
アルツハイマー病患者の思い出に見られる特徴
アルツハイマー病は,不可逆的な疾患です。つまり,基本的に元の状態に戻ることがないと考えられる,進行性の病気です。この病気に罹患すると,思考や記憶が徐々に障害されていきます。最終的には,日常生活の大部分をうまく行うことができなくなっていってしまいます。
アプローチ
アルツハイマー病に対する計量的なアプローチでは,単語リストのなかで忘れてしまった数など,患者が忘れる可能性のある情報量を評価することが行われています。一方で,質的なアプローチも行われています。これは,アルツハイマー病患者における記憶や記憶障害の機能の特徴に焦点が当てられます。
質的で定性的なアプローチでは,患者の特定の自伝的記憶つまり時間や空間に特定される各自の個人的な出来事にどれくらいアクセスできるのかという観点や,患者が自分のライフストーリーを構築し,自己意識を支えるため特定の自伝的記憶を検索するのにどのくらい苦労するかなどに焦点が当てられます。
自伝的記憶
自伝的記憶については,面接をおこなうなかでその内容を記録して評価する手法が開発されています。
アルツハイマー病患者については,自伝的過剰性と呼ばれる,特定の自伝的記憶よりも一般的な記憶を検索する傾向が認められると言われているそうです。たとえば,患者に「家族」「学校」といった単語を手がかりとした記憶を想起させると,「あのときにあの場所で経験した」と感じるよりも「以前にも経験したことがある」という感覚を伴って記憶が思い起こされる現象です。これは,情報検索時の主観的な体験の低下や,過去を追体験することの困難さに関係すると考えられています。
その他についても,アルツハイマー病患者の自伝的記憶の特徴について検討した研究があります。どのような結果が報告されているのでしょうか。こちらの論文を見てみましょう(Does Sex Matter? High Semantic Autobiographical Retrieval in Women and Men With Alzheimer’s Disease)。
ここから先は

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?