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研究者RPG(4):一流研究者たちの被引用回数

これまで3回にかけて,研究者にまつかわる数字の話をしてきました。今回はその続きです。

これまで数回にわたって,私の研究分野の研究者が就職する頃や,キャリアを上がっていくときに,Google Scholarでどのくらいの被引用回数に至っているかを見てきました。

今回はもっとキャリアを積むと,どうなっていくかを見てみたいと思います。

前回も言いましたが,あくまでもこれは私が見ている範囲の数字であり,心理学の中でも分野が違えば目安となる数字はまったく異なってきます。さらに言えば,例外も多々あります。必ずこのような数字になるわけではありません。心理学以外の学問分野であれば,さらに数字は違ってきますので,そこはご了承ください。

過去の記事

研究者RPG(1):研究者の評価
研究者RPG(2):論文の被引用回数について
研究者RPG(3):就職するための被引用回数

目次

・被引用回数が3万を超える
・ネットの世界のよう
・被引用回数5万以上
・被引用回数10万以上
・あの伝説の研究者は?
・最後に

被引用回数が3万を超える

前回の最後に,論文の総被引用回数が1万を超える研究者たちを紹介しました。

そして次のランクは被引用回数が3万を超えてきます。数字だけ見ていると本当にドラゴンボールみたいです。

このあたりは,中堅以降でまだまだバリバリと活躍している研究者のイメージですが,だんだん大御所に近づいていきます。このあたり,年代的には私と同じかもう少し年上くらいかなあ,と思います。ただし年齢は近くても,とても追いつこうと思って追いつける数字ではありません。

たとえば,特別研究期間中にテキサス大学でお世話になったゴズリングです。論文数は200本程度,h指標は60を超えていて,i10指標は110を超えています。総被引用数は35000以上。さらに,昨年1年間で5000回以上,論文が引用されています。自分で論文を書いていなくても毎年5千回,色々な論文で名前が書かれているというわけです(まさにアクセスの多いブログ記事を大量にストックしているブロガーみたいじゃないですか)。

このレベルになると,勝手に名声が雪だるま式に高まっていくという印象があります。一番上の記事はM-Turk(amazonがやっている仕事依頼システム)を使って調査をすることの是非を書いた論文,2番目は10項目でビッグ・ファイブ・パーソナリティを測定する尺度を作成した(共同研究者と私が日本語版を作ったもとの)論文です。

研究の一部について知りたい方は,ゴズリングの訳本がありますのでどうぞ。


次はゴズリングの親友,ニューヨーク大学のジョストです。社会心理学や政治科学の研究で知られています。ゴズリングは週末テキサスからニューヨークに飛び,ジョストの誕生日パーティに参加して週初めにテキサスに帰ってきたりしていました。ジョストの論文数は300本以上,被引用数は3万を超えています。


もうすぐ3万をこえるな,という研究者がセディキデスです(今のペースであれば今年中か来年に超えます)。自己評価の研究でも知られていますが,最近ではノスタルジア(過去に対してなつかしいと感じるノスタルジックな感覚)の研究でも知られています。Google Scholarに出てくる記事の数が500本を超えるという恐ろしい数字になっていまして,i10指標も約270と,名前の通りコンスタントにヒットを飛ばす研究者だという印象です(ここが笑うポイントです)。


次は日本パーソナリティ心理学会で講演をしてもらったこともあるロバーツです。ビッグ・ファイブのひとつ勤勉性の研究や,パーソナリティの安定性,パーソナリティ発達の研究でも知られています。論文数は250本くらい,被引用数は33000以上です。論文は昨年1年間で4000回以上,引用されています。


つぎはロビンスです。自尊感情やその発達の研究で知られています。最初に出てくるいちばん被引用回数の多い記事はハンドブックの1章です(指導教員との共著)。論文数は250本以上,総被引用数は4万以上になります。数字を見るだけでクラクラしてきますね。


それから,今年(2018年)の東北大学で開かれる第82回日本心理学会招待講演者でもある大石先生です。被引用回数は4万を超えています。この研究者たちに並ぶのですから,本当にすごいです。

大石先生の著書はこちらです。

どうでしょう。こうなると,講演者の話を聞きながら,ドラゴンボールのスカウターのようにGoogle Scholarを開いて相手のステイタスを確認する,みたいなことになったりしますよね。

研究者の戦闘力を確認しているみたいです。

実際,話を聞いている人たちがノートパソコンを開きながら講演者の業績や論文を確認している様子は,しばしば目にする光景です。学会会場では,スマホやパソコンがスカウター代わりなのです。

ネットの世界のよう

こういう数字を見るとネットの世界のようですよね。

たまにブログ記事がバズるように,論文にも「あたり」(多くの研究者に読まれること)が出るのです。自分では良いと思う論文が意外と引用されなかったり,思わぬ論文がよく引用されるようになったりと,予測が外れることもある点もネットの世界によく似ています。

もちろん,競争が激しくて世界中で先手争いをしているような研究分野であれば,「今この論文を出せば確実に多くの研究者が引用する」ということもあるでしょう。でも心理学では,そこまでのことはほとんどありません。それぞれの研究者は自分の興味関心にもとづいて研究を進め,そのうちの一部が注目を集めていくのです。

さて,さらに数字を見ていきましょう。だんだん近寄りがたい存在の研究者に近づいてきます。

被引用回数5万以上

どうしても,研究者としての世代の問題はあると思うのです。

現在のように研究雑誌がどんどん増加し,出版ペースもどんどん速くなり,若い研究者が職を得るために必要な研究業績数もどんどん増加し,職を得ても激しい競争の中で勝ち残っていかなければならない,という状況になったのは,本当にこの20年くらいではないかと思うからです。論文数競争の拡大は,研究者のゲームの形式を変えてしまいました

そういう意味で,以前から活躍している研究者を現在の基準で評価するのは酷な話です。

でもその中でも,被引用回数の多いすごい研究者というのは出てくるものです。

たとえば同じく特別研究期間中にテキサス大学で話をさせてもらったペネベーカーです。1950年生まれ。テキストや言語の分析で,世界中で名が知られています。名前が載っている文献数は実に450本以上,総被引用回数は7万に手が届こうかとしています。年間5000回以上引用されていますので,それは確実ですね。

ペネベーカーの著書は,日本語訳も出ています。

次はUCバークレーのオリヴァー・ジョンです。1959年生まれ。ビッグ・ファイブ研究では欠かせない研究者で,学会に顔を出すとまわりを挨拶にくる研究者たちに取り囲まれてなかなか近づけないくらいです。論文数は実はそれほど多くなくて,200本を超える程度です。でも,総被引用回数は7万回近い値で,被引用回数上位の文献の引用されぐあいがすごいことになっています。

それにこの研究室からは,ロビンスにロバーツに,ゴズリングにスリヴァスタヴァにソトーと,現在のパーソナリティ心理学を牽引するそうそうたるメンバーが輩出されています。弟子を育てるという意味でも優れた研究者なのかもしれません。

さて,まだまだ続きます。アニメや漫画の世界も「ここまで強くなっていくの?」とエスカレートしていきますからね。それと同じです(?)

次の記事に続く。

研究者RPG(5):伝説的研究者の被引用回数

また,この記事はシリーズになっています。以下の記事もどうぞ。

研究者RPG(1):研究者の評価
研究者RPG(2):論文の被引用回数について
研究者RPG(3):就職するための被引用回数
研究者RPG(4):一流研究者たちの被引用回数
研究者RPG(5):伝説的研究者の被引用回数
研究者RPG(6):すごい研究者の日々

最後に

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