見出し画像

タイプAとタイプBとタバコ会社の研究資金

世の中には「動いていないと死んでしまう」という言葉で表すことができるようなタイプの人がいるようです。常に何かに熱中したり,何か取り組むことを見つけようとしたり,せかせかと動き回っているような人です。

周りに思い浮かぶ人も多いのではないでしょうか。もしかして,あなた自身がそういう傾向の持ち主でしょうか。


特徴的な行動

心理学で「タイプA」と「タイプB」というとき,それは血液型のことではなくそういう名前の特徴的なパーソナリティや行動のスタイルのことを指します。

このパーソナリティ特性は,アメリカの心臓医であるFriedmanとRosenmanによって,虚血性心疾患になりやすい危険因子のひとつとして報告されたことで世界中に知られることになりました。

これはタイプA性格とか,タイプA行動パターンなどと呼ばれることもあります。

タイプAとは

タイプA性格(行動パターン)の特徴は次のようなものです。

◎時間的な切迫感や焦燥感をもつ。いつも急いで行動している。
◎ものごとに熱中しやすい。精力的に仕事に没頭する。
◎いつもイライラしている。
◎他者に敵意や攻撃性を抱きやすい。

これらの特徴のように,仕事に没頭してしまって周りが見えなくなってしまう人物像が浮かびます。

タイプBとは

「タイプB」と表現されるパーソナリティのタイプ(行動パターン)なのですが,これは「タイプAが見られないこと」として定義されるのです。

タイプAとタイプBは互いに排他的と言いますか,数直線の両極といったイメージです。「タイプ」なので,カテゴリカルに考えられているのかもしれませんが。

タイプA「ではない」特徴は,ストレスにあまりさらされない行動パターンをもっていることを意味します。ですからタイプAとは逆に,心臓疾患にはなりにくいと考えられる,ということになるわけです。

本当に予測できるのか

しかしあれこれ調べてみると,どうも一貫してタイプAが心臓疾患を予測する,というわけではなさそうなのです。上手く予測できるという研究と,できないという研究が混在しているようです。

生活習慣に関しては,タイプAは喫煙や飲酒など,心臓疾患に結びつきそうな行動に関連するようですが,よくわかっていないことも多そうです。

タバコ会社

ひとつ,面白い論文を見つけました。

「Type A Behavior Pattern and Coronary Heart Disease: Philip Morris’s “Crown Jewel”」というタイトルの論文です。論文のタイトルに「フィリップ・モリス」というタバコ会社の名前がついています。マルボロやヴァージニア・スリムなどのブランドで知られています。そして“crown jewel”は,王冠用の宝石のことですが,別の意味には「企業の収益性の高い部門」や「重要資産」という意味があります。ここがダブルクォーテーション・マークで囲まれているということは,あえてそう読まそうとしている,著者の意図が見えます。

フィリップ・モリスのマークは,二頭の馬が王冠を支えているように見えます。そこから “crown jewel” の二つの意味を導いているのでしょう。

この論文によると,タバコ会社が非常に多くの研究資金をタイプA行動パターンの研究に提供していたということです。

なぜタバコ会社がこの研究に多額の資金提供をするのでしょうか。それは,この研究がうまくいけばタバコ会社にとって,タバコが心臓疾患の直接的な原因ではないという証拠が得られる可能性があるからです。

つまり,

◎喫煙 → 心臓疾患

という直接的な影響ではなく,

◎タイプA → 心臓疾患
◎タイプA → 喫煙

というように,タイプAをもつから喫煙が多く,タイプAをもつから心臓疾患になるというプロセスが証明できるかもしれないのです。そうすれば,タバコが心臓疾患の原因であるという説を逃れることができます。だからこそ,タバコ会社がタイプAの研究に多額の資金提供をしていた可能性があるということです。

タバコ会社にとって,この結果がうまく示されれば自社にとって大きな利益につながりますので,資金提供をすることは“crown jewel”だというわけですね。

そして,もしもこういう目的の下に多額の資金提供がなされ,タバコ会社に有利になるように研究結果が歪められていくのであれば大問題です。でも,研究資金が多額になればなるほど,仮説どおりの結果を得ることへの圧力も強くなっていくと考えられます。「こんなに資金を提供したのだから,ちゃんと結果を出してもらわないと困る」というわけです。

この論文の著者は,タイプAが心臓疾患を予測したりしなかったりする一貫しない結果の背景の一部には,このようなタバコ会社の多額の資金提供がある(つまり,無理に効果があるという結果を出そうとする姿勢にある)のではないかと考察しています。

いやはや,急にきな臭い話になってきました。果たして,真実はどこにあるのでしょうか……。

資金の提供

※最後の個人的意見は有料にします

ここで疑われていることは,「こんなに多額の資金を提供したのだから,ちゃんと結果を出してもらわないと困る」という圧力です。

ここから先は

807字

【最初の月は無料です】心理学を中心とする有料noteを全て読むことができます。過去の有料記事も順次読めるようにしていく予定です。

日々是好日・心理学ノート

¥450 / 月 初月無料

【最初の月は無料です】毎日更新予定の有料記事を全て読むことができます。このマガジン購入者を対象に順次,過去の有料記事を読むことができるよう…

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?