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就職面接の決め手は何?

ノーベル経済学賞を受賞した心理学者(あえて心理学者)の,ダニエル・カーネマンも本の中で書いていましたが,面接試験というのはなかなかやっかいなものです。

面接をすると,「相手のことがよく分かる」という実感がとてもよく得られるのですよね。「その人のことを知るには,実際に会ってみることが一番だ」と思うのです。そこには一定の事実はあるのだと思うのですが,過信は禁物です。

面接もテスト

面接も一種の「テスト」です。それは,学力試験や性格検査や知能検査と同じように考えることができるものです。これらはどれも,「何かの基準で人を選ぶために使うもの」だからです。

そうであるならば,面接がどれくらい適切であるかを評価するということも時には必要になるでしょうという話になります。「わかるでしょう」と当たり前のように思っていても,「それは本当?」と一度は確かめてみるのが重要です。

面接で伝わるのか

本人がもっている特徴が面接で相手に伝わるのか,という研究をしたのがこの論文(Nonverbal Cues in the Employment Interview: Links Between Applicant Qualities and Interviewer Judgments)です。1980年代ですのでずいぶん昔の研究なのですが,この研究で使われている方法は,今の研究でも使われる画期的なものです。

38名の応募者(男性7名,女性31名)が,新聞記事を見て研究補助のパートタイムの仕事に応募してきました。年齢は18歳から67歳まで,教育や仕事の経験はさまざまでした。なおこのうち,ビデオ録画の失敗や面接者と知り合いだったりした4名のデータは省かれました。

応募者は,仕事への動機づけと社会的スキルの尺度に回答します。この2つは,応募者に必要とされる心理的な特性であり,研究補助者としても必要とされることから選択されました。

また,面接の様子を録画したビデオテープの映像を見て,18名が応募者の特徴を判断しました。彼らは,数年間,面接のトレーニングや経験がある人びとでした。そして,映像を見て応募者の仕事への動機づけと社会的スキルの程度を評価します。

応募者の非言語的な行動のなかで,次の内容が記録されています。「微笑み」「ジェスチャー」「話をする時間」「顔の注視(インタビュアーの顔を見る程度)」「体の傾き」「自分の体に触れること」「ものに触れること」です。また,静的な特徴として,応募者の「身体的魅力」「服装のフォーマルさ」「性別」「年齢」についても得点化されました。

このようなデータを得ることで,応募者の動機づけと社会的スキル,行動や行動の結果,そしてそれらを見て第三者が判断した応募者の動機づけと社会的スキルという情報が得られたというわけです。行動や行動の結果がキュー(手がかり)となって,それを見ただけでどれくらい応募者の特徴がわかるのか,というのがこの研究で検討するポイントです。

動機づけは何から伝わるのか

さて,動機づけはどのような特徴を通じて伝わるのでしょうか。

応募者の動機づけが高くなるほど,面接中に体が前のめりに傾き,よりフォーマルな服装を身につけてきて,男性である傾向が見られたという結果になりました。

その一方で,これらの目に見える特徴(体の傾き,服装,性別)は,第三者の動機づけの判断にはまったく関連しませんでした。第三者は,より笑顔が多く,ジェスチャーが大きく,話をする時間が多い応募者ほど「動機づけが高い」と判断したのです。

応募者自身の動機づけからつながる目に見える行動や行動の結果と,第三者が「動機づけが高い」と判断する行動とはまったく関連がなかったのですから,第三者が応募者の行動だけを見て「この人は動機づけが高い」と思っても,ほとんど正しいとはいえない,という結果になったというわけです。

社会的スキルは何から伝わるのか

では,社会的スキルは何を通じて伝わるのでしょうか。

社会的スキルの高い応募者ほど,大きくジェスチャーをし,話をする時間が長く,よりフォーマルな服装をし,男性で年齢が高くなる傾向が見られました。

そして第三者の観察者は,ジェスチャーが大きく話をする時間が長く,よりフォーマルな服装を着ている応募者を「社会的スキルが高い」と判断したという結果になりました。

社会的スキルに関しては,ジェスチャー,話す時間,服装の3つの観点を通じて,実際の応募者の特徴が第三者に伝わる可能性があるというわけです。この点で,仕事への動機づけよりも,周囲に伝わりやすい特徴だといえそうです。

面接の難しさ

この研究は今から随分昔の,カナダで行われたものですから,そのまま今の日本に当てはめるのは難しいかもしれません。しかし,この研究結果は面接で応募者を判断することの難しさを示しています。

この研究の結果は,面接者が応募者の言動や服装を見て「この人はこういう人だろう」と思ったとしても,実際にはまったくそれが当てずっぽうになってしまう可能性を表しているのです。

面接も,一種の「テスト」です。そしてテストである以上,そのテストが妥当かどうかを検証しておく必要があります。面接にやってきた応募者の何を見たら何が分かるのか,多くの面接をおこなう企業や学校であれば,そういうことをしっかりと検討しておきたいですね。

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