつけるべきこと」についてまとめられた記事を見つけましたので,ちょっと見てみましょうか。こちらの論文です(A guide for many authors: Writing manuscripts in large collaborations)。

5つのポイント

この記事の中では5つのポイントが挙げられていますので,順に見ていきましょう。

研究チーム構成の方法

大きな研究チームを作るときに,どのような方法を取るものなのでしょうか。過去に学会であった研究者に声をかける?学会を通じて?SNSで呼びかける?さまざまな方法があります。

複数の研究者で研究を勧めるときのメリットは,「多様性」にあります。できるだけ多様なスキル,多様な関心,多様な地理的な分布を含んだチームを作ることで,研究に広がりをもたせるというわけです。研究チームの多様性は,論文原稿の質にも影響する可能性があるそうです。

ただし論文の執筆者とするためには,研究デザインを考えることに関与すること,データ収集にかかわること,分析や解釈に貢献すること,実際に執筆することなどの貢献をしていることが必要になります。あまりに人数が多くなると,何もしていない著者が出てくる可能性があるので注意が必要です。

貢献内容の把握

著者が多くなってきたとき,それぞれの研究者の貢献内容の把握をすることが重要になります。これが共同研究におけるひとつの問題につながります。少人数の論文の場合には,貢献度の順番に著者を並べたりすることで,各研究者のその研究に対する貢献度を明確にすることができますが,多人数になるとどの順番で並べても問題が発生してくる可能性があります。しかし,貢献度を自己報告するということも難しい問題です。「やった」「やっていない」と各研究者が主張しはじめるのもあつれきのもとです。

とにかく,研究プロジェクトの中で一貫していない貢献度の判断や著者順の判断をしないことが重要です。これも,研究分野や国,文化によって異なる可能性が十分にあります。いや,本当にトラブルの元なので慎重に。

本当は,共同研究を始めるときに契約書を交わすとよいのですが,それもまた面倒ですし時間がかかり,避けようとすることも多そうです。でもとにかく,中心的に研究を行っている研究者が,このチームではこのようなオーサーシップ(著者に含めるか,その順番をどうするか)で研究を進めるということを説明しておくのがいちばんではないでしょうか。

コミュニケーションが大切

大規模な研究には,専門領域が違う研究者が参加する可能性が大きいですし,研究者個人の背景や組織,国,文化も違ってきます。大きな規模の研究になると,自分自身がどのように研究に貢献しているのか,していくつもりなのかもよくわからないままに研究が進んでいく,ということも起こりがちです。

大規模なプロジェクトになるほど,できれば文章で多くの情報を明確に伝えることを頻繁に行うことが大切だと書かれています。

具体的な論文執筆の段階では,近年はファイルの共有や共同編集を行うこともできるようになっていますので,便利なシステムを活用していくこともこれからはますます必要とされそうです。

資料の整理

多くの著者が参加する研究を行うときには,資料もぼう大なものになっていきます。効率よく論文を書いていくためには,資料をうまく整理して,アクセスできるような状態にしておくことが大切ですね。

ある程度きまった部分の文章を残しておくことも,論文の執筆を効率化します。どこの国で何人のデータが得られていて,基本的な人々の特徴がどんなものなのかという情報も必要ですし,そもそも執筆者に名を連ねる人々の名前や所属,研究者番号(ORCIDとか)なども必要になります。

誰が文章を書いても大丈夫なように,うまく資料は整理したいものです……が,これもなかなか面倒で,つい後回しになってしまう部分でもあります。

意思決定

積極的に研究に参加する研究者が増えるほど,原稿の内容やどこに投稿するか,誰が書くかなどについて意見が対立する可能性が高くなっていきます。もしかすると全員を満足させるような解決策がない……という状態に陥ってしまうかもしれません。その一方で,恣意的な意思決定でどんどん研究が進んでしまうことも避けなければいけません。

大きなプロジェクトを統括する個人あるいはチームの重要性が,このあたりにありそうです。できるだけ素早く,よい意思決定を行っていくことが大切です。メンバーに意見をつねることは必要最小限に留めて,的確な判断を下しつつ,意思決定の透明性を高めていく……などでしょうか。

どこでも同じ

このように見てくると,社会のいたるところで同じようなことが言えそうです。研究も特殊な行為というわけではなく,グループワークという点では,気をつけるところは企業などと同じと考えてよさそうです。

多数の研究者が参加する研究プロジェクトは,やはり個人の研究では得られないようなデータが得られたり,研究の内容に十分な議論が行われたりする傾向があるので,やはり質が高い傾向があるようです。今後心理学の分野では,ますます大規模で多様な調査・実験が行われていくでしょうから,多数の著者による研究も一般的なものになっていくだろうという文章で,この記事は閉じられています。

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