
オーストラリアとカナダのナルシシズム
時間横断的メタ分析(cross-temporal meta-analysis)という分析手法があります。
メタ分析というのは,すでに発表されている研究の統計的な結果を統合して全体的な結論を導こうとする分析手法です。文献レビューの一種なのですが,統計的にも結論を出そうと試みる点が特徴です。
そして「時間横断的」というのは,時間を軸にして統計値を統合しようとするメタ分析の試みのことを言います。この方法を使うことで,統計的な値の「時代変化」を知ることができます。
もっとも,もちろんこういう値にはさまざまなバイアス(歪み)がつきものですので,その辺りは制限つきで解釈したりバイアスを考えた分析をしていく必要もあります。
自尊感情の時代変化
日本の自尊感情の時代変化については,取り組んだことがあります。その経緯については以前に書いたことがありますので,記事を見ていただければと思います。
自己愛の時代変化
自分に過剰な自信があって特別な人間だと思っていて,周囲の人にも自分が特別だということを認めさせたいと思っていて,特別扱いされるのが当然だと感じていて,自分のすごさをアピールする......なんだかどこかにいる偉い人の振る舞いのようですが,このような特徴を示す性格傾向を自己愛傾向とかナルシシズムと言います。
そして,時間横断的メタ分析の結果によれば,アメリカでは最近になるほど自己愛的な傾向が高まる傾向にあるそうです。その論文の著者たちが書いた「自己愛過剰社会」という本の中に,どうしてそういう傾向が強まるのかについては仮説が書かれています。
一時期の「自尊感情を高めよう」という教育のムーブメントが,自尊感情にも関連する自己愛を高めてしまったのではないかとも述べられています。
他の国は?
そういうことが示されると「じゃあ他の国はどうなの?」という疑問が出てくるものです。
残念ながら,日本では自己愛の時間横断的メタ分析はまだ行われていないのですが,オーストラリア とカナダの結果が最近報告されました。この論文です(Narcissism over time in Australia and Canada: A cross-temporal meta-analysis)。
実は,アメリカで自己愛傾向が高まっているという研究結果には疑問も出されていた,「本当に高まっているの?」という部分がはっきりとはしていないのですよね。こういう場合にも,他の国ではどうなっているのかを調べてみることが,そのヒントになります。
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