
ナルシスティックな社長は情報を誇張して開示しがち?
情報の透明性は,年々重要視されるようになってきています。おそらく20世紀末にインターネットが普及して以降,ますます重視されるようになったのではないでしょうか。企業の社会的責任が重視されるようになったり,コーポレートガバナンスが強化されるようになると,ますます情報の透明性が叫ばれるようになっていきます。
財務情報の開示
研究の中では,財務情報の開示に対してどのような態度をもつかという点が,多くの研究で取り上げられてきたそうです。これまでの研究では,財務実績が良好な企業は,財務開示の説明により前向きなトーンを示すという傾向が示されるようです。財務実績が良好なら当たり前のようにも思えますが,これは経営者とステークホルダーとの間とのコミュニケーションのあり方だとも考えられます。
性格
しかし,財務パフォーマンスが良好だと,つねに財務情報を開示していこうとする動きへとつながるわけでもないようです。そこで,最高経営責任者(CEO)のパーソナリティ特性に注目してはどうかというアイデアが出てきます。
このような働きを説明する理論やモデルは考えられるのでしょうか。
◎上位層理論:企業上層の経営陣のパーソナリティ,価値観,心理的特徴,経験は,組織の戦略や方針,選択,慣行に影響を与える
◎拡張エージェンシー・モデル:ナルシシズムを,自己価値の維持と強化を目的とした行動に基づいて理解しようとするモデル
ナルシシズム
ナルシシズムは,自分自身に対する誇張された認識,支配性,攻撃性,傲慢な態度,高い自尊感情,搾取性,特権意識などの特性を含む複雑なパーソナリティ特性を指します。よりナルシスティックな人ほど,ポジティブな自己イメージをもち,自分のパフォーマンスについてよりポジティブな自己評価を下し,自分の知性や外見をよりポジティブに捉える傾向があります。
拡張エージェンシーモデルによれば,ナルシシズムは成功を収めたいという願望に関連します。財務報告に関する過去の研究では,ナルシスティックなCEOは,企業の財務開示にポジティブな態度を示す傾向にあることが示唆されているようです。いわば「誇張」した開示を示す傾向があるとも考えられます。
自己宣伝
財務的な業績は,CEOが自分自身のリーダーシップを評価する情報を提供することにもなります。業績の悪化あるいは改善を報告することは,リーダーとしての失敗や成功のイメージを強烈に与えます。したがって,自己愛的なCEOの壮大なイメージと一致しないあるいは一致する行動へとつながっていきます。
結果として,自己顕示欲求が強いナルシスティックなCEOの場合には,自社の業績が不調なときに,業績を誇張して示そうとすると考えられます。
ナルシシズムが,企業の業績と財務開示の傾向との間の関連に影響する効果をもつのではないかという点を検討した研究が行われています。こちらの論文を見てみましょう(Financial performance and tone of financial disclosures: The moderating effect of CEO narcissism)。
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