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追憶の温度

定期試験なんかで夜遅くなると、母が「おにぎり」と「味噌汁」を食卓に用意してくれた。
いわゆる夜食だ。
ぼくは割と好き嫌いがないので子どもの頃から食卓に呈されるものには何ら苦情を言うでもなく食べた。
だから他にも手間のかからないカップヌードルなんかで良かったのだけど母は毎度おにぎりだった。
中身はその時にある物で、梅干しや昆布の佃煮、たまにたらこ。
海苔がざっくり巻いてある、多少塩気の多いものだ。

閑話休題

最近「えんみ」という言葉をよく聞く。
どうやらこの「えんみ」というのは「塩味」の事らしい。
えんみと打ち込んでさっと「塩味」と変換はされてこないから、そんなに一般的ではないのだろう。
調べたら「あまみ」「さんみ」「にがみ」などに類する学術用語なのだそうだ。
まぁおじさんには耳馴染みのない言葉なので、ちょっと気になった。

承前

定期試験なんかのたまにしかない事であればこちらもそれほど気にしないが、受験なんかで長期に渡る事であると多少親に対しての遠慮みたいなものが芽生えて「カップヌードルなんかでいいよ」と言うと、母は「ああ、そう」と素っ気なく答えるが夜中に台所に行くとおにぎりが作ってあった。

ずいぶん経ってから母にこの事を聞いた。
何故ひと手間かかるおにぎりだったのか。手軽なインスタントでいいと言ったのに。
母は笑うと「ごはんが余っとったでだわさ」と言った。

我が家は保温が出来る炊飯器の導入が遅かったので、残ったごはんは冷蔵庫なんかに保存される事が多かった。
電子レンジは割と早くから導入されていたのでそれで温めて出したという事らしい。
今ならあんなにほろほろ崩れるけれどしゃんとした米のおにぎりが時間の経っている米かどうかは分かる。
何かにつけて母はそういう人だった。

朝飯を食っていて、ふと思い出した事。

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