寄生虫の感染で性格は変わる?
最近,トキソプラズマに感染した人は企業志向が強い?という記事がニュースになっていました。
トキソプラズマというのは寄生性原生生物(原虫)と呼ばれる,いわば寄生虫が感染する感染症のことです。世界的に見ると全人類の3分の1以上が感染していると言われています。とても多くの人間が感染しているということです。
通常は感染しても免疫によって症状は何も出ないか,軽い症状が出た後で収まりますが,生涯にわたって体の中でこの原虫が生き続けることになるそうです。しかし女性が感染すると死産や流産だけでなく,子どもに問題が生じる場合もありますので注意が必要です。
こういうことのために,妊婦はネコと接触しないように,とかせめてネコのトイレの掃除をしない,必要なときには手袋をつけるように,また生肉を食べないように,などと注意されます。
このような感染によって,人間の行動(やそのパターン,価値観や性格)は影響を受けるのでしょうか。
感染経路
トキソプラズマは,ネコ科の動物の腸の中だけで有性生殖ができます。しかし,無性生殖はすべての温血動物の体内で可能なのだそうです。
我々人類も含め,ネコ科ではない動物のことを中間宿主といいます。トキソプラズマにとっては,途中の宿を借りてとどまっているような状態です。
そしてトキソプラズマたちは有性生殖をするために,紆余曲折を経ながらも,なんとかネコ科動物の体内に入り込もうとするのです。
ネコは,ネズミや鳥など小動物を食べます。もしもその小動物がトキソプラズマの中間宿主であれば,トキソプラズマはネコの体の中に入りこむことに成功するというわけです。
人間への感染
トキソプラズマは人間へどうやって感染するのでしょうか。
ひとつは加熱が不十分な肉を食べることです。日本では特に豚肉の加熱不十分が問題にされてきたようですが,基本的にすべての肉の加熱不十分が問題になるようです。なぜなら,トキソプラズマはすべての温血動物に感染する可能性があるからです。
あとは水を経由することや,ネコの糞便,またそこから土などを経由して感染する可能性があるようです。生水をそのまま飲むことはやはり感染の確率を上げることにつながりそうですね。
ネズミの行動を変える
トキソプラズマに感染すると,ネズミの行動が変わるようです。
中間宿主であるネズミの体の中で免疫によってトキソプラズマの活動が抑制されると,体の中で組織シストと呼ばれる形でとどまります。そしてその組織シストが多くとどまる場所というのが脳内なのだそうです。
組織シストが特定の神経細胞にとどまると,神経伝達物質の一つであるドーパミンが多く産出されるそうです。ドーパミンは快楽や報酬,動機づけなどに関与することが知られています。
結果的に,トキソプラズマの組織シストをもつネズミは,本来抑制されるべきネコの尿へ近づくなどの行動をとりやすくなると言われています。ほんの少しネコに近づきやすくなり,恐怖心が失われ,トキソプラズマにとっては有利なことですがネズミにとっては不幸なことに,そのネズミはネコに捕食されやすくなるというわけです。
(ただし,本当にトキソプラズマに感染したネズミがドーパミン分泌量が多くなるかどうかはまだわかっていないそうです)
チンパンジーも変わる?
トキソプラズマに感染したチンパンジーは,感染していないチンパンジーよりもネコ科の動物の尿の匂いに対する嫌悪感を失わせるという研究があります。
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