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慟哭

名古屋にいた頃は当然だが子どもの頃から見知った土地であるから、気が向くとあちこち出掛けて写真を撮っていた。
ここに行けばこんなものがあるというのは、当たり前に知っていたから、撮るものには困らなかったように思う。
その中でも、ちょっと入場料が張るのだけど「博物館 明治村」は被写体の宝庫(ぼくにとっては)だった。
その中でも、この旧帝国ホテル玄関は好きな建物だった。

この建物の設計はフランク・ロイド・ライトだが、彼はこの帝国ホテルの完成を見なかったと聞く。
工期の度重なる延長、それに伴う施工主との衝突。
1913年の初訪日から、弟子である遠藤新によって完成するまで、実10年という月日を要している。
この仕事を請け負った時期の彼は、人生の中で最も辛い時ではなかっただろうか。
離婚問題で揉めに揉め、ようやく新妻と新しい生活を送るために建てたタリアセンで使用人が新妻、子供、弟子の 7 人を殺害し放火。
彼は出張中で難を逃れるが、何もかもを失ってしまったのである。
傷心の侭で請け負った仕事で、今度は解雇。
ぼくはこの建物を訪れるたび、一人の男の慟哭を聞くのである。

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