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顔で心はわかるものなのか

「顔を見れば,性格も能力も,何に向いているのかもわかる」ということは,たまに話題になります。みなさんはどう思いますか?

今回は,そういった考え方に一定の回答を与える,この本を紹介したいと思います。『第一印象の科学:なぜヒトは顔に惑わされてしまうのか』(アレクサンダー・トドロフ著,みすず書房)です。

基本的なこと

先に答えを行ってしまいますが,大前提として,顔については次のことを言うことができます。

A. 人々は顔を見ると,自動的に何らかの印象を受ける。かつ,その印象は複数の人々の間である程度,共通したものになる傾向がある。
B. 人々が共通して受ける印象は,その人自身の心理的な特性とはほとんど関係しない。

この2点が,大前提です。

自動的に印象を抱く

まず,私たちは誰かの顔を見ると,ほぼ自動的に非常に素早く,何らかの印象を受けます。「信頼できそう」「怖そう」「力が強そう」「やさしそう」……などなど。しかもその印象は,複数の人が同じ顔を見たときに,共通して感じる傾向があります。

となると,あたかも「その印象が真実なのではないか」と思ってしまいがちなのですが,ところがそうではないのです。実際に,対象となった顔の持ち主について調べてみると,人々が共通して抱く印象というのは,その当人の実際の特徴とはほとんど関連がありません

つまり私たちは,誰かの顔を見ると,何かの印象を「その人とは無関係に」抱いてしまいがちなのです。これが,顔の研究を行うときの非常に大きな謎であり(どうして私たちは勝手にそんな印象を抱いてしまうのか),社会的にも影響が強く(顔だけで成功・不成功に結びついてしまうかもしれない),心理学の研究からしても面白い観点なのです。

正しいと言えるのか

本の中でも,次のように結論づけられています。

性的指向や政治志向,欺瞞行為や攻撃的行為といった複数の領域全体を通して,人の印象が正確だというエビデンスはほとんど得られていない。(p.223)

となると,「顔を見れば何でもわかる」と主張する説は,どうも割り引いて考えたほうがよさそうですよね。

どうして?

私たちが顔から勝手な印象を抱いてしまう理由には,さまざまなことがありそうです。経験から誤って学んでしまうのか,もしかしたら進化的に身に着けてきた判断方法なのかもしれません。

勝手に顔を判断することで,効率的に生き延びてきたのが私たちだとも言えます。

フィードバック不足

どうして私たちは顔を見ただけで印象を抱いて勝手な印象を抱き,かつそれを信じてしまうのでしょうか。それは,確かめる手段を持たないからです。

だが,もう一つの答えは,自分の印象が正しいかどうかに関する明確なフィードバックを手にする機会がほとんどないという事実にある。愛想が悪いとみなした相手が,本当に愛想が悪いのかどうかを見極める機会はほとんどないだろう。相手の愛想が悪いといったん決めてしまったら,その相手に近づく必要はなくなる。楽しく話しかけられる人は,ほかにたくさんいるのだから。さらに,特定の状況にいる人物の行動は正しく予測できても,その人物について完全に思い違いをしてしまう,ということもありうる。(p.223)

この,フィードバックのシステムがないことで正確性に欠けるけれども強く信じてしまっていること,というのは実はとても多く存在しています。なかなか嘘を見破ることができないのも,話をしていていちいち「今のウソでしょ」と確認することができないからです。

本の中に多数の実験結果が照会されています。どれも本当に面白い研究ばかりですので,ぜひ手に取って読んでもらえればと思います。

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